第42話 地下牢にいる者たち

「ひぎゃあああああ!!!!」

地下牢に数名の男たちの悲鳴が木霊する。

「もう……もうっ、やめてくだ……ひぎいいいいい!!!」

天井から伸びた鎖をがちゃがちゃと音を鳴らしながら泣き叫ぶ男の目の前に黒髪黒い瞳の優男が微笑んでいる。

「痛かったの?じゃあ治してあげるね」

細かい傷を体中につけられた男たちは一瞬で傷が治る。

痛みから解放されほっと一息ついたが、細く短い剣が太ももにずぷり、と差し込まれる

「ひぃ!やめて、やめてくださいいいいいい!!」

「あはははは!!!やめてほしいの?ねえ!僕は楽しいよ!」

ずぷずぷと何度も手足に突き刺さる。

隣でつながれた男たちはカタカタと震えている。

ぴたり、と刺すのをやめ治癒魔法をかける。

「ああ、危ない危ない。危うく殺しちゃうところだった。ふふふ」

目の前の男は失禁し気を失っている。

「じゃあ、今日はこれでお終いにするね。」

手錠が外され、男たちは違う部屋に連れていかれる。最近はほぼ毎日細い剣で体中刺され、治癒魔法をかけられるという繰り返しだ。

この男たちはアルバン帝国の元重役たちだ。

そして傷つけて喜んでいるのはバハルの弟のクリスだ。

アルバン帝国から連れてきた時に魔王のバハル兄さまにお願いして引き取らせてもらったのだ。バハル兄さまもこの人間達をどうするか悩んでいたみたいだから、すぐに自分のモノになった。

男たちを一つの牢に押し込め、ほんの少しのえさをあげる。

鼻歌を歌いながら、少しだけきれいな牢のカギをあけ中に入る。

そこにはベッドに寝かされた男が一人。

金髪の髪、きれいな顔をした男がいる。右手の指と両目がないのが残念だが、とても気に入っている。

がちゃり、と言う音にびくり、と体を震わせる金髪の男

「やあ、今日も来たよ。僕の花嫁さん」

男なのにかわいらしい服を着せられ、震えている。

「ああ、かわいいね。僕今とっても興奮しているよ。今日もいっぱいかわいがってあげるから。」

「や……やめてください、私は男なんです。」

カタカタと震えながら必死に抵抗するがすぐに抑え込まれる。

「何度も言っているけど、僕は男しか愛せないんだ。それとも君もあの男たちのように扱われたいかい?」

カチカチと歯を鳴らしながら首を振る。

「い……いやです!」

「なら何て言うんだ?」

少しだけ低くなった声にさらに体が震える。

「きょ……今日も私を目いっぱいあいしてくだ……さい……」

ぐすっと鼻をすすりながら言う男、アルバン帝国元国王レオナルト・ハーネスは以前のような美しさは失われていた。

「さあ、今日も楽しもう」

「あ……あぁぁ」

地下から女のような嬌声が何時間も響き渡った。


**********

「終わったぞ!!」

ばんっと扉を開けて入ってきたのはバハルだ。

バハルが部屋を出て行ったときは昼過ぎだったのだが、今はもう陽はどっぷり沈み空は真っ暗だ。

「もう少し静かに入ってきなさい。ハンナが目を覚ましてしまったじゃないですか。」

うつらうつらしていたのでまだ寝ていなかったが、あと少しで眠ってしまいそうなところだったのだ。

「うっ、すまん。ハンナ、起こしてしまったな。」

「うううん、バハルに会いたかったからいい。」

「ハンナ、あんまりバハル殿下を甘やかさないでください。調子に乗りますので。」

「おい、どういう意味だよ……」

怒っているわけではなく、呆れるようにため息をつくバハル。

そのままの意味ですよ、と言いながら椅子から立ち上がり、スープをまたどこからかとりだす。

バハルにはい、と渡す。バハルは首を傾げ不思議そうにスープを見る。

「ハンナ、自分で飲めなかったのか?」

ハンナのほうを見る。ハンナは顔を赤くして毛布で顔を隠す。

「はぁ、バハル殿下。察してあげてください。」

ふむ、どうやら食べずに待っていたようだ。

自分で飲めるだろうが、食べずに、だ。

「わかった。スラングご苦労だったな。今日は下がってくれ。」

はっ、と短く返事をし部屋から出て行ってしまった。

スープを片手にハンナの側に行く。

「ほらハンナ、顔を隠していたら食べさせれないだろう?」

おずおずと布団から顔を出したハンナの顔は真っ赤だ。

空いた手で体を起こし、バハルの体にもたれさせて安定させる。

口に含み、唇を重ねる。唇が触れた瞬間体がびくりと震え、目を閉じて流し込んだものをゆっくりと飲み込む。

唇を離しハンナを見ると微かに瞼が開いている。瞳は潤み、バハルを見上げている。

それからなくなるまでゆっくりと流し込み、スープはなくなった。なくなったが、唇を再び重ねる。ただ重ねるだけのキス。

少し長いキスをして、布団の上に寝かせる。

バハルは立ち上がり、豪華なマントを脱ぐ。

以前着ていたマントと違い装飾が多いせいか抱きしめた時少し痛い。

上着も脱ぎ、上半身裸の状態だ。

ハンナは顔を真っ赤にしながら目をそらすが、たまにちらっとバハルを見る。

何か着ようかと考えていたが、ハンナの反応が面白いのでそのままハンナの隣に寝転ぶ。

「バ……バハル、服!!」

「ん?俺は本当はいつも上に何も着ない主義だ。」

ニヤニヤと笑いながらぎゅっと抱き着く。

バハルの裸を今まで見たことがないハンナは恥ずかしくてたまらなかった。以前一緒に寝ていた時も服を着ていないことなんてなかった。

「ああ、細いな。明日から食べられそうなものあったら持ってくるぞ。何か食べたいものないか?」

う~ん、特に食べたいものが思いつかない。

「あれはどうだ?緑の丸い果物?あれ好きだっただろ?」

「うん、好き」

「なら明日持ってこさせる」

以前おいしいと言ってから毎日のように買ってきた果物。スラングも食べきれないし、甘みが強いのですから同じものばかり食べたら飽きてしまうのでやめてください、と言われ週1くらいで買ってきてくれていた緑色の丸い果物。バハルがいなくなって八百屋で聞いてみたら一つ金貨2枚と言うとても高くて一冒険者が買えるような代物ではなかった。

というか、魔族領にもあるのだろうか?考えているとバハルの手が体中をまさぐっている。

「ちょっ!?バハル、そんな、触らないで。」

バハルの顔を見るととても楽しそうな顔をしている。こんながりがりな体を触って何が楽しいのだろうか。

あ、そういえばスラングは言っていた。

どんな姿をしていても狼男に変化してしまいそうなのだと。

「バハル、くすぐったい。ホント、やめ……」

バハルの顔を見てぞくりと体を震わせる。顔がスラングのいう狼男になったかのような獲物を見るような目をしている。

そういう目の男を知っている。鎖につながれやめてと言ってもやめない男を知っている。

目の前にいるのはずっと会いたかった人なのに、好きな人なのに体が震える。

バハルはそっとおでこにちゅっとキスをした。

「そんな怯えた目で見るな、怖がらせてしまったな……」

ぎしっとベッドから起き上がり、少し離れたところにあるクローゼットからシャツを取り出し着る。

あの男にあんなことされる前は、バハルに会えたら何をされてもいいなんて思っていたのに、今は怖くて仕方がない。

「ふっぅ……ぐすっ……」

毛布に顔を隠す。

ぎしり、と再びきしむ音が聞こえる。

「ハンナ、しばらく別で寝ようか?ハンナの調子がよくなるまでは、と思っているがハンナが側にいると抑えが聞かないみたいだな。触れたくなる。」

「……ぐすっ、ごめん、バハルに触れられるのも側にいるのも嫌じゃないの。でも怖いの……ごめんなさい。」

「……抱きしめてもいいか?」

毛布から目だけを出すと、側で少し悲しそうな顔で見下ろしていた。

「うん……」

毛布の上から優しく抱きしめる。そのまま横に寝転がり、髪を撫でる。

「おやすみ、ハンナ」

「おやすみなさい、バハル」

軽く唇に触れるくらいのキスをして、バハルが手を軽く振ると部屋は暗くなる。

バハルもスラングも手を振るだけで簡単に魔法を使えるなんて、本当に魔族なんだなぁ、と思いながら眠りについた。

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