第39話 奪還
ずっと会いたかった愛しい人は、身長も少し伸び女らしい顔つきになっていたが、またやせ細りがりがりになってしまっている。
優しく抱きかかえ地上に出る階段を上る。
地上に出ると数人の魔族が待っていた。
バハルの弟と妹たちだ。
筋肉が強調される服を着たムッキムキの次男のギリム、優男の顔をした三男クリス、すらりとしてはいるがしっかりした体つきの六男フィル、長い黒い髪が美しい長女のシリア、少しウェーブがかかった髪の次女のアンネだ。
長女と次女はジグルの兄弟である。
「魔王様、城内制圧完了しています。この後どうされますか?」
ギリムが頭を下げる。ドリューは目を見開く。
バハルを見て魔王だと言った。なぜ魔王の彼が聖女のハンナのずっと側にいたのだろうと、と疑問に思った。
「とりあえず国王と言うやつのところに行こうか。ああ、クリスお前ここにいる人間と第二皇子とういう者のところに行って連れてきてくれ。」
「はい、了解しました。」
クリスはドリューの側に行き、案内よろしくお願いしますとニッコリと笑いかける。
ドリューは口角をひくっとさせバハルを見る。
「あー、その人間と今から連れてきてもらう人間は敵ではないから案内終わっても傷つけたり殺さないでくれ。」
「もう!私を何だと思っているんですか!大丈夫です!人間の男は好きですけど、下半身しか興味ないので!!」
おい、こんなところで爆弾発言していくな。ほら、ドリューの顔が一気に真っ青じゃねえか。。ドリューが助けを求める目をしていたが、さっさと行けというと、俯きながらクリスと歩いて行った。
「お兄さま、この子が聖女?」
少し背の低いアンネが抱きかかえられたハンナを覗き込む。
「そうだ。俺たちもいくぞ。」
ライアンとジグルの気配をサーチで探りながら歩く。
少し歩いたところにこちらに向かって来ているライアン達を見つける。
ライアンは兄さまあああ!!!と駆け寄る。
ん?ライアンは誰かの足首を掴んでいるようだ。
ずりずり、と引きずられる何かは縄でぐるぐる巻きにされている。よく見ると国王のハーネスだ。
ジグルは苦笑いしながら後ろをついてきていた。
「ライアン、ジグルご苦労だった。助かった。」
ライアンの頭をぐりぐりする。えへへへ~と目をつぶり喜んでいる。犬みたいだ。
じっとジグルがこちらを見ている。どうしたのか、と聞こうとすると
「バハル兄さま!ジグル兄さまも褒めてほしいんだって!!!」
「ちっ……ちがああああううう!!決してそんなことではなああああい!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶジグルが面白くてぷっと笑ってしまった。
側に寄りよしよしと撫でるとさらに顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。周りにいた兄弟たちと魔族達は驚いた顔をしながら微笑んでいた。だからちがうって、と小さい声でつぶやいていたが顔は少し笑い嬉しそうだ
「で、これどうするの?」
これ、と指さした先には見た感じ傷はないが、白目をむいている。
「何をしてたんだ?」
ライアンは悪戯っ子のような顔をし、ジグルは苦笑している
「僕がこの男、ジグル兄さまは近くにいた偉そうな男二人の足を掴んだまま城内を競争しながら走り回ってたんですよ~。」
ライアンは楽しかった~と満面の笑みである。ああ、ジグルはもう持っていないが二人白目向いた男がいる。
他にも人間達が捕らえられているが、青ざめてがくがくと震えている。
「そろそろその男を起こせ。」
「うん、わかった!」
そういうと手がバチバチと光ると国王の体はバリバリと電撃が走りビクビクと体が跳ねる。お前、ちゃんと加減してるだろうな、と心配になる。
はっと目が開き周りをきょろきょろとして、バハルが抱えている少女を見た時体が震え始める。ライアンは手を離し、縄をほどいて後ろに下がる。
「兄さま、傷一つつけませんのでその子を私にお預けください。」
シリアが手を差し出す。確かにハンナがいてはやりずらい。
そっと渡すとあまりの軽さにシリアが驚いていた。ハンナを抱えて見えない場所まで下がったのを確認し、ハーネスと人間達に近寄る。
「お前達人間は我ら魔族に負けたはずだ。お前の首をはねず、我が望んだものも一つのみだ。自分のした事の重大さがわかっているのか。」
「せ……聖女は我ら国のものだ!国王の私がどうしようと勝手だろう!?」
「……この国は戦争に負けたのだ。ではこの国は我ら魔族のものである。聖女は、ハンナは既にお前ら人間のものではない。」
バハルは片手で襟をつかみ立たせる。バハルのほうが背が高いので足は宙に浮く。
ひぃっと声が漏れがくがくと震える。
「……この手でハンナに触れたのか?」
ハーネスの右手を掴みぐっと力を籠める。何も答えず歯がカチカチと鳴るだけで何もいわないハーネスにどんどん殺気と魔力が漏れる。
「どうなんだ答えろ!!!!」
バハルが叫ぶと壁がびりびりと揺れる。人間だけではなく魔族達は身の危険を感じていた。
魔王が幼いころ一度だけ暴走をし城を半壊させたことがあると知っている。魔法も魔力も込められていないこの城など一瞬で崩れてしまうだろう。
「……へへっ、なんだよ……。お前もしかして魔族なのにハンナのことが好きなのか?……ああ、ハンナは抱き心地もいいし、鳴き声もいい……この指でしっかりかき混ぜてやったぜ!!!下の具合も……ぐああああああ!!!」
手首を掴む手がギリギリと締め付け、ぼきぼきと骨が砕ける音が鳴る。
襟を掴んでる手を離し、床に勢い良く落ちる。
バハルは虫けらを見るかのような目で殺気を放ちながら剣を抜き、右手の指をすべて切り落とす。血が飛び散り、バハルの足にも血がはねる。
「あああああああああ!!!!!」
ぐしゃり
指のない手を思いっきり踏む
「ぐあああああああああ!!!」
ハーネスは目からボロボロと涙を流しながら助けてくれと叫ぶ
少し迷ったような顔をしながら足を退けるバハルを見て、少しだけほっとしたハーネスの手に剣を突き刺す
「っ!!!!」
ライアンとジグルもバハルのしていることを見て息をのむ。あんなにも優しい兄が周りのことを気にせず魔力がこんなにも漏れ、冷たい目で人間を見下ろしている。
周りにいる人間はがくがくと大きく震え、立っていられないのか床に座り込んでいる。中には失禁している者や過呼吸になってしまっているのだろうか、ヒューヒューと息をもらしている者もいる。
もしかしたら次は自分の番かもしれないという恐怖に支配され、おかしくなってしまっている。
魔族達もまた、魔王からあふれ出している魔力に少し震えている。
「兄さま、おまたせ。って、何!?楽しそう!まぜてまぜて!!」
走って側に来たのはクリスだ。
「……遅い」
「ごめんね。少し離れた塔に閉じ込められてたから遅くなっちゃった。」
てへ☆とウィンクしながら舌を出しバハルの出す魔力など気にならないのかにこにこしている。
「あああ、兄さま魔力漏れてますよ。あああ!ぞくぞくする!!」
体をくねくねとしている。ただの変態のようだ。
ずるりと手から剣を引き抜いたときに、ドリューが魔族の合間からひょっこりと現れた。
手が血まみれになったハーネスを見て、ひくりと顔がこわばっていたが手を引いて連れてきた男、いや男の子がいた。
14歳だと聞いていたがとても幼く見える容姿をした男だ。目の周りがただれ、目がきょろきょろとしている。バハルと目が合ったはずなのに、怖がる様子もなく不安そうにドリューの腕を掴む。
「ドリュー、どういうことだ。それは目が見えてないじゃないか。」
ドリューは俯き微かに返事をする。
「塔に閉じ込められた時には何ともなかったのですが、どうやらそこにいる男に目を焼かれたうえ、つぶされた……らしいです。」
ドリューはぐすっと声を出し、荒々しく腕でぬぐう。
バハルは手を抑え必死に血を止めようとする男を見下ろす。弟が来たことすら気付いていない。あまりにもゲスすぎて吐き気がする。
「ならば、この男の目をやろう。」
バハルは近くにいた魔族にハーネスを立ち上がらせ抑えるように言うと、目に指を近づける。
「や……やめてくれ……やめてください……」
「弟もそう言わなかったのか?」
失禁したのか床が濡れていく。
そんなこと構わず顔に手を近づける。
ぐちゅり ブチっ
指を突っ込み目玉を引きずり出す。
「ぐぎゃああああああああ!!!!!」
「ほら、もう一つ」
もう片方の目にもゆっくりと指を突っ込み引き抜く。
「ライアン、お前治癒は得意だったな?」
「まかせて、兄さま」
バハルから目玉を受け取り、第二皇子のほうに近づく。見えない何かが近づいてきたことにびくりと体を震わせる。
大丈夫ですよ、皇子。とドリューが優しく抱きしめる。
顔に手をかざし黒く光るとライアンの持っていた目玉はなくなっている
皇子はうっ、と微かにうなると目をぱちぱちと瞬きをする。
目の前にいたのは美しい魔族がいた。
「魔族……?」
ぽけーと見上げるようにライアンを見る。
「どう?見えてるかな?」
「あ……はい」
「ごめんね、目の周りの火傷は消せないんだ。」
ライアンはぽんぽんと頭を優しく撫でる。
「ありがとうございます。それで、あの……」
ライアンの後ろから聞こえる叫び声が気になるようだ。
「ああ、あれ?誰だっけ?」
側にいるジグルに聞く。はぁ、とため息をつきながら、あれはこの国の国王だ。こいつの兄だよ。お前本当興味ない相手はすぐ忘れるな。と呆れるように言う。
「ああ!!そうそう!国王だって。」
「あれが兄上……」
目はえぐられ、右手は剣で刺された穴が開き指がない。
ひいっと声を上げドリューに抱き着く。
バハルは自分の漏れている魔力に気が付き引っ込めてから第二皇子の側に行く。
「バハルさん、この方が第二皇子のラウドネス・ハーネス様です。」
じろりと見るとさらに震えドリューにぎゅっとしがみつく
「こいつに任せても大丈夫なのか?」
「私はそう信じております。少々臆病ではありますが、考えていることは立派な方です。」
「人も魔族も生きていくには少々臆病のほうがいい。そういう者のほうが自分の力を過信せず国を守れる。だが、どんなところにも腐った者はいる。だから、お前が支えろ、ドリュー。」
「私が、ですか……?」
「お前はこの国で魔法にも剣にも長けているのだろう?ならばその子供を守り、間違った道に進めばお前が正せ。」
「……我ら人間がまだこの国を治めてもよろしい、という事でしょうか?」
「俺は魔族領だけで手一杯なんだ。人間の一つの国なんぞ興味はない。というか、この地は魔族には住みにくい」
ぼりぼりと頭をかきながら、ため息をつく。
ただ、といいながら後ろを振り返る。
「あの男とあそこにいる人間はダメだ。あと、邪魔なやつもいれば一緒に処分するから、早めに言え」
ドリューは魔族達に囲まれている男たちを見る。
「いえ、あそこにいる者たちだけで充分です。」
目をえぐられ、指も失った男は体がだらんとしている。
どうにかまだ意識はあるようでぶつぶつと何かを言っている。
耳元に顔を近づけ
「お前を殺すのは簡単だ。だがそう簡単に死ねると思うな。」
そう言うと国王だった男は暴れだし叫ぶ。
だか魔族二人に両脇をがっしりと掴まれてるため暴れてもびくともしない。
「兄さま、この子はどうされます?」
シリアがいつの間にか側にいた。ハンナの意識は戻っていないようだ。そっと受け取りぎゅっと抱きしめる。
魔族達に腰を抜かした人間共を運ぶように言い、撤退だ!と叫ぶ。
ライアンがわーいと楽しそうに血まみれの男を抱え込む。
町の中を引きずり歩く。太陽は沈み外は完全に真っ暗になっていたが、月明かりと街灯が魔族達を照らす。
町の人たちは窓から様子をうかがっている。魔族が列になり町を歩く姿を見て震えあがっている。手に持っているのは国王だった男、そして評判の悪い貴族や官僚たちが抱えられている。王族や貴族が魔族を怒らせたのだと一目でわかる。
一番偉いと思われる魔族の手に魔族領に行ったはずの聖女が大事そうに抱きかかえられている
聖女はがりがりに痩せ、力なくだらりと腕をたらしている。
人の中にはまるで魔族の男が、捕らえられた姫を救い出す勇者にも見えた
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