第22話 偽の聖女 カーネリアン

後宮にいる正妃アデラと数名の側室は常に火花を散らし、互いに蹴落とそうと必死だった。

正室アデラと側室の一人フローラは同じ時期に妊娠し、出産予定も2週間しか変わらない。

側室のフローラは願った。正妃アデラに女の子供が生まれますように、と。

既に5歳の皇太子が一人いたがもう一人男児が生まれれば自分の子供が王位につくことが遠のく。

側室は毎日呪うように、正室に女児!私は男児!と願っていた。


そして正室が産気づき、負けじと私も早く!!と願っていたらアデラが産気づいて3時間後にフローラも産気づき陣痛が来て喜んだ。

陣痛の中、見舞いに来た国王から我が国内から聖女も見つかったと笑いながら言っていた。

そんな中アデラが無事男児を出産したと、と侍女が言いに来た。

アデラは男児を生んだのだ。フローラは絶望を感じたが、一つの悪い考えが思いついた。

娘が生まれたら聖女にさせ、男児なら殺して私が聖女になればいいのだと。

アデラの元へ行こうとする国王を引き留め

“私が娘を産んだら聖女になれるようにしてほしい

と言うと国王は顔をしかめ、考える。

国王は聖女が自分の娘としていれば扱いやすいし、なにより多額の報奨金も渡さなくて済む

国王は火遊びも激しく、いろんな女に贈り物をしていた。

貧乏伯爵の所有する奴隷の娘だ、自分を支持するものに伯爵の領地を引き継がせればいい、と考え着く

国王は当時の魔道師長を呼び、禁術のとある魔法と薬を用意するように伝えると

魔術師長はもっと地位や力を欲していたため快諾した。

国王は魔導師長と話を済ませアデラの元へ向かった。



側室から生まれてきたのは念願の男児だった。だが、もう私には王子は必要ない。フローラは事情を説明し魔導師長は楽しそうに笑い言われた通りにする。

側室は迷いなく子供を殺しフローラの姿に変えさせ、フローラは作ることを禁止されている、退化の薬を飲み赤子の姿に変わり王女になったのだ。


フローラは出産の際命を落としたと報告し、王女に成り代わったフローラはカーネリアンと名付けられ聖女の魔力を体に流しこむための魔法をかけられ、聖女として今生きている。



ドリューの口が閉じ、二人を見る。

バハルは怒りに震え、ハンナは涙を流し両手で顔を覆っていた。


「私が魔道師長の任務につき、初めての大きな仕事が、ハンナあなたの見張りでした。助けたい気持ちは嘘ではありません。ですが私ではどうにもできなかった、ハンナが誰かの手で外へ連れ出されたと気づいたとき、私は心底嬉しかった。どなたか存じませんが感謝いたします。」

深々と土におでこが付きそうなくらい頭を下げる。


ドリューは胸元に手を入れ、ハンナに差し出す。

宝石ではないが、小さく光る小石のついたネックレスだ。

「ハンナ、貴女の母のものです。アシュベリー伯爵のところに何も知らされずに行った兵の一人が上司の命令には逆らえず数名の奴隷の命を奪いました。ですがかれは良心の呵責にさいなまれ、いつの日か貴方に渡してほしいと託されたものです。」

バハルが受け取りハンナに渡す。

「うっ……うう」

「ハンナ、泣きたければ泣けばいい、ここには俺たちしかいない。」

バハルがそう言うとバハルの胸の中で大きな声で泣いた

「うあああああああああ!!!!あああ!!」

泣き叫ぶハンナを優しく抱きしめ、大きな手で頭を撫でる。

ドリューは悲しく苦しそうな目でハンナを見ていた。



「うっ……ふっ……」

「少しは落ち着いたか?」

「うん……」


「今ハンナの体に魔力が満ちている。ということは偽物の聖女カーネリアンは今頃焦っているのではないか?」

くっくっ、と怖い顔で笑いながら見る。

「でしょうね、ああ。荒れているんでしょうなあ。誰かに当たってたり部屋中の物を投げている姿が思い浮かびます。」

はああ~、と深くため息をつきながら額に手を当てる。戻りたくありませんな、と呟く。


「私はこれより味方につけていた者たち共に聖女ハンナにしてきたことを公にし国王陛下、カーネリアンいえ側室に罪を償わせるため王宮に戻ります。いまさら貴方様にこのようなことをお願いするのはとても不躾かと思いますが、一緒に王宮に来ていただけないでしょうか?」

ドリューは片膝をつき胸に手を当て騎士のような姿でお願いする。

「わ……私が聖女……」

小声で漏らし、体を震わせる。

「ハンナ、いえ、聖女ハンナ様の敵となるものはすべて除くとお約束いたします。どうか近々開戦する魔族との戦争に力をお貸しください。」

戦争、と言う言葉を聞きドリューに顔を向けたままバハルに抱き着く。

こわい、けれど、バハルは最近ずっと勇者と聖女の絵本や本をたくさん買ってきた。バハルは私が聖女だと気が付いていたんだろう。

「ハンナ、お前が自分で決めるんだ。自由になったんだ、嫌なら戦争に参加することもない。好きに生きろ。」

「わ……わからないよ。いきなりそんなこと言われても……」

バハルは優しく微笑みおでこにキスを落とす。

「俺の名はバハル。ドリューお前と一緒に王宮についていく。しっかりとこの目でハンナをあんな場所に閉じ込めた奴らの末路を見届けたい。」

「ええ、構いません。ハンナ様今すぐ答えを出していただかなくても結構です。すべて終わらせた後で答えをいただけたら、と思います。」

ドリューはすっと立ち上がり、まだ気絶していたり、うう、とうめき声を出している魔導師たちに回復魔法をかけ立たせる。

バハルはハンナを抱いたまま立ち上がる。下りるっていっていたが、離したくないので駄目だというと顔を真っ赤にして俯いてう~とうなっていた。


「善は急げです。さあ、悪者退治へ向かいましょう。」

ドリューは少し嬉しそうだ。ニコニコと笑いながら城へと向かった。

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