第17話 聖女ですわ

くあっと大きな口を開けてあくびをしながらい起き上がる。

常にサーチを起動させているせいか、あまり疲れが取れない。まあ、起動させて300年以上たつから慣れたもんだが。

隣を見るとまだすぅすぅと寝息を立てて眠るハンナを見る。

離乳食のようなものを口にするようになって前より幾分かよくなってきているハンナの頬を一撫でし、頬にキスをしてベッドから降りる。マントをとって静かに部屋をでる。

一階に降りるとエプロンをつけて朝食を作っているスラング。

まるでお母さんのようだ。見た目はおっさんだが。

「おはようございます。」

「ん、おはよ」

リビングにある椅子に座るとさっと朝食をだす。バハルは黙々と食べ終え、ギルドに行く旨を伝えて外に出る。


ギルドに近づくと、なぜか人だかりがある。

なにかざわざわと騒がしくざわめいていた。

「なんだ?」

軽々と人を押しのけギルドの中に入ると受付にたくさんの人が並んでいる。

「あ!バハルさん!」

背の低いリリアが両手を上げてぴょこぴょこと飛んでここだよ~と必死に声を出す。

人をかき分けリリアの近くに行く

「何かあったのか?」

「バハルさん~、国からの依頼?というか徴兵って言ったほうが正しいかなぁ?魔族領に1年後勇者と共に向かうから人を募ってるらしいよ。」

「……お前も行くのか?」

きょとんとした顔でバハルを見上げる

「ん~、兵として鍛え上げるために1年間訓練するらしいけど、女少ないし行きたくないかな。ランクによるけど戦争になるまで毎月金貨20枚支給ってのは人によってはおいしい話だけどね~……。まあ私は今日は普通に依頼を受けに来ただけ。」

掲示板に張ってある依頼に目線を戻しう~んと言いながら見ている。

リリアとは一緒に依頼をこなしたり、お互い一人でこなしたりしている。


低ランクでも月金貨20枚保証してくれるのなら、そりゃあがっつくわな。

冒険者が依頼を受けても必ず達成するわけでもないし、低ランクの冒険者でも受けれる報酬の高い依頼は毎朝取り合いなって大変だと、リアが以前言っていた。

若い子からおじさんまで列を作って並んでいる。

リリアがちらりと見て口を開く。

「バハルさんは行くの?」

「んあ?俺には面倒見てる子がいるっていてるだろ。叔父がいるとはいえ、稼いでるのは俺だ。俺がいなくなってどう生活すんだよ。家賃にもならねぇ。」

バカなことを言うなと言うとそりゃそうだといいながらほっと息を漏らしてまた掲示板に目線を戻す。

「あ、バハルさん徴兵されたくないならしばらく低ランクの依頼を受けたほうがいいよ。高ランクの冒険者とか国から指名されたら断れないからね。戦争に行きたくないならバハルさん強いからしばらく目立たないほうがいいよ。」

「う、まじか。気を付ける。」

なんだよ、指名って。もともと兵じゃない奴に指名するってなんだよ。

「薬草でも取ってるかな。」

「それがいいかもね。戦争になったらポーションたくさんいるから沢山採取しても全部買い取ってくれるよ。私も薬草採取にしようかな。一緒に行ってもいい?」

掲示板からびっと引きちぎりニッコリと笑いながらこっちを見る

ああ、と返事して二人で通常依頼受付はこっちですーと声を荒げているがらがらのカウンターのほうに向かう。



リンではなく、若い男がカウンターにいた。

「いやー、よかった。誰も通常の依頼を……って薬草ですかぁー。」

引きちぎった紙を受け取ってがっくりと肩を落とす。

「薬草も必要なんですけどね、魔獣駆除の依頼もたくさんあると思うんですよー。低ランクじゃないみたいですし、どうです?今他の依頼をしょうか……」

「薬草採取しかやらん。」

「この依頼を受けます。」

二人とも真顔で言ったせいかうっと声を漏らしブツブツと何か言いながら、書類を持ってくる。

また何か言われる前にさっさとサインをしてギルドを出ると、さっきより人だかりが増えたようだ。

黙って門まで向かい薬草が生えてる場所に向かい、目的地についてリリアはがんばりますかーと言いながら腰を曲げながら薬草を探す

まあ、俺はそんなことしなくてもサーチでどこにあるかわかっている

「バハルさん、中には冒険者じゃなかった人たちも、今から冒険者登録をして兵になるんですよ。冒険者じゃない人が志願してもあまりお金もらえないらしいです。……人じゃなくても人の形をしたモノを切るんです。魔獣は襲ってきますが、魔族の人から襲ってきたなんて聞いたことないのにですよ・・・。果たしてどっちが悪、なんでしょうか。」

リリアは薬草を切りながら独り言のように話してくる。

「魔族は別に人間のことなんてどうだっていいんだよ。領地に入ってくるから自分たちも守るものがあるから蹴散らすだけ、それだけだろ。」

バハルはすでに袋いっぱいの薬草を取り終わっていた。

「間違いないですね・・・。」

と小さな声で返した後は互いに黙々と薬草を採取していた。

バハルはすぐに2袋採取し終わった。

暇になったバハルは草むらに横になる。

しばらくするとリリアが近づいてくる。

「バハルさ~ん、さぼってたら終わりませんよ…ってそれ全部薬草ですか?」

ぱんぱんになった袋を指さす。

「そうだ、暇だから寝てる。」

「なら手伝ってくださいよおおおおお!!」

ちっと舌打ちを打ちながら仕方ねえなあ、と起き上がりバハルが採取するとリリアの分も袋いっぱいになりリリアはとてもご機嫌になっていた。

「すごいですねぇ~。バハルさんはなんでもできるんですね!」

褒めてもなんも出ねえぞ、と言いながら帰る準備をする。

バハルは近づいてくる気配に舌打ちを打つ。

がらがらと馬車の音が近づく。相手はこちらに気付いていないようだ。

見つからないように草むらの中を進もうとするが、リリアが草の中歩いて帰りたくないと言い整備された道にバハルの手を掴み草むらから出ようとする。

「ちょっとま……。」

「あ、勇者様と聖女様が乗ってる馬車だ!!」

リリアのテンションが上がりながら声を上げる。

前から向かってくる馬車が近くで止まる

周りに騎乗した騎士たちが馬車の周りにずらりとまとわりついている。


騎乗した騎士が一人、こちらに向かってくる。

「君たちはそこで何をしてるんだ?」

怪しいものを見るかのように見てくる。まあ、草の中からいきなり出てきたら怪しい奴かもしれないが。

「薬草採取を終えて帰ろうとしていたところだ。」

ぱんぱんのなった袋を見せてそう伝えると、騎士は馬車まで走って戻り、中にいるだろう勇者と聖女に話す。

ばんっと馬車の扉が開き一人馬車から出てくる

うっ、こいつなんでこんな格好してんだよっと思いながらこちらに向かってくる人を見る。

目の前に来た女はドレスの上から防具を着ているという奇怪な格好をしていた。

髪は白銀、瞳もハンナと同じ銀色だ。この色は聖女特有だ。ということはたぶん変化の術を使い容姿を保っているのだろう。

「私は聖女のカーネリアン、貴方たちはなぜ依頼を受けているのかしら?」

はい?とリリアとバハルは互いの顔を見合わせて首をかしげる。言っている意味が分からない。

「だーかーらー、なんで魔王討伐の兵に志願していないのかってことよ!」

「え~と、私たちは兵に志願せずに普通に依頼受けているだけですが……。」

リリアがそう答えるとカーネリアンと言った女の顔が一層険しくなる。

「まぁ!貴方たちは国のことを考えてないのですか!?なんと……嘆かわしい……。」

じろりと見てくるがバハルは気にしない。

バハルは、この女がハンナから魔力を奪っているやつか、と考えていた。

カーネリアンの体からハンナの魔力が感じられる。

「国のために兵に志願すれば誉でございましょうが、兵になったときのお手当だけでは私の大事な者は病弱なため薬は買えず守ることができません。兵として国に役には立てませんがこうしてポーションとなる薬草を一つでもとり、兵のもとに渡るよう努めますのでどうかご容赦を。」

バハルは手を胸に当て膝をつく。まるで騎士のような振る舞いをする。

リリアはそんなバハルを見て驚く。なぜならいつもだるそうにしているバハルがいつもよりきりっとした顔をしているから。

「ふん、今は志願して兵を募っていますが、予定数集まらなかったり、戦が始まれば嫌でも徴兵されることを忘れないように。」

ふんっといいながら馬車に戻り、馬を走らせどこかにいってしまった。

「はぁ~。聖女ってあんな感じなんだね。なんでドレスに防具つけてんだろうね。絶対動きにくいよね?しかも宝石つけすぎじゃなかった?」

バハルも思っていたことを口にして馬車が走っていったほうを指さしながら言う。

バハルは苦笑いして、頭がおかしいんだよ、と答えると、リリアはへんなのおおお!!と腹を抱えて笑っていた。

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