第38話 魔王の過去

ライアンとジグルは国王と言う男を探していた。スラングは私は適当にウロウロしますね、と言ってどこかへ行ってしまった。

「ねぇ、ジグル兄さままバハル兄さまのことどれだけ知ってる?」

「ん?なんだ急に。魔王になるくらいなんだからそりゃあ強いやつなんだろうよ。」

はぁ、とライアンは呆れたように顔を振りながらため息をつく

「それだけ?あぁ、だから君はバカなんだよ。」

「んあああ!?お前のほうが強いからって兄に対して失礼だろうがぁ!」

「バカにバカッて行って何が悪いのさ。なぜ僕にバハル兄さまがずっと側にいたことすら知らないんだろう!?」

「知るか!!」

なら無能な兄上に優しい僕がぶ教えてあげるよ!と叫ぶ

「僕が生まれた時、当時の魔王だった父上はもう年齢的にも最後の子供だと思っていた。僕が生まれた時とても喜んだらしい。直ぐに父上は僕の魔力の多さに驚き恐怖したらしい」


ライアンは少し歩く速さを緩め話しだす。

ジグルもライアンに合わせて歩く。



魔王にはすでに9人の息子、5人の娘がいたが、長男のバハルは魔王の自分よりも魔力が多く生まれた、初めての息子で次期魔王にふさわしいものが生まれたと周りと喜んだが、すぐに周りの魔族達のその気持ちは失われた。

赤子のバハルは不機嫌になるだけで無意識に魔力を漏らし世話をしている魔族達だけでなく、魔族領に住む者たちにとって恐怖の対象となった。いつかこの強力な魔力が暴走するのでは?と不安を煽った。もともと優しい魔王と母親は初めての子供のバハルを必死にあやして感情の上下がないように育ててきた。だが、バハルが10歳の時本人は全く怒っても不機嫌でもなかったが力が暴走した。

歴代の魔王たちが魔力を溜めてきた城はそう簡単に崩れるはずがないのにみるみる崩れていく。

本人もどうしたらいいのかわからずまだ幼かったバハルはただ泣きながら助けを求めた。

だけど誰一人近づけない。

そんな中バハルの目に遠くから必死に名前を呼ぶ両親を見てバハルの胸は締め付けられた。

2日後どうにか城を半壊させるだけで収まり、バハルは力尽きて気絶していた。

バハルに今まで接してきていた者たちは一切側に来なくなった。ただ、両親だけがいつもと変わらず笑いながら側にいてくれた。

両親は傷だらけで大丈夫だと手を握る。

バハルは傷が癒えてすぐ、城にある一番深くにある地下牢に自ら入った。地下牢は長い間使われていなかったが、2000年前強い魔力を持った魔族が魔族と人間を大量に殺戮した時に作られた牢であり、城よりも強力な魔法が掛けられていた。

あまりいい環境だとは言えなかったが今度は両親を殺してしまうんではないかと怖くなり、30年間ほぼ一人で過ごした。その時側仕えとして志願したのがスラングである。魔王より強い彼だったが誰かに仕えるほうが性に合っているから、といって魔王にはならなかった。魔王も自分より強い者がバハルについてくれることに安堵した。

バハルは最初スラングも来ないでほしいと追い返していたが、毎日地下に現れてはニコニコと食事だとか、暇なら本でもといってずっと側にいた。スラングはまだ幼いバハルに魔力の扱い方も教えた。本だけでは得られないものをスラングに教えてもらったのだ。

最初に覚えたのはサーチだった。地下に不用意に誰かが近づいてきても分かるように常に起動させスラング以外の魔族はすぐに追い返した。

40になったバハルに両親は学園に行くように勧める。最初はやはり暴走するのでは?と怖くて断っていたが、スラングが人前で魔法を使えるようになることも大事ですよ、と言われ渋々学園に通うになった。

30年ぶりに出た外はとてもまぶしかった。

城は修復されていたが、城に掛けられていた魔法や魔力までは元通りとはいかなかったようだ。歴代の魔王の日記や本をを読み漁っていたバハルには城の魔力や魔法を元に戻す知識はあったがまた暴走するのではないかという恐怖もあり、目を背けた。

学園では魔法を使う授業もあり使わないというわけにもいかず恐る恐る練習した。周りはバハルのことを知っているのか、距離をとっていた。学園ではほとんど一人だったが、ずっと一人で過ごしてきたバハルにはそのほうが助かった。少しずつ使う事に慣れ、卒業するころには魔法学も座学も首席で卒業し、どんな魔法も暴走することなく扱えるようになっていた。そして学園を卒業して初めてしたことは城の魔力と魔法を戻すことだった。

魔王だった父と母は泣いて喜んだが、また地下に戻った。

そして学園を卒業して二年後、人間との戦争が始まる。最初は順調だった戦況がどんどん悪化して、どうにもならなくなった魔王から人間の異変を相談された。父親のことが心配になり戦地へ向かった。

原因も突き止めたバハルは周りからもてはやされたが、やはり自分の持つ力が相手を恐怖させ一線を引いていることにも気づいていた。そんな奴らとかかわるのが嫌で、バハルはめんどくさいという言葉を口にするようになった。魔族領にいるときは常に地下にこもり、出てきたかと思えば人間の国や村にふらふらと遊びにでかけ、魔族領にかかわることは一切しなかった。

そしてバハルが300歳になったころ、ライアンが生まれた。

また魔力の多い息子が生まれたことに魔王は大いに喜んだ。どんな子だろうと愛を育てると決めていた魔王は、ただ不安だった。もし暴走してしまった時バハルのように自分を責め続けるのではないかと。

そしてバハルを呼び出し、ライアンが自分で力が抑えられるようになるまで側にいてほしいと。

それからバハルはライアンから一刻も側から離れることなくずっとライアンの側にいた。


ライアンが力を暴走することはなかったが、バハル自身もこんなに誰かといるのは初めてだった。ただ見張るだけではなく兄弟として時に父のように側にいてくれたのだと。


ジグルは黙って聞いている。

「バハル兄さまは他の兄弟が嫌いなわけじゃない、ただ距離感が分からないだけなんだよ。だから、ほら、ジグル兄さまにバハル兄さまに甘えたかった……」

「違う!甘えたいわけじゃない!」

ジグルの顔がかっと赤くなる

「違うんだ、弱い俺のことをばかにしてるんだと思ってたんだ……」

ライアンはため息をつく。

「あのねぇ、バハル兄さまにとってそれこそ めんどくさいこと だよ。本当はみんなと仲良くしたいんだと思うけどどうしたらわからないだけだよ。」

ジグルはくっと言いながら横をむく。ジグルも強い力を持っていたが、バハルやライアンには敵わない。二人は強いやつしか興味を示さず、強い二人でつるんでると思っていた。自分が思っていた二人と違い、勘違いをしていた自分が恥ずかしくなった。


「さあ、ジグル兄さま、この国の王様って人間を探そう。バハル兄さまの大切な人に手を出したんだ。殺さない程度ならバハル兄さまも怒らないと思うよ!喜んでくれると思うよ!さあ、急ごう!」

お前も大概ブラコンだよなぁ、と思いながら楽しそうにまた早歩きになった弟の後をついていく

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