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 校舎の外に掲示されたクラス分けを確認し、柊太は自分のクラスである1年C組の教室に入った。当たり前の話だが、そこにいるのは知らない人だらけだ。見たところ、柊太と同じ中学出身のクラスメイトも少しいるようだが、中学時代に喋ったことは1度もない。

 柊太は、これからここでうまくやっていけるか一抹の不安を持ちながら、自分の名前が貼られた席に着いた。しばらくすると、先生らしき人が入ってきて今日1日の流れを説明してくれる。

(今から入学式、教室に戻って自己紹介だの何だのあって……。もう帰りてぇ)

 それからしばらく、柊太にとっては何の面白みもない時間が過ぎた。入学式は退屈だし、教室に戻ってからも喋る人はいない。さらに、自己紹介も特に気の利いたことを言えるわけではなく、帰る頃には柊太はぐったりしていた。

ひととおり今日のスケジュールを終えて、教室で先生が「じゃ、今日はここまで」と言ったとたん、柊太は大きく安堵のため息をついた。

そして柊太は教室を出て、何となく廊下の窓の外を眺めながら歩く。眼下には校庭があって、野球部やサッカー部とおぼしき生徒たちが準備を始めているようだ。

(部活、かぁ……。別にいいか、帰宅部で)

とにかく何もかもが面倒だと感じている柊太は、特に部活に気を引かれるわけでもなく歩を進める。

とはいえ、初めて見る校舎、初めて見る中庭……初めてだらけの景色は、浮かない柊太の心を少し躍らせた。

 そしてしばらく、何とはなしに歩いていた柊太は、ふと気づく。

「あれ……。ここどこ!?」

 初めて入る校舎で、どこをどう歩けばどこに行き着くかなど柊太が把握しているはずもない。そんなことも考えずに漫然と歩いていた柊太は、まんまと知らない場所に迷い込んでしまったのだ。

「マジかー……。教室があった校舎とも別っぽい……」

 柊太は、校舎同士をつなぐ渡り廊下を知らずに歩いてきたらしい。その渡り廊下はいったん外に出るものではなく、校舎内の廊下の角を曲がるとそのまま屋内で向かいの校舎につながるような形になっている。

 では、その廊下をそのまま戻ればもといた校舎に戻れるのだが、何となく柊太は来た道を帰ろうとしなかった。

 本当に何となくだが、この知らない方の校舎をもう少し探索してみたい気になったのだ。

 柊太は、若干キョロキョロしながら校舎の廊下を歩いていた。見たところ、クラスの教室が並んでいるわけではなさそうで、小さなドアがいくつか並んでいる。そして、それぞれのドアには「文芸部」「新聞部」……などといった札が掲げられていた。

「あー、ここは部室が集まってんのか」

 そんなことを思いながら柊太が歩を進めていると、部室の並びの一番奥にあるドアが目に入った。そのドアには札などは掲げられておらず、特に何部の部室というわけではないようだ。

「空き部室かな」

 柊太の歩みがその部室の前に差し掛かろうとすると、突然柊太の体にズシッ……と重力がのしかかってきた。

「!?」

 一瞬何が起こったのかわからず、柊太は重力で崩れそうになる膝を慌てて立て直そうとする。何とか立っていられるものの、今まで味わったことのない重力に、柊太の体は翻弄されそうだった。

「な、何これ、重……!!」

そして柊太が謎の重力に耐えて体勢を立て直そうとしていると、札のかかっていない部室のドアがガラガラッ、と勢いよく開く。

「な、何だよこの気配!めっちゃ重たいんだけど!」

 そういってドアから顔を出したのは、少し小柄な少年だ。見ると、学ランの下にパーカーを着こなしていて、鼻から頬にかけてわずかにそばかすがある、いかにもやんちゃそうな風貌だった。彼も、この謎の重力を感じているのか、必死でドアにしがみついている。

 そのうちに、彼が開けたドアの内側から口々に少年の声が聞こえてくる。

「いったい何が起こってんだよ!?」

「おい、とりあえず落ち着けお前ら」

「理樹(りき)くん、何か変な様子ある?」

 理樹と呼ばれたのは、さっき出てきたパーカーの彼だろう。

「えー、何にもないけど……。人がいる!」

 そう言って理樹は、よくわからない重力に耐えている柊太を見つけて、指さした。

「あ、あの……。あなたもこの重さを感じてるんですか?」

 柊太は、ドアにしがみつきながら顔をしかめている理樹に声をかける。

 すると理樹は、

「えっ、やっぱりあんたも感じてんの?」

と目を見開いた。

 そして今度は、ドアの内側から少し身長が高くがっしりした少年が出てくる。学ランの前のボタンをすべて開け、中にTシャツを着ていた。

「頼(らい)、あの人!あの人もこの気配感じてるみたい!」

 頼と呼ばれた背の高い少年は、理樹が指さす方向に顔を向けた。その先には、柊太がいる。

「こいつも……?おいお前、ちょっと来い!」

 頼は、そう言って重力に逆らうように柊太に近づき、強引に柊太の腕を掴んだ。

「ちょ、何すんですか!」

 その途端、柊太の腕にビリビリっとした感覚が走る。

「いった!、ちょ、ビリビリってきたんですけど、ビリビリって!」

 柊太がそう叫ぶと、頼は

「えっ、マジか!?」

と言って、慌てて柊太から手を離した。

 すると、ドアの内側から、

「頼くん、無理強いはダメだよ~。ちゃんと笑顔で話しかけないと~」

とのんびりとした声が聞こえてきた。その声を聞いた頼は、

「っせーよ、この状況でよくそんなのんきに構えてられんな!」

と部室の中に向かって叫んだ。

「な、何、何なんですかいったい!」

 柊太が事態を理解できずにそう叫ぶと、

「まーまー、いいからちょっとうちに寄ってきなよ」

 そう言って、理樹が柊太の背中を部室の方に向かって押した。すると柊太の体はふわり、と空中に浮く。

「わっ!?」

 柊太が声が声を上げるのと同時に、

「嘘、浮いた!?人の体が!?」

と理樹が驚く。

 驚いてるのはこっちだ、と柊太は思いながら何とか着地したいと思うものの、空を切る足はコントロールが利かない。そして柊太は、そのまま強引に開かれたドアの内側に放り込まれた。

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