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超能力とかいう非日常に遭遇したとはいえ、柊太の気持ちはこの状況に少しなじんできた。そこで、柊太は次の疑問を投げかけた。
「じゃあ、さっき言ってた共鳴っていうのは?」
すると、答えてくれたのは頼だ。
「オレたちみたいな超能力者は、集まると特殊な気配が大きくなるから、集団同士が近づくと共鳴を起こすことがあるらしいんだよ。お前もしかして、オレたちが集まった気に対抗できるぐらい何かすごいチカラ持ってるとかじゃねぇ?」
頼がそう柊太に問いかけるものの、当然柊太に思い当たる節は1つもない。
「そんなの、おれにはないですよ」
「でも、ぼくたちの力を増幅させるチカラは持ってるよね?」
理樹が言うのは、さっき頼に掴まれたときに柊太が軽く感電したことや、理樹に押されたときに浮いてしまったことを指すと思われる。
「だから、そんなのあるわけないですって。おれはごく普通の人間で」
これまで特に突出するものなく平凡に生きてきた自分が、そんな強大なチカラなど持っているわけがない、と思っている柊太は、理樹に対してそう答えるしかなかった。
すると、透留が何かに気付いたように声のトーンを上げた。
「じゃあ、僕たちみたいなチカラはないけど、チカラを増幅させる媒体みたいなチカラが人より強いってことなのかな?」
「は?媒体?どういうことですか?」
さっきからそんなチカラはないと言っているのに、なぜこの人たちは引き下がってくれないんだろう、と柊太は少し困ったように眉をひそめる。
「実際に、頼や理樹のチカラは普段より強くなったんだろう?」
真尋が頼と理樹に聞くと、2人は口々に答える。
「おう、オレが人に触ったぐらいで不意に感電させるなんて、今までなかったからな」
「この人の背中に触ったとたん浮くんだもん。チカラの制御も利かなかったし、人なんて浮かせたことないからびっくりしちゃったよー」
「触ったら、か……」
そう言って真尋は、緩く握った拳の人差し指を自分の唇に当てて考え込む。
その仕草を目にした柊太は、胸に何か不思議な感覚が駆け抜けるのを感じた。
(何か……。あの人の仕草って1つ1つ……何ていうか)
色っぽい、と思ってしまったところで、柊太は慌てて首を横に振る。
(な、何考えてんだ俺、男の人だぞ?)
「もしかすると、彼が僕たちに触れたときにチカラが増幅するのかもね~」
そう言う透留の声は、真尋の仕草に変に気持ちがざわめいた柊太を治めるように、のんびりと響く。
「そっか!ねぇねぇ、君、名前は?」
突然、理樹は柊太にそう問いかけた。そういえば、ここまでやりとりをしていたのに、自己紹介がまだできていないことに柊太は気付く。
「あ、申し遅れました。多賀谷 柊太です」
柊太が名乗ると、理樹はぱぁっ、と明るい笑顔を柊太に向けた。
「柊ちゃん!ねぇ、ちょっと腕掴ませてもらってもいい?」
柊太をいきなり“ちゃん”付けで呼ぶや否や、理樹は柊太の腕をぎゅっと掴んで、逆の手を机に置いてあるオセロ盤の方に向けた。その拍子に、柊太の体はふわり、と浮く。
「ち、ちょっと!おれ浮いてるんですけど!」
そんな柊太の訴えに、理樹は全く耳を貸さない。
「はぁぁ……っ」
理樹が声をかけると同時に、オセロ盤は机からすっ、と浮き上がった。そして、次の瞬間には天井まで猛スピードで飛んで行ってバン!と叩きつけられ、オセロ石がカシャン、と散らかっていく。
「え、何これすごい……。こんなのぼく、今までできなかったよ!」
理樹が興奮気味にそう言うと、
「おい、次はオレだ。柊太って言ったな、ちょっと手貸せ」
次にそう言ったのは頼だ。しかし、柊太はさっき頼に掴まれたときのビリビリした感触を忘れているわけではない。
「嫌ですよ、あなた電気放つんでしょ?おれが感電しちゃうじゃないですか!」
「あーそっか。ちょっとだけ、ちょっとだけ我慢してくれればいいから!」
顔をしかめる柊太をよそに、頼は顔の前で手を合わせて柊太に懇願する。
「えー……」
それでも柊太が渋っていると、頼は強引に柊太の手を取った。
「ちょ、やめてください!」
柊太がそう言うのと同時に、柊太の体にさっきのビリビリが駆け抜ける。
「ぎゃぁぁ!!」
「ふふ、いっくぞー!」
そう言って、頼は柊太の手を取っている方とは別の手で天井の蛍光灯に手をかざす。すると蛍光灯は一瞬強い光を放った後、バチバチとついたり消えたりを繰り返した。
「ああっ!もうやめてください!」
柊太が体に来る電気の感覚に耐えられず声を上げると、頼はやっと手を離してくれた。
「すげぇ、こんなに増幅されるもんなのか……。すげぇよ柊太!」
感激しきりに頼はそう言うが、柊太は完全にやられ損の状態だ。
「何なんですかもう……」
彼らの力を柊太が増幅させていることは、どうやら本当らしい。しかし柊太は、その事実にまだ全然ピンときていない。とにかく、この面倒な状況から解放してほしいと思うのみだった。
「ねぇねぇ、透留と真尋も柊ちゃんに触らせてもらいなよ!」
ウキウキした口調で理樹はそう言うが、透留と真尋は口々に断る。
「いや、僕はいいよ。増幅したところで僕のチカラはわかりにくいから」
「俺が好き好んで自分の思考を相手に読ませると思うか」
「そっかー……」
理樹がしゅんとしてため息をつくと、透留が何かを思い出したように口を開いた。
「でも、柊太くんがそんな大きなチカラを持ってるのに、共鳴は何で収まったんだろうねぇ」
「そういえば、今は全く感じないな」
透留の言葉に、真尋もうなずく。
柊太は、この部室に入ってきてから謎の重力が収まるまでのことを思い返していた。すると、何となくある感覚に思い当たる。
「あのー……。おれ、あの重いのを感じたときは何が起こったのか不安だったんですけど、何かここに入って人がいるって認識したら、ちょっと落ち着いたっていうか……」
その柊太の言葉に、真尋はまた考え込む。そして、1つの答えを導き出した。
「知らない者同士ではなく、お互いの存在を認識することで何となく共鳴が収まる、といったことなのか……」
「じゃあ、この共鳴はほぼ柊太主導ってことか?」
真尋のその言葉に、頼が目を見開く。
「まぁ、そういうことになるねぇ」
透留の返しに、理樹ははしゃいだように、
「じゃ、柊ちゃんはぼくたちに心を許してくれたってことなんだね!」
と柊太に笑いかける。
「いや、それはどうかと……」
柊太は、理樹の無邪気な笑顔に戸惑っていると、真尋が冷静な一言を浴びせかける。
「そんなに手放しで喜べることか。この多賀谷とかいう男の存在は、俺たちのチカラを暴走させる可能性もあるということだぞ」
「ふぅん……。これは、研究の必要がありそうだねぇ……」
さっきまで温厚に微笑んでいた透留は、その笑みに不敵な色を含ませた。その表情に、柊太の背筋に一瞬冷たいものが走る。
「け、研究って……」
「そうだな。柊太のチカラがオレたちにどう影響するのか、じっくり試させてもらおうじゃねえか」
怯える柊太を眺めながら、頼が興味深げに柊太に近寄る。
「え、ちょっと……」
柊太が後ずさろうとすると、そのすぐ後ろには理樹がいて、
「柊ちゃん!ようこそ、『好きなことやる部』へ!」
と、柊太に明るく声をかけた。
「す、『好きなことやる部』……?」
柊太は、新たに飛び込んできた情報に「?」マークを浮かばせていると、真尋は黒縁眼鏡の奥から柊太を上目だけで見て、
「確かに、研究材料としては捨て置けないな」
と言い放った。
その真尋の上目遣いに、柊太の胸が一瞬だけくすぐられる。しかし同時に、意味深なその言葉尻に肝が冷える心持ちを覚えた。
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