第19話 焦る気持ち
すぅすぅと眠るハンナの側で座るバハルはじっと考え事をしていた。
ハンナに少しずつ体に肉がついてきて、浮き出ていたあばらは見えないようになってきた。
やわらかい固形物もどんどん食べれるようになり、食事が楽しみのようで毎回食べすぎて苦しそうな顔をする日も多い。
頬を一撫でして静かに部屋を出る。
一階に降りるとスラングがリビングにある椅子に座っていた。
「明かりくらいつけろよ。」
「我々は暗くても平気でしょう?それにこのくらいの暗さのほうが私は落ち着くのです。」
はぁ、とため息をつき名がスラングと向かいにある椅子に座る。
「何か話たいことがあるんだろ。」
最近スラングの様子が少しおかしかった。
「はい。率直に伺います。ハンナをどうするおつもりですか?」
ハンナは聖女だ。魔力を奪われているとはいえ、聖女としての本質は奪われていないはずだ。
もうすぐ人間は魔族領に兵を送り戦争をすると言っている。ハンナが本物の聖女と誰かに知られた時敵になる相手なのだ。
「バハルは最初、ハンナを奴隷にすると言っていました。ですが奴隷としての扱いではなく、娘、いえ愛しい相手のように扱っているではないですか。」
「……そうだな。奴隷にしようと思ってはいたんだが情がうつっちまったんだろうな。」
頬杖を突きながら、ため息をつく。
「バハル、いえ、バハル殿下。至急魔界にお戻りになってください。」
いきなり話題を変えるスラングを何言ってんだよ、と言う目で見る。
「あ?なんだよ。ハンナの話じゃなかったのかよ。」
「ライアン殿下が魔王になられました。」
「は?ライアンが?まだ若いから他の奴がなると思ってたぞ。」
バハルは目を丸くする。
ライアンは重度の人見知りで知られ、兄弟の中で絡みがあるのはバハルのみである。
「先日ジルダより封書をいただきました。ライアン殿下はバハル殿下に魔王になっていただきたい旨を書かれておりました。」
すっと一通の手紙を差し出す。
ちっと舌打ちを打つ。
バハルはライアンに弱い。一番末の弟と言うのもあるが、素直でとてもなついてくれていたからだ。
「すぐには無理だ。考えておくと返事をしておけ。」
「はい。良い返事をいただけるよう私からもお願い申し上げます。」
スラングは立ち上がり手を胸に添えて頭を下げる。
バハルも立ち上がり部屋に戻る。
ドアを開く音で起きたのか「バハリュ?」と眠そうにこちらを見てくる。
食べれるようにはなったがまだまだ話すのは難しいし、字を書くと汚くて半分は読めない。
「ハンナ」
ベッドに寝ているハンナの体の上に覆いかぶさると、顎に手を添えてキスをする。
「バハリュ、どちた?」
少し恥ずかしそうにしているが、何かあったのかと心配そうな顔をする。
「なんでもない」
再び唇を重ね、舌を入れる。
「んんっ……バハリュ……や……」
開いている手で膝を掴み持ち上げる。
ハンナは驚いた顔をして、バハルの胸を叩いて抵抗をする。
つつつ、と太ももの裏をなぞるとびくりと体がはねる。
「バハリュ……やぁ……」
くちゅくちゅと音を鳴らしハンナの唇を貪る。
ハンナのお尻を掴み揉むとびくりと小刻みに震え抵抗する力が強くなる。
下着の上から割れ目をなぞると少しだけ湿っているようだ。下着の上から優しく何度も往復すると体を震わせんんん~!と声を漏らす。
ハンナの目は潤み、やぁと繰り返しながら横に首を振る。
今のハンナを魔族領に連れていけない、だが今更手放すことなどできない。
誰かに奪われてしまうくらいなら……
聖女として戦に駆り出されてしまうくらいなら……
今俺のものにして魔族領に連れて行き他の魔族達にばれないように囲ってしまえばいい……
唇を離し首筋を舌でつううとなぞる
「あぁ……んっ」
言葉は話せなくても甘い声は出せるようだ。
下着に手をかける
「バハリュ……やめ……やぁ……」
カタカタと体を震わせ涙を流す。
バハルはばっと体を起こし、自分の下で震わせるハンナを見下ろす。
最初に比べてマシになったとはいえまだ細く、幼い容姿。こんな子供にいったい何をしているのだろう
何をこんなに焦っているのだろう
囲ってしまうなど、ハンナはやっと自分の意思を持ち始めたのにまた自由を奪ってしまえばハンナがまたあの状態になったり、苦しめてしまう
「……ハンナ、すまない。」
ハンナのおでこに優しくキスをして部屋から出る。
ドアの向こうからハンナのすすり泣く声が聞こえる。
一階に降りるとスラングも既に部屋にいるようだ。
玄関を静かに開け空を見上げる。
そしてバハルは暗闇の中に溶けるように消えた。
***********
「お嬢様、報告したいことがございます。」
お嬢様と呼ばれた少女は白銀の髪、銀色の瞳をしたカーネリアンだ。
「あら、魔導士様どれくらいぶりかしら。何かありまして?」
魔導士はフードのある黒いマントを深くかぶり顔は全く見えない。
優雅に椅子に座りお茶をしていた。
「……地下にいたはずの泉がいなくなりました。」
「な!!??」
カーネリアンは目を見開き驚いた顔をする。
泉、それはハンナのことである。
「厳重に保管していたのでしょう!?お父様にはしらせたの!?」
「は……既に報告は済んでおります。探すようにと兵をいくらか出してはいますが、公にするわけにもいかず、捜索隊もあまり出せない状況です。魔獣退治の時についでにカーネリアン嬢も探すように、とのことでした。」
「バカなこと言わないでよ!魔獣退治なんてほとんどしたことないし、私に泉の魔力がなくなるわけにはいかないのよ!」
「泉は一人で歩けるような状態ではなく食事をとらなくても死なぬようにしているため、死なない限りお嬢様へ魔力は流れ続けます。ただ、もし泉を誰かの手にある場合、容姿で聖女とばれてしまうか、食事を与えなくても生きている泉を恐れ手に掛けられてしまう可能性がございます。」
「そ……そんな。」
手に持っていたティーカップを床に落としがちゃんと割れる。
「お嬢様の体に魔力が流れなくなったときはすぐに私に知らせてください。」
「わ……わかったわ。私も討伐のついでって言ってたけど、どこにいるか検討はついてるの?」
魔導士は横に首を振る。
「早く探さなきゃ・・・。」
爪を噛み顔をしかめながら、立ち上がり花瓶や皿を手あたり次第投げつけ鬼の形相で振り返り声を荒げる
「お前もさっさと探しなさい!」
魔導師長は、はっ!と返事をして姿を消した。
************
「魔道師長!!あんなエセ聖女のいう事なんてきかなくてもいいじゃないですか!!」
魔導師長の後ろを歩く男が声を荒げる、
「黙りなさい、シルディ。これは聖女だけではなく勅命なのだ。我々は国に従える者、疑問を持ったとしても従わねばならんのだ。」
「ですがっ!!」
魔道師長はギロリと睨み黙らせる。
「確かに私も疑問に思うことは多々あります。前魔導師長より引継ぎを行っている時、逃げ出したくなったのは事実です。」
「そこまでわかっているのならなぜ……。」
ふうと小さくため息をついてフードを脱ぐ。
40代前半の彼は5年前魔導師長に任命された。前魔導士長は回復魔法や薬では治せない病気を患い急遽副師長をしていたという理由だけで任命された。魔導師長になって半年、泉の元へ連れていかれた。
彼が初めて 泉 に会った時、国に対する怒りと恐怖を感じた。
泉として捕らえられている聖女をここから出すことは人間ではできないと言われたのだ。
何重にも掛けられて魔法はかけることは容易くても解除することはかけた本人ですら不可能だからだ。
本当なら放っておきたい。あんな衛生的にも悪く、息苦しく暗い場所に戻すことはしたくない。
勇者より強い人か、もしくは人外かどちらかわからないが外に連れ出した、それだけでもまだあそこにいるよりいいだろう。
あの檻の柵だけでなく鎖にも何重にかけていた魔法が粉々に砕け散っていたのだ。
例え見つけたとしても、泉を地下から連れ出した者に勝てるはずがない。
「シルディ、他の魔導師にも伝えろ。例え泉を見つけたとしても決して手を出してはならないと。泉を持ち出した者は勇者や私よりも強いだろう。見つけたら私に報告するように」
「何か考えがあってのことですよね?」
もちろんだ、と返すが、見つけた後のことは全く思いつかず魔導師長は頭を抱えた。
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