第31話 めんどくさいことは手早く済ませよう
「フードをかぶった人は薬が何か知ってるだろうけど、聖女とお嬢さんはなんだかわかってない感じだね。」
ライアンは三杯目のお代わりをして、ずずずと音を立てて飲む。
薬?病気の薬?でも危険な薬みたいだし、なんだろう、と二人は首をかしげながら顔を合わせる
「薬とは300年前の魔族との戦いで作られた薬だ。」
「それはどんな薬なんですか?」
「僕が説明するよ」
すっと立ちあがり、ライアンは話し出す。
300年前、魔族と人間は戦をしていた。当時の魔族は、現魔王とライアンの父親が魔王をしていて、まだ若かった魔王は退屈な毎日を過ごしていた。当時まだ現魔王は52歳と生まれたばかりの次男のみ、幸せだったが机仕事はあまり好きではないし、だからといって執務室から飛び出して好きなことはできなかった。
そんな中人間が魔族領に兵を差し向けた。魔王様は暇な日常から解放されることに喜んだ。
倒しても倒してもどんどん攻め込んでくる人間にうんざりしながらも、魔王は楽しんでいた。
人間が魔族領に進軍してきて1週間がたったころ、人間に変化が現れる。
一振りで何十、何百というに人間を吹き飛ばせていたが、次第に人間の様子がおかしいと感じながらもいつものように吹き飛ばしていた。
だが、一振りでたくさん吹き飛ばせていた人間が、なぜか数人しか吹き飛ばせなくなっていたのだ。
手を止めて人間をじっと見てみると、向かってくる人間たちは目は虚ろで、よくわからないことをぶつぶつと言いながら、向かってきていた。ただ、それだけならよかった。だが、魔王と魔王軍はどんどん苦戦を強いられる。
ふらふらとした足取りなのに、攻撃をしてくるときは俊敏で今までは魔力のない兵士ばかりだったのに、魔力もそこそこの人間が一気に襲ってきたのだ。そして、魔王は見た。魔族が近くにいないときに仲間同士で殺しあっていた。人間のよくわからない行動が理解できず恐怖を感じた。魔族の学園を卒業したばかりの現魔王に話してみると、まだ52歳だった現魔王は戦地に赴き自らの目で確認し、魔王では数人しか蹴散らすことしかできなかった人間共を一瞬で蹴散らした。そして、その者たちの亡骸を一つ一つ確認していた時、彼らが持っていた白い錠剤に気が付き調べてみると魔力を限界まで底上げする薬だった。1度なら問題ないが、数回飲むだけで副作用として自我を失い、敵味方関係なく攻撃する、という事が分かった。
現魔王は領内に残っている人間たちを片っ端から調べ、副作用が強く出ていたものは助けることはできないためすべて切り捨て、現魔王はまだ意識のある者は助けようとしたが、禁断症状のせいなのか牢でほとんどが発狂して死んだ。
感染性はないが、数人薬が常用してしまえば、魔法の使えないただの兵士はすぐに殺されてしまう。
ライアンは薬の入った袋を皆に見えるように見せる。
「君たちはこれが何かわかって持っていたのかい?」
薬を出した男が青い顔でふるふると首を横に振る。
「俺は、自国の将軍に渡されました。もし戦況が激化して、傷ついたりしてしまった時に使う痛み止めだと……!!も、もしかしたら本当に痛み止めかもしれない……薬って言われて焦ったので魔族のあなたが探しているものかはわからないです……」
「私は師匠からです。私は魔導士なのですが、魔力が切れたら飲むように、と。魔力を回復させるのはポーションが主流なのでもらったときはなぜ錠剤なのかわからず、新しく開発したんだと思って持っていました。私ももしかしあたら魔力の回復薬かも……」
二人は心配そうに、ライアンの持つ袋を見る。
ライアンはどちらの袋も明け、1錠ずつ出す。爪で少し削り、口に入れる
大丈夫なのかとライアンを見ていると、僕はある程度の耐性があるので平気ですよ、と笑う。
「う~ん、悲しいけどどっちも僕が探してた薬だよ。」
そういうと二人の顔から完全に血の気が失せ、泣いていた。どちらも信頼していた人から渡されたのだろう、悲しくて泣いている。
「まあ、そんな悪い奴に利用されて命落とさなくてよかったね。弱いからと言って強者が何してもいいってわけじゃないから。」
ライアンは袋を投げてふっと消えた。袋が消えた場所をじっと見ていたら、小さな赤い鳥が飛んできたかと思うとライアンの手に止まり一枚の赤い紙になる。
ライアンは紙に書かれた内容を見てニッコリとハンナに笑顔を向ける。
「みんなお疲れ様、もう戦争は終わったよ。自分のおうちに早く帰ってね」
ライアンはばいばーいと残してふっと消えた。
*****************
ライアンがハンナの元に行く少し前。
バハルは一人、草原の真ん中にいた。まだ勇者や兵の姿が見えないので、草の上で転がっていた。
サーチを起動させているので少しずつ近づいてくるたくさんの気配にため息をつきながらゆっくりと起き上がる。
「……仕事すっかなぁ~」
とりあえず立ってればいいか?けだるそうな顔をしながら、早く来ねえかな、と思いながらまった。
そして、兵の頭がちらほら見えてきた。お、誰か俺に気が付いたな。
大きな声で何か騒いでいる。というか整列しなおしてるし、俺じゃなかったら確実に既に5回は殺されてるぞ……
そして、先頭に現れたのは白銀銀色の瞳の青年だった。ハンナより少しだけ年上だろうか?
「私は勇者、エイベル!凶悪な魔族め!退治しに来た!」
え、戦争じゃなくて退治なのか?俺退治対象なの?うわ~、俺魔獣じゃねえんだけど、何かした覚えないんだけど。
「退治されるような覚えがないが……?」
「何を言う!魔族の眷属である魔獣が人間を襲い、数多の命が失われている!知らないとは言わせないぞ!」
いや、知らんし。魔獣みたいな低能な奴、眷属こっちから願い下げだけどな。というか、お前らも魔獣狩ってはぎ取って金にして、食える肉は食ってるじゃねえか。魔獣も腹減るから人間や畑荒らして食ったりはするし、魔獣だって自分のテリトリーに知らん奴入ってきたら襲うの普通じゃねえの?お前らだって町に魔獣来たら退治だ、駆除だの言ってんじゃねえかよ
と言いたい気持ちをぐっと堪える
「魔獣は我らの眷属ではない」
とりあえずこれだけは確実に否定しておきたい。
「くっ!とぼけるなんてなんて奴だ!勇者の僕が退治してやる!」
勇者が腰に差した剣を抜きこちらに向ける。
まあ、勇者はいいとして薬を飲んでそうな奴は今のところいないな、だがいつ服用するかわからない。ちゃっちゃと済ませてしまおう。第一、立ってるのもしんどくなってきた。ああ、めんどくさい。
できることなら近くまで来ているハンナを抱きしめて唇を重ねたい。
はぁ~と大きなため息をつくと、勇者だと言っていたエイベルは怒りでフルフルと震えていた
俺何かしたか?
う~んと考えていると、弓兵隊よおおおおおい!という掛け声が聞こえる。
うわ、退治する気満々じゃねえか
「放て!」と言う声が聞こえると弧を描きこちらに2000?3000?いや5000程の矢がバハルに向かって放たれた。
そして魔道士よおおおおい!とも聞こえた
どんだけ打ってくるつもりだ
手をすっと前にかざすと弓矢が自分の顔面すれすれで止まる
そして無数のいろいろと混じった攻撃が飛んでくる。ファイヤーボールだったり、ウォーターボール、風刃に雷撃から中級、上級魔法もあるな、これだけの魔法が一気に撃ち込まれたのでいちいち一つ一調べるのは流石にめんどくさい
何前途ある魔法の攻撃は自分の体から魔力を発するとすべて消えてふわりとそよ風がふく。
さて、この矢どうすっかな
すべての魔法をかきけされ、ひいいと声が聞こえる。
ああ、とりあえず返すか。
くいっと指を動かして風で矢の向きを飛んできたほうに向ける
「いらねえから、返す」
そういうと矢は、矢を打った人間の肩や腕に刺さる
ついでに魔法も打った人間をサーチで特定しているので打ってきた相手に低級の魔法で返すと周りの人間を巻きと混んで大きな爆発音がなる。
ぎゃああああああ!!!いてええええ!!と言う声が草原に響き渡る。
確実に元の人間に返したはずだ。エイベルはカタカタと震えていた。
将軍だろうか、中年の男が勇者の隣で何か言っている
「勇者様、貴方様が頼りですぞ!ここにいる者すべての者の命がかかっております。」
おい、やめてあげな、まだ勇者18,19だろ?お前絶対40過ぎてるじゃねえか。自分の年が半分もない奴に頼るってどんな神経だよ、見てるこっちがかわいそうになる。
「もうおしまいか?」
そういうと勇者は下唇を噛み、ぐっと力を籠め覚悟を決めたのか「うおおおお!!」と数人引き連れてこちらに向かってくる
度胸は認めよう
目の前まで来てそしてエイベルは剣を振り下ろす
振り下ろされた剣を素早くよけ、鋭い目で睨みつける。
勇者たちはぴたりと止まり、ガタガタと震えだす。
「ああ、そういえば俺が誰か教えてなかったな。」
勇者のきれいな顔を掴み持ち上げる。恐怖でひきつった顔をしながらひいっと声が漏れる。
「俺は魔王だ!俺を倒したいやつはかかってこい!!」
バハルが叫ぶと、あれだけ騒がしかったのが嘘のようにしん、と静まり返っていた。
エイベルは顔を掴まれたまま、魔王と小さな声で呟いて手に持っている剣を地に落とした。
そして、将軍と数名の階級のある兵士が白い袋を出し中のものを近くにいる兵たちに配る。
させるか!
地面が揺れ、隆起する。ほとんどの者が地面が揺れた振動で持っていた薬を落とす。
薬を配っていた人間と、まだ手に持っていた人間を土の中に引きずり込む。頭だけが出ている状態だ。
「勇者エイベルよ、この戦争は無意味なものだ。今引けばこれ以上危害は加えない。だが、我が領に無断で踏み入った責任は取ってもらう。」
兵士たちは戦意を喪失している。半数以上が自分たちが放った矢や魔法で傷ついているのだ。指揮をとる勇者は魔王だという魔族に捕らえられ、指揮をとっていた将軍達は地中に埋め込まれている。
勇者は指の隙間からちらりと魔王を見る。
誰一人死んではいない。だが戦えそうなもの一人もいない
それに底知れない魔王と言った男の魔力が全く本気を出していないようにも見える。腰に剣を刺しているのに鞘から抜いてすらいない。というか少しだるそうだ。もし本気を出されたら、こんな化け物にここにいる誰も勝てるわけがない。
「撤退する。どうか見逃してほしい……。」
バハルは手を離し、エイベルはどさりと尻餅をつく。
「ならばこれをお前ひとりで先にアルバン帝国に戻り国王に渡せ。」
丸められた、上質な紙を渡す
「魔王、君は最初から勝つってわかっていたんですね。」
立ち上がり剣を鞘に戻し体についた泥を落として受け取る
「魔王の俺が脆弱な人間に負けるはずがない。」
「僕も分かっていました。勝てるはずがないと」
「ならばなぜ来た」
「生まれた時から勇者なのです。小さいころから魔王討伐をするんだと、魔族領を我らのものに、と言われて育ったんです。魔王討伐という理由がなければ、もう僕と言う人間は成り立たなかったんです。」
ぐっと泣きそうな顔で俯く
こいつもまたハンナと同じで大人に利用されてきた子供の一人。力の持たない小さな子供は利用されやすい
「ならば、好きなことを自分で探せばいい……」
「は……?」
「勇者でなくても生きていける。俺も最近魔王になったばかりだ。魔王の候補の一人だと育てられた。だが、自由に生きてきた。探すことを諦めたら誰かの傀儡となるだけだ。お前は俺に負けた。勇者としてのエイベルは今死んだのだ。今からただのエイベルとして生きればいい。そこにいる命すら共にある仲間とかと一緒にやっていけばいいんじゃないか?」
バハルが指さした先にはずっと一緒にいた仲間がいる。心配そうにエイベルを見ている。
「……まさか魔王に諭されるとは思わなかったよ」
「お前らが俺たちのことをどう思ってるか知らんが、魔族という種族でお前たちで言う俺が王様みたいなもんだ。なにもかわらん。」
バハルは頭をがりがりと掻きながらため息をつく。
「……ちがいねえや」
勇者は涙をながしていた。とてもすっきりしたような顔をしていた。
勇者は仲間の手を取り立たせた。撤退だ!と叫びながら戻っていった。
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