第18話 ちゅき?
「僕は魔王になんかなりたくない……。」
「そうおっしゃらずに、さあ行きますよ。」
ライアンは自室の椅子に座り頭を抱えていた。
今から新魔王のための式典があるのだ。
ライアンの服装は黒でまとめらて装飾がたくさんついており豪華だ。
「いやだ、ジルダ、僕には無理だよおおおお。」
ジルダの腰に全力でしがみつきイヤイヤと首を振る。
「バハル殿下に譲渡するにしろ、ライアン殿下がしっかりと魔王の席についていなければいけないのです。お気をしっかりと。」
「バハル兄さまのばかああああああ!!!!」
わんわんと泣くライアンを立ち上がらせ、引きずるように式典会場へと連れていく。
「よお、ライアン。そんなに嫌なら俺に譲れよ。」
そう言ってきたのはライアンの兄のジグルだ。
「うう、僕は魔王になります。なってやりますよ!」
少しの間だけね!と心の中で付け加える。
ぐっと涙をぬぐい取りしっかりと自分で立つ。
ライアンはジグル兄さまが苦手と言うか嫌いだ。
何かと下に見てきて、昔からバカにしてくる。
決闘で第二位と言う結果を残したジグル。
ライアンが今、嫌だといって魔王にならなければジグルが間違いなく魔王になってしまう。
「へえ、弱虫がどれだけやれるか見ててやるよ。」
そう言いながら式典会場には向かわずどこかへ行ってしまった。
「早くバハル兄さま、帰ってきてよ。」
小さな声で呟き現魔王の元へと向かった。
************
「こちらが報酬になります。」
そう言いながらギルド職員はトレーに報酬を載せて渡す。
「兵も募集していますが、ぜひともバハルさんとリリアさんには引き続き通常依頼をお願いします。」
話を聞くと高ランク以外ほとんどが志願して兵になったとか。
兵に志願せず残っている高ランクの冒険者はわざわざ薬草採取などしないので、必然的に低ランクの依頼が残り、薬草不足になる。
リリアはかなりほくほくした顔をしていた。
「いや~バハルさん、手伝ってありがとうございました。危険なことをせずこれだけ稼げれるのなら毎日薬草採取しようかな。」
「俺はいつでもリリアと依頼を受けるわけじゃねえぞ。」
「ええええ!!??私たちパーティですよね!?どうせ薬草採取するなら一緒に行きましょうよ!!」
お前、単に俺に薬草採取の手伝い、というか俺にやらせて楽して儲けようとしてるだろ。
ジト目で見ると、ぐうっといって黙った。
トレーに乗った報酬を掴んでポケットに押し込んで立ち上がる。
「じゃあ、帰るからな。」
「もう帰るの?またね、バハルさん」
ここにいたってあの少し変なギルドマスターに絡まれるだけじゃねえか
リリアは手をふりふりと振ってバハルを見送る。
まだ空は明るい。何か買って帰るか、と町を散策する。
最近ハンナが果物をすりおろしたものがおいしいとたくさん食べていたのを思い出して、店主に聞いて甘くておいしいものをあるだけ買う。
そういえばこの前花を持って帰ったとき嬉しそうだったな、と思い花屋にも寄り見繕ってもらう。
ハンナが最近スラングが料理しているのを見ていたし、小さな包丁でも買って帰るか。
包丁専門の店はないので武器屋を覗くと剣や防具がほとんど売り切れていた。
「ああ、お客さん。見ての通り防具や剣はあまりないが、ゆっくりみていってくれよ。」
店主は白髪交じりのグレーの長髪を後ろで束ね、無精ひげが生えた50代ぐらいのおっさんだ。
店内を見渡すと壁や棚に置いてあっただろう防具や剣は何もない。
「親父、小さなナイフと短剣はあるか?」
「ん?おまえさん戦争に行くんじゃないのか?」
「ちがう。小さな子供が使うもんなんだが、最近料理をしたそうにしているもんでな。短剣は、まあ、護身用だ。」
「なるほどなるほど。お子さんは何歳かな?」
「10歳くらいだな。」
「くらいってなんだよ、くらいって。ナイフと短剣ならたくさん残ってるか見てってくれ」
木の箱に無造作に詰め込まれた短剣とナイフ。
中古のものも交じってるな、これ。
聞いてみると武器を新調しに来た奴らが短剣やナイフを下取りに出したらしい
新品の中に中古を混ぜんなよ
「まあ、戦争が始まるっていうんだからここも安全ではないかもしれんし、おまえさんみたいに子供にもたせたほうがいいのかもしれんの。」
真剣に選んでいるバハルを見て、小さな子供にこれはどうじゃ?などと金属製のおもちゃなど短剣とナイフ以外にもいろんなものを進めてくる。だからなんで中古なんだよ
戦争が始まる頃にはハンナは今よりもふっくらしてきれいになっているだろう。
暴漢がいないともいいきれない、側にいないかもしれない。
「親父、ミスリルの短剣はないのか?」
ナイフはちょうどいい感じのを見つけたが、護身用の短剣は妥協したくない。
「ん~?ミスリルの短剣なんてお姫様にでも持たせるんかい?」
「俺にとってお姫様みたいなもんだ。」
そういうとはっはっはと笑われた。事実を言っただけなんだが。
「そうかそうか、じゃあこれはどうじゃ?だが、お前さん買えるのか?」
すっと渡された剣は少しだけ装飾のある剣だった。
ふむ、見た目もいい感じだな。
手に取ると手に吸い付くような軽さで、女子供でも簡単に扱えるだろう
「いくらだ。」
「白金貨10枚だ。お前さん払えるのか?」
顎に手を当て品定めするようにじろじろと見てくる。
フッと笑ってポケットをガサガサあさる。
ドンっと机に置いた白金貨を見て店主は驚く。
本物かどうかじっくり見てごくりと喉を鳴らす。
「お・・・お前さん貴族か何かか?」
「?ただの冒険者だ。」
「高ランクの冒険者なのか?」
「Dランクだな。」
驚いた顔でこっちを見てくる。これ以上聞くな。めんどくさい。
「で、売るのか売らないのかはっきりしてくれねえか?」
何か考えていた店主に声を掛けるとはっとした顔で見上げる。お前今どこに意識飛ばしてたんだよ。
「もちろん売るぞ。ただの子供に持たせるような品物じゃねえのは分かってるだろ?剣に慣れるまでは持たせるなよ?どっかの金持ちの娘だと思われて誘拐されちまうからな」
「わーってるよ、ナイフはいくらだよ。」
バハルはだんだんイライラしてきていた。
早く帰りたくて仕方がないのだ。少し花が元気をなくしてきている。早く済ませて帰らねば。
「ああ、ナイフはおまけでいい。」
「なら、もらってくぞ。」
ナイフと剣を受け取り店を出る。後ろから何か言っていたような気がするが、一刻も帰りたいので聞こえなかったふりをする。
「バハリュ、まだ?」
ハンナはお絵かきをしながら目の前にいるスラングに聞く。
「バハルは今お仕事中ですからね。もう少ししたら帰ってきますよ。」
もう夕飯の準備は終わっているのでハンナの相手をしていた。
スラングのサーチにバハルの気配がひっかる。
すっと立ち上がると、バハリュ?とハンナが聞いてくるのでそうですよ、とにっこりと笑う。
ハンナも一緒にお迎えしようと椅子から立ち上がりふらふらとスラングの側に行く。
スラングが玄関を開けると目の前にバハルがいた。
「バハリュ!おかーり!!」
バハルの足に抱き着く。バハルは少し驚いた顔をしてただいま、と返す。
ハンナが上を向くバハルは花を持っている。
「はにゃ!」
「おー、ハンナ。花って分かるか。えらいなあ。」
そう言いながら花をハンナに差し出す。
「くれりゅにょ?」
首をかしげながら見上げるハンナにバハルはぐうッと喉が鳴る。
「ああ、ハンナにお土産だ。果物もあるぞ。」
家の中に入り果物の入った紙袋を机の上に置いた。
「くだもにょ!なにありゅにょ?」
ハンナは紙袋をあさる。ころころと紙袋からこぼれ転がる果物をスラングが素早く拾う。
「こりぇちゅき!」
緑色の丸い果物だ。甘くてとてもおいしいが、少し高くて売れ残っていたので熟れて甘いにおいがする
嬉しそうなハンナの顔に近づきちゅっと唇に軽くキスをする。
一瞬で顔が茹でだこのようになったハンナを見てくっくっくと笑う。
「バハリュ、ちゅき」
ふむ、これは確か甘くておいしかった気がする
バハルはこの果物が好きなのかと聞かれたのかと思い
「俺も好きだな」
と答えるとさらに顔が真っ赤になってふらついていた。
どうしたのかとスラングをみると、バハルも罪な方ですね、と笑っていた。
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