第16話 閑話 ハンナのハジメテ

「バハリュ!おきゃえり!!!」

玄関を開けるとハンナが抱き着いてきた。

ギルドの報告はリリアが帰ってきてからでもいいだろうと思いそのまま家に帰った。

「バハリュ!わたち、リョーリちた!」

「おお、メシ作ったのか。楽しみだなあ。」

ハンナを抱きかかえてスラングのいる台所にいく。

「ハンナが作ったのはこれですよ。」

ことり、と机に置かれたのは、べっちゃべちゃなケチャップライスにぐちゃぐちゃになった卵が乗せられたものだ。

ハンナはキラキラとした目でこちらを見てきている。これは褒めたほうがいいのか、改善点を言うべきか、と考えてると、ハンナの眉がどんどん下がっていく。喜んでないとでも思ったのだろうか、しょんぼりとしていた。

ぐっ、そんな目で見るな。改善点を言う、と言う選択肢はとらず

「ハンナ、上手にできたな。ハンナが一人でなんでも作れるようになるのが楽しみだ。」

ポンと頭をなでると、にこーっと嬉しそうに笑いぐちゃぐちゃのオムライスもどきをスプーンですくい口元に持ってくる。

まあ、こんな見た目だがスラングも一緒に作っているから大丈夫だろうとぱくりと食べる

「!?」

うぐっとなり、吐き出しそうになるが流石にハンナの前で出せない。覚悟を決めてごくりと飲み込む。

ものすごく、あまかった。塩と間違えた、というような量ではない。お菓子のように甘かった。じろりとスラングを見るとニコニコ笑っている。こいつ、分かってて俺に食べさせるようにハンナに勧めやがった。

「初めて、なので大目に見てあげてくださいね。」

スラングがそう言うと首をかしげて二人を見る。

「いや、何でもない。」

水を飲み口の中の甘さをすっきりさせる。甘い物が嫌いなわけではないが、好んで食べない。

そして、ハンナはまたバハルに食べさせようとする。

「ハ……ハンナ、これはちょ……」

「……おいちくない?」

さっきよりも更にしょんぼりと俯きかちゃりとスプーンをお皿に置く。少し涙がたまっている。ぐう、そんな顔をするな

「いや、食べるぞ、食べるから。泣くな、な?」

ハンナが持っているお皿とスプーンをとり一気に口の中に流し込む。

じいっと見上げてこちらを見ている。

皿を机に置き、ほら、食べたぞ。というとハンナはぎゅっと抱き着いてきた

「バハリュ、ちゅき!」

すりすりと顔を擦り付ける。コップにある水をすべて飲み、口の中を再度すっきりさせハンナの頬に触れ上を向かせる。

「?」

顔を近づけそっと唇を重ねる。

「お礼だ。」

ハンナは顔を真っ赤にして、ばっと離れる。

「バハリュにょすきぇべ!」

そういって階段を駆け上がり部屋に戻っていった。

「おい、ハンナ。どうしたんだ?」

発音が悪く早口でなんて言ったか全くわからない。スラングはニッコリ笑いながら、さあ?とだけ言って普通のオムライスを作りバハルに出す。

一体どうしたんだ?と思いながら、おいしいオムライスを残さず食べた。



次の日の昼頃ギルドに行くとリリアが怒った顔で側に来た。

「置いていくなんてひどいじゃないですか!?」

「ん?村に残りたさそうだったじゃないか。」

「そりゃあ血まみれでしたからね!これでも女ですからね!」

ん~、めんどくさい。リリアが残りたいような態度をしたから、置いていったらなんでだと言われる。

「あー、悪かったよ。なら、今度からリリアが残りたいって泣いても言っても連れて帰るからな。」

「え?あー、うーん」

目をつぶり腕を組みながら悩んでいる。どうもあのあと出された料理などがとてもおいしく、VIP扱いだったようだ。

「とりあえず、報告するぞ。」

めんどくささがマックスになり一人でリンのいる受付に並ぶとリリアが焦った顔でついてくる

「バハルさん、怒った?」

「んー、怒るというか、めんどくさいな」

ガーンとショックを受けている。一瞬固まったが、小さくごめんなさい、とつぶやく。

まあ、素直な女も悪くない。ポンと頭をなでると、お次の方どうぞーと声を掛けられる。

「あら、バハルさんとリリアちゃんじゃない。」

「討伐の報告だ。」

「あれ?剥ぎ取りは?」

「めんどくさくてしてない。手数料引いていいからそっちで確認してくれ」

収納バッグ出してリンに渡す。リンの顔が引きつる

「まさかまた数が多かったとか……?」

「そのまさかだ。村で焼却処分するには数が多すぎてどっちにしろ無理だった。ギルドにもいるだろ、死体を燃やせる魔導師くらい。」

「2日後に来てもらってもいいですか?」

「いいよね、バハルさん?」

「構わん。」

二日後またギルドに行くことになった。



二日後の朝ギルドに行くとまだリリアは来ていないようだった。

「あ、バハルさん。リリアちゃんは昨日風邪ひいちゃったみたいなので、バハルさんだけこの前の二階の部屋に行ってもらえますか?たぶんもうギルドマスターいると思うので。」

「ああ。」

ぎしっとなる階段を上りドアをノックしてドアを開ける。

「バハル君!?返事してないよ!?」

「まあ、いいだろ。」

アクセスはむすっとした顔で、向かいのソファーに座るように言う

「いやあ、バハル君またすごい数一人でやっつけちゃったね。相変わらずとてもきれいに切り落とされててびっくりしちゃった。オーガは素材になる部分がないから持ってこられても困るけど、確かにこの量を村の近くで焼却処分すると近くの森まで燃えかねないからね。」

積み上げて魔法でわゆゆを燃やしてしまえば一瞬だったが剥ぎ取りよりも、処理した方法を詳しく聞かれたらめんどくさかったというのが大きい。

アクセスは何枚かまとめられた紙を手に取る。

一番上の紙には報告書と書かれている。

「オーガが423、そのうち上位種が3体ありました。たぶん周辺にいたオーガの群れが一か所に集まってしまったのでしょうね。オーガはそこまで強くないのですが数が増えるほど群れに上位種がいる確率が増えますし、数が多いとどうしても壊滅させるのはむずかしいです。バハルさんが報告をしていただいたその日のうちにギルド職員に確認しに行きましたが、周辺にオーガが残っている形跡は残っていなかったそうですので、複数の群れの壊滅として扱わせていただきます。」

ぺらりと紙をめくり、バハルに見せる。

「オーガの複数の群れの壊滅に対しての報酬は白金貨12枚です。魔石の買取もさせていただいてもよろしいですか?」

「ああ。たぶんリリアもいらねえと思うしいいぞ。」

「では、オーガと上位種の魔石分は少しお色を付けさせていただいて大金貨5枚と金貨5枚です。バハルさん、報酬どうする?リリアちゃんと前と同じように半分でいいの?リリアちゃんこの前報告しに来た時バハルさんが帰ってから、私何もしてないってリンさんに言ってたらしいけど。」

話しながら依頼達成の紙にサインをする。

「あー、半分でいい。端数はリリアのほうにあげてくれ。」

「バハル君がいいならいいけどね。じゃあ、これがバハル君の分ね。」

トレーに乗せられた金貨を鷲掴みにし、ポケットに突っ込む。アクセスは目を見開き驚いている。

「え、財布に入れないの?」

「あ?そんなものない。必要ない」

「そんな大金なのに必要ないって……やっぱり君は面白い人だね。あ、そうそう、今回の依頼達成でCランクまであげれるけどどうする?」

「あ?どうするってどういうことだ?」

「Cランクに上がるには試験があるんだよ。」

めんどくさいからいい、と即答すると、君らしいや、と笑う。

とりあえず金ももらったし、家に戻るか。

帰る旨を伝えて、ハンナの待つ家に急いで帰る。



後日ギルドに行くとリリアはいなかったが、リンがリリアちゃんが報酬の多さに白目向いて倒れたよ、リリアちゃんの心臓がもたないからほどほどにね、といわれた。俺は悪くない。

あの依頼をしようと言ったのはリリアで、誘ったのもリリアだ。

白目をむいて倒れた、と言う状況を思い浮かべて少し笑いながら、今日もまた薬草採取の依頼を確実にこなしていった。

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