第24話 それぞれの道

バハルはハンナを抱きかかえたまま歩く。

すれ違う人は皆、振り返りこちらをみる。

ハンナの美しい銀髪、容姿を見て聖女?と小さくつぶやいていた。

教会のようなボロボロの建物の前で立ち止まりハンナを降ろす。バハルは魔導師長に着せられたフード付きのマントを脱ぐ。

ハンナの手を引き中に入るとスラングがいた。

「遅かったですな、バハル」

うるせえ、とぼやくバハルとハンナをスラングはちらりと見て建物の外に出ていく

「バハル?スラング?」

出て行ったスラングを見送り不思議そうにこちらを見てくる。

ボロボロだけど教会だと一目でわかるその場所は、ずっと放置されていたようで壁は塗装がはがれ、窓のガラスはとこどころ割れており、床は穴が開いているところもある。

祭壇の前まで手を引き連れていく。

「ハンナ、俺はやらなきゃいけないことがある。」

「?やらなきゃいけないこと……?」

冒険者の仕事だろうか、遠い場所まで行くのかな?と首をかしげてバハルを見る

ハンナの向かいに立ち、ギシっとなる床に膝をつき、上げるようにハンナを見る。

「ハンナが聖女として生きると決めるまでスラングを置いていく。俺はもうここには戻らない。」

「え……バ……バハル、冗談はやめてよ。」

瞳に涙がたまる。零れないようにように瞬きをせず必死にこらえる。

「ハンナ、お前は自由になったんだ。好きなように生きろ。」

そういうと立ち上がりきつく抱きしめる。

「いやだよ、バハル。側にいて」

キスもたまにならしていいから、と小さな声で恥ずかしそうにいいながらそっとバハルの背中に手を回しぎゅっと掴む

「ハンナ、俺はお前を……」

すりっとハンナの頬に手を添える。大きくて少しかさついた手

いや、なんでもないと呟き手を離す。

バハルは腰につけた短剣をそっとハンナの手に乗せる。

「どんな道を歩もうと、今後お前に必要な物だ。自分の身は自分で守れ」

装飾の少ない持っていないかのように軽く手にしっくりくる不思議な短剣。

ハンナは渡された短剣をじっと見つめていると

「恙無く暮らせ。」

「バハル、まっ……!!!」

バハルはたった一言残し、黒い霧に包まれて姿を消した。



**********

「ハンナちゃん、いいかんじなってきたね!」

ニッコリと笑いながらハンナを褒めるのは青い瞳に薄い茶色の髪をした、リリアだ。

ハンナはあれから冒険者になった。バハルがどんな世界を見ていたのだろうか、と見えない背中を追いかけるように冒険者になったのだ。

スラングにギルドについてきてもらい冒険者登録をしていた時に腰に差した短剣を見て、いい剣持ってるね!と話しかけてきたリリアと話しているうちに意気投合しパーティを組んだ。

話していくうちにバハルとパーティを組んでいたことがあると知り、運命だね!とリリアは喜んでいた。

今日はゴブリンの群れの退治に一緒に来ている。リリアはCランク、ハンナは3か月でDランクまで上がっていた。

「う~、ハンナちゃん。まーたついてきてるよ」

「あははは、ごめんね。」

そう、いろいろとついてきているのだ。

過保護なスラングはもちろん、国の兵が隠れるようについてきている。

「いいけどさ!オークとか、オークとかオークとか!!何があるかわからないし、タダで守ってもらってると思えばいいもんだけどね!」

リリアはオークと何かあったのかな?

「もう三か月経つんだね。いきなりバハルさんから故郷に帰るって言われたときはびっくりしたぁ。」

ハンナはうん、と小さく頷く。

リリアは持ってきたお菓子を半分にして半分をハンナに渡して残りを口の中に入れる。

「叔父さんと面倒見てる子がいるっのは知ってたけど、帰る直前で全くの無関係だって聞いてなんであんなに必死に守ろうとしてるんだろうと思ったけど……。会うたびにかわいいとか、放っておけないって言ってたから、この親ばかは~っていつも思ってたけど、これだけかわいかったら自慢するよね~」

ちらりとハンナのほうを見て髪をさらりと撫でる。

「ハンナちゃん、そのうち帰ってくるよ。バハルさんがハンナちゃんのこと放っておくわけないじゃん。」

ポロリと涙を流しながら頷きもらったお菓子に口をつける。




*********

「おにいいいいいさまああああああああ!!!!」

バハルがハンナと別れ魔族領に戻ってすぐ、腰に一人の男がしがみつき涙と鼻水をこすりつけられている。

「だあああああ!!離せライアン!帰ってきてやっただろうがあああ!!!」

男は涙と鼻水をたらしたままきっとバハルを見上げ睨む。

「バハル兄さま!ええ、常日頃魔王になりたくないとけだるそうに言っていたので魔王になりたくないのは分かっていました!ですが、僕が魔王になったら僕の側にいてくれるものだと思っていました!!!」

そしてまたバハルの腰に顔を振りながらくっつける。

それ鼻水と涙つけたいだけだろ、やめろよ

ライアンの頭を掴みぐいっと引き離す。ううう、と情けない声を漏らしながら必死に腰西しがみつこうとする。

はあ、なんかさっきからこっちをちらちら見ている視線が一つ。

「何か用があるなら出てきてくださいよ。」

そういうと肩まで伸びた黒い髪、黒い瞳の50代の男性がバハルの側に駆け寄り……

ライアンと同じようにバハルの腰にしがみつく

「バハル、どこにってたのじゃあああ!!ライアンが毎日泣きついてくるし、儂も心配で心配で!!」

「父上、俺もう350歳ですけど?もう昔のような子供ではありません。というか子供の間のほうが短かったと思うのですが」

額に手をつき深くため息を漏らす。

「何歳になってもお前は儂の子供なのじゃああああ!!」

こんな醜態をさらしてはいるが、父上と呼ばれた男は前魔王である。力はバハルに及ばないが、魔王になった時魔族領で一番力を持った魔族である。

「わかりましたから、もう離れてください、めんどくさい」

(バハルが)兄さまがめんどくさいっていったあああああ!!!と床に伏せて泣く二人を見て頭が痛くなる。

きっとライアンは父上によく似たようだ。

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