第15話 閑話 バハルとリリア
「バハルさん、今日は何の依頼受けるんですか?」
「んぁー……薬草採取か?」
「えええ~?またですかぁ?」
バハルが冒険者登録して一か月、ほとんど薬草採集しかしていない。
リリアは薬草採集は苦手である。依頼を受けてもほとんど見つけることができずあまりお金にならない。パーティを組んだとはいえ、お互いがやりたい依頼が見つからなかったり、意見が合わなかった場合は組まずに別々で依頼を受けていた。
組んでから一緒にやった依頼は大量発生したミノタウロスの駆除と近くの洞窟に巣を作ったゴブリンの駆除くらいだ。たまにギルドで顔を合わせるが、全く一緒にしていない。
リリアは頬を膨らませ上目づかいで見てきている。
前回のミノタウロスでしっかり稼いだとはいえ、もう少し貯蓄が欲しいリリア、めんどくさいのですぐ終わる薬草採集をしたいバハル。
じっと見るリリアにため息をつき
「しゃーねぇなぁ。今日だけだぞ。」
「やったぁ!!」
勝った!と嬉しそうに飛び跳ねる。
「バハルさんがいるなら少し遠くても大丈夫ですよね?これはどうですか?」
指さした依頼を見る。うむ。まぁ悪くはないか。
~依頼内容~
〇オーガの群れの討伐(40~60の目撃情報) Cランク依頼
〇アルバン帝国より北15キロ ディボラ村の近くにある洞窟
〇報酬 金貨50枚
〇討伐した数が目撃情報より多かった場合プラスで報酬あり
俺からすると小金だが、薬草よりは稼げるか。
まぁ、多くてもリリアに前みたいにじっとしてもらえば一瞬だな。
「いいぞ、これにしよう」
掲示板からびりッと破りリンのいる受付に並ぶ。
順番が来てリンは二人を見て微笑む
「あら、久しぶりに二人で行くのね。うん、オーガの討伐依頼ね。リリアちゃん一人なら心配だけどバハルさんが一緒なら安心だわ。」
書類にサインをして、ギルドを出る。
門を出るまでは普通に歩いていく。ミノタウロスを討伐に行ったときはギルドを出てリリアをすぐだき抱えて行ったのだが、流石に恥ずかしいからやめてほしいと懇願され、仕方なく了承した。今も少し歩くのがゆっくりなリリアに合わせて歩いているので、今すぐ担いでしまいたいが、我慢だ。リリアが恥ずかしい云々の前に最近ハンナはいろいろと吸収していっている。この前外に連れ出して買い物をしたら、八百屋の親父にこの前お姉ちゃんを抱えて早足でどっかいってたな、我慢できず抱きかかえて楽しいことでもしていたんか?といやらしい顔で言われ、ハンナがまるで俺を不快なものを見るかのような目で見ていた。
どうにか説明して渋々納得してくれたが、またほかの誰かにあんな風に言われてハンナからあんな目で見られるのは耐えられん。
やっと門を出て兵から見えない位置まで歩いた。よし、この辺ならいいだろう。
「おい、もういいだろ。」
「え?あ、うん。オネガイシマス。」
リリアは少し恥ずかしそうに両手を上げる。
腰を掴みひょいっと持ち上げる。しっかりと掴まってろと言って早足で歩いているが、リリアにとってはとても早く感じひょぇっと声を漏らしバハルの首に抱き着く。
女に抱き着かれるのもいいのだが、最近なぜかハンナに対して罪悪感を感じる。
ハンナを抱っこした時、「ここ!あーっしの!!」なんて言っているかわからずスラングに聞いてみると、「ここは私の、だと言っているんです。ほら、以前バハルが他の女性を抱きかかえてたって言われたじゃないですか。だからですよ。」
ああ、むすっとしながら見ている顔はとてもかわいかった。早く済ませてハンナを抱っこしたい。
ハンナのことばかり考えていると、目的地のディボラ村に着いた。
村長に挨拶をし、どこら辺にいるかを聞いて向かう。オーガが巣を作った場所が、村の農作物を備蓄する倉庫の近くで備蓄した作物は食い荒らされ、なくなると村の畑を荒らしたり、人間を襲うようになってきたので困っているようだ。ギルドに依頼を出したのはまだ作物の備蓄が残っている時らしく、もしかしたら増えてしまっているかも、と村長はふるえていた。
まあ、オーガくらい100だろうと200だろうと増えても変わらんが。
リリアは少しだけ不安そうにこちらを見てくる。
「あ?どうした?」
「バハルさん、数多くても大丈夫?ミノタウロスより繁殖する速さが全然違うから、不安になって。」
「んだよ、オーガくらい赤ちゃんみたいなもんだろ。それが100ぐらい増えたって別に変らねえよ。」
そういうとリリアと村長は驚いた顔でこちらを見てくる。なんだよ、本当のことだろうが。
「いや~、二人で大丈夫かと思いましたが、オーガを赤子とな。期待しております、冒険者殿。」
村長は深々と頭を下げて気を付けて、と二人を見送った。
「あんなこと言ったけど、本当に大丈夫?」
「なんだよ、そんなに心配か?」
ニヤリと笑い、ポケットからまたあの白い細い布を取り出して、リリアに見せる。
リリアの体がびくりと震える
「それ……しなきゃだめ?目つぶってるから、ね?」
恥ずかしそうに目をそらす。うむ、そそられるな。まぁ、ハンナには負けるが。
「あっ」
着けないという選択肢はないので、リリアの目に巻き付ける。バハルさんって少しエッチだよね、と呟いていた。耳元に顔を近づけ、そりゃあ、男だからな、と言って左手で抱き上げる。
「ひゃぁっ。」
前が見えずいきなり抱きかかえられてびっくりして声を出すリリア。
「じゃあ、今日もちゃちゃっと終わらせて帰るぞ。」
少しだけゆっくり(それでも馬が掛けるくらい)の速さでオーガの群れがいる備蓄用倉庫まで行く。まあ、サーチである程度の数は分かっている。また、ギルドの依頼内容よりも多いな。ギルドのあいまいな情報で冒険者たちはよくやっていけるな、と心配になる。
数は400程。繁殖して増えたせいもあるが、他の群れも合流したのだろう。一気に増えすぎだ。まあ、俺には関係ないが。
ああ、くさい。糞尿垂れ流し、食いかけのものが腐ってる。早く済ませて帰ろう。
リリアもあまりのにおいに、うっと声漏らし顔が歪んでいた。
バハル達に気付いた数匹のオーガはぐおおおおお、ぐがああああっと叫びながら棍棒を振り回しながらこちらに走ってくる。
全く、品位のない種族だ。醜い。
剣を振るフリをしながら魔法を放つ。10匹ぐらいのオーガの首をすぱんっと切り落ちしてぼとりと落ちる。
後ろから走ってきていたオーガは一瞬で仲間の首を切り落とされたのを見て、固まってた。
「なんだ、来いよ、下等な種族共。」
ぶわりと体から魔力を放つとオーガはカタカタと震えてその場に立ちすくむ。地面を蹴り上げオーガの群れに突っ込み目にもとまらぬ速さでどんどんオーガの首を切り落としていく。
リリアは以前のように震えてはいないが、生暖かい血しぶきが自分にかかるのは不快なようだ。
そして、20分後すべての首を切り落とし、他にもいないかサーチで確認する。
ふむ、もうお終いか。つまらん、と思いながらリリアを降ろす。
終わった?と見えていない目で見上げる。ああ、と答えると速攻目隠しを外して回りを見る。うえぇ、と吐きそうになるのを必死に耐えていた。
「相変わらずすごいね。バハルさんがもしかしたら人間じゃないんじゃないかって思えてきちゃったよ?」
「俺は、人間だ。たぶんな。」
そう言いながら収納バッグを取り出し剥ぎ取りもせず突っ込んでいく。
「バハルさん、剥ぎ取り……」
「いやだね、めんどくさい。そんなんしてたら日が暮れちまう。」
ぽいぽいとどんどんバッグの中に入れる。リリアもため息をつきながらも入れようとするが重くて入れれない。
「お前は先に村に戻って村長に説明しろ。数は今日はちゃんと数えたぞ。423って言っといてくれ。」
リリアの目が開き、まさか、と呟く。
「そういえば、上位種がいたぞ。あと、村人と思われる女の亡骸があったがどうするか聞いてきてくれ。」
バハルが指を刺した方向には大きな黒い布をかぶせている遺体と思われるものが二つ。
「……わかった。」
被害者と思われるものを見て俯きながら走って村へと向かっていった。
あと少しで終わるところでリリアが戻ってきた。村長と男性二人も一緒だ。
二人の男は黒い布をかぶせている遺体のところまで走っていく
布を少しめくり、地面に顔を伏せ声を出して泣いていた。大切な物だったのだろうか。
「ううう、……守れなかった父さんを許してくれ……」
どちらも若い女だ。男はどちらも父親だろうか。
バハルは二人に近づく。血まみれのバハルを見てひっと声を漏らすが、すみませんと謝る男二人。
亡骸はとても穢されている。大事な娘だったのだろう。
女の顔はあまりにも苦痛に歪み、顔はこけていた。生きていれば結構美人だっただろう。
バハルはその場にしゃがみそっと二つの遺体に手を添える。体の穢れは落ち、穏やかな顔になる。
二人の男は目を見開き、娘の顔にそっと顔に触れる。
「あ……ありがとうございます、ありがとうございます。」
バハルの手を握り何度もお礼をいう。服もボロボロだ。
ポケットからいらない服を取り出して渡す。
「その布と服はやるからどこかで着替えさせて、こんなとこじゃなく早く連れて帰れ。」
二人は頷きそれぞれ抱えて村へ向かう。
村長は深々と頭を下げ
「この度は退治だけでなく、攫われた娘たちと親の心も救ってくださり、感謝しております。悲しい話なのですがあんな状態では流石に村に連れて帰ることもできず、髪などしか持ち帰らずその場で燃やしてしまうのです。」
「まぁ、ついでだ。」
そう言ってオーガの回収の続きをする。村長は邪魔にならないようにリリアのそばに行く
「あなたの相棒は強くて優しいのですな」
リリアは、そうですよ~と笑いながらバハルの姿を見ていた。
「え!?帰られるんですか!?」
「俺は日帰りの仕事しかせん。帰る。」
村はお祭り状態だったが、関係ない。俺は帰る。早くハンナに触れたいのだ。
「せめて、血を洗い流されては……」
「そうだよ、少しくらいゆっくり……ほら楽しそうだよ?」
「ならお前だけ残れ。」
びしっとリリアのおでこにデコピンを食らわせて、一人村を出る
「まってえええええ!!!」
と叫ぶ声が聞こえるがそこまで遠くない場所なので明日にでも自分で帰ってこれるだろう。
少し離れたところで体についた汚れを落とす。
そして全速力で帰った。
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