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そんなこんなで、「好きなことやる部」の面々は学校にほど近い公園にやってきた。理樹は、「わーい公園!」と言いながら、早速ブランコに揺られている。この公園は、子どもたちが遊ぶ遊具を一通りそろえている一方で、軽いキャッチボールくらいなら難なくできるくらいの広さを備えていた。
「でも、公園に来れば理樹先輩や頼先輩のチカラが増幅しても大丈夫かもしれないですけど、透留先輩と真尋先輩にはあんま関係ないですよね」
柊太は、公園に来る提案があってからずっと考えていたことを透留と真尋に投げかける。すると透留は、
「まぁね~。でも、柊太くんのチカラが目に見える形でわかると、楽しいじゃない?僕の検証は、その後でも十分だよ」
とあっけらかんと答えた。続いて真尋が、
「俺のチカラはお前に増幅されたらたまったもんじゃないからな。お前、俺に絶対触るんじゃないぞ」
と釘を刺す。
「はい、それはもう!」
柊太は、何となく真尋には逆らえないことをここ数日で察知しているので、若干大げさにそう答える。
しかし、真尋のさっきの言葉を聞いて、柊太にある疑問が浮かんだ。
「じゃあ、真尋先輩は『好きなことやる部』でも好きなことできてないんですよね?チカラ使ったら自分の思考が伝わるだけでデメリットしかないし。何でここに入ったんですか?」
「……」
無邪気に質問する柊太に、真尋はふと言葉を詰まらせる。
柊太は、真尋の言葉が紡がれるのを待った――振りをして、実は真尋の顔をまじまじと眺めていた。
(やっぱ、きれーな人だよな……)
真尋が黙っているのをいいことに、柊太の胸がとくん、と鳴り始めたところで、
「おーい柊太、始めっぞー!」
と頼の声が少し遠くで響く。
その声に弾かれるように、柊太は「はーい」と声を返して、かすかに早まった鼓動を振り払うべく、頼と理樹のもとに走っていった。
その柊太の後姿を見ながら、透留は近くのベンチに腰掛けた。そして真尋に、
「柊太くんになら、話してもいいんじゃない?」
と言う。すると真尋は、透留の隣に腰掛けながらぼそっと呟いた。
「……別に話す必要はない」
「そんなに肩肘張ることないのになぁ。柊太くんは、きっと君のいい理解者になってくれると思うよ」
透留がそう言うと、真尋は透留の方に顔を向けて、
「それ、お前の予知能力じゃないよな?お前、1分先のことしか読めないんだから」
と核心を突く。
図星を刺された透留は、それでも悪びれる様子なく、
「ばれたー?ふふ、これは予知じゃなくて、勘」
と笑ってみせた。
「全く、使えない予知能力だな」
真尋は、さっきまでの仏頂面を少しだけ緩めてふっ、とわずかに笑顔になる。
そんな会話がベンチで交わされているとも知らず、柊太を媒体とした理樹と頼のコントロール特訓は続いていた。
「おい柊太、こんなんでへばってんじゃねぇぞ!もう1回だ!」
「ち、ちょっと待ってください頼先輩!おれ、何回感電させられたらいいんですか!?」
「そんなの、オレがちゃんとチカラをコントロールできるようになるまでに決まってんだろ!」
「勘弁してくださいよー!おれの体が持ちません!だったら、理樹先輩に浮かされる方がいいです!」
「やっぱりそうだよねー!じゃあ柊ちゃん、今度はぼくの相手してよ!」
「わっ!?ちょっと理樹先輩、チカラでおれの体振り回すのやめてください!縄跳びじゃないんですから!」
「あっれー、おっかしいなぁ。柊ちゃんの方にばっかりチカラがいって、肝心のシーソーが動かせないよー」
見たところ、特訓は難航しているようである。そして、いったん理樹と頼が柊太を解放すると、柊太は1人でぜぇ、ぜぇと息を上げた。
「な、何でおれがこんな目に……」
「うーん、何か絶対コツがあると思うんだけどなー」
理樹は、こめかみに人差し指を当てて困ったように考え込む。頼も、
「何でこううまくいかねぇんだ……。ちゃんと、柊太の方にチカラがいかねぇように意識してるはずなんだけどな」
と、腕を組んで顔をしかめる。
「意識だけじゃダメってことだよねぇ……」
理樹と頼は、完全に打つ手に詰んでしまっている。しかし、当然柊太が的確なアドバイスなどできるわけがなかった。
「おれが何とかできれば、これ終わりますかね……」
2人に散々振り回されて疲弊している柊太は、この状況を少しでも早く終わらせたいと思っていた。今の状況は、柊太が嫌いな面倒なことに他ならない。
しかし、真剣に頭を抱えている理樹と頼を見ると、少しくらいなら力になってもいいかもな、という気持ちも芽生えつつあった。
「……それだよ」
不意に、頼がひらめいたように声を上げる。
「え、それって?」
頼の言葉に理樹が聞き返すと、頼は鼻息を荒らげて柊太に迫った。
「お前!柊太側から何かしらのチカラが働けばいいんじゃね?」
「お、おれからですか?」
柊太は、あまりの頼の勢いに押されながら自分を指さす。すると理樹も、
「そっかぁ。柊ちゃんがコントロールしてくれるっていう発想はなかったね!」
と目を輝かせた。しかし、柊太は自分に特別なチカラがあることに未だにピンときていないため、自分がコントロールすると言われても戸惑うほかない。
「そりゃ、おれが何とかできればって言いましたけど、実際に何とかできるわけじゃないですから!」
「やってみなきゃわかんないじゃん!ね、やろうよ柊ちゃん!」
理樹は、さっきまで沈んでいた表情からぱぁっ、と花を咲かせるように明るくなり、柊太の腕を引っ張った。すると案の定、柊太の体はまたふわりと空に浮く。
「もう、理樹先輩!」
「ちょっとは学習しろよ理樹」
頼がため息をつくと、理樹は「へへ、ごっめーん」と舌を出した。
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