第14話 とある魔族と少女の思い
「ぬおおおおおお!!バハル兄さまはどこに行かれたのだああああ!!!」
一人のまだ若い魔族が叫ぶ声が部屋に響き渡る。
これはバハルが魔族領から飛び出した日までさかのぼる。
「ライアン様、どうか鎮まりくださいませ……。」
隣で初老の魔族は必死に抑え込む。
「ジルダ、この状態で落ち着け!?無理でしょう!?僕には無理だ、僕はまだ50になったばかりだよ??無理だ、僕より兄さまのほうが強いじゃないか、なんで僕が……。」
黒い髪を一つに束ねライアンと呼ばれた魔族はバハルの弟であり、現魔王の末の息子である。
そして側にいる初老は側仕えのジルダは黒髪、赤みのかかった黒い瞳をしている
「他にも優秀な兄さまがいるじゃないか、強いからってだけで魔王になるのは嫌だあああ……」
がっくりと肩を落とすライアンは兄さまのばか、とつぶやいていた。
ライアンに優しかったバハルは、憎んでも憎めず、ただバカと繰り返していた。
「ならば本気を出さずに参加し、他の方に魔王になってもらえばいいのでは?ほら、あの問題児のお兄さんが魔王になりたさそうですし、強いですし」
「ジルダ、あの兄さまではだめなんだよ……魔族領がめちゃくちゃになっちゃう。バハル兄さまが帰ってきたら譲渡することできるかな?」
掠れた声で問いかける
「それは無理でしょうな。ただライアン殿下が退位すると宣言したのち、バハル殿下が魔王決定戦の決闘に参加しない限りは……。」
「うおおおお!!あの人ならめんどくさいっていいそおおおおおお!!!」
のけぞりながら両手を顔に当てながら叫ぶ。
初老の魔族は深いため息をついて、必死にライアンをなだめる。
二人して早くバハルが返ってくることを願いながら。
***********
「バァール?」
「惜しいですな。バの次は ハ でございますぞ。」
むむむ、と難しい顔をしながら必死にバハルの名前を練習する。
「ハンナは、バハルのこと好きですか?」
そう聞くとハンナの顔がぼんっと赤くなる。そんな様子を見てスラングは微笑む。
ふむ、ハンナはこちらの言葉をある程度理解している。だが、話すことができないようだ。今後ハンナの前でバハル殿下と話す内容は場所を考えなければいけないな。
と考えながら、ひたすらバハルの名前を練習するハンナ。
バハルは今、街に出かけている。勇者と聖女の情報を集めるのと、あとはただ散策したいだけのようだ。
「バハーリュ」
惜しいですがちょっと違いますよ、というとぶすっとした顔になる。
「まだまだ名前を呼べるまで時間がかかりそうですが、ハンナに呼ばれたら間違っててもバハルはとても喜びますよ。」
そういうと、バハルからもらった絵本をぎゅっと抱きしめながら微笑んだ
引っ越して幾分か経ち、あの後もリリアと時々パーティを組みながらギルドの依頼を受け無事達成している。
バハルは今、なぜか手にたくさんの花を抱えている。
バハルの顔はかなり不機嫌そうで、すれ違う人はひっと声を漏らす。
さっきアクセスとばったり会い、女性たちにもらったんだけど要らないからもらってくれと押し付けられた花だ。
捨ててしまいたい、だが、捨てるに捨てれない。
はあ、とため息をつき、家に帰ることにした。
家の近くまで来ると、スラングが玄関を開けて待っていた。
バハルの持っている花を見て少し驚いていたが、アクセスから押し付けられた、というと、くすくすと笑われた。
家に入るとリビングの椅子に座るハンナがいた。
ハンナがこちらを見るとぱあっと笑い、よたよたとこちらに向かってくる。
「いい子にしてたか?」
「うー。」
うんと頷くハンナがかわいくて頭を撫でたかったが花が邪魔だ。
スラングに押し付けて、頭を撫でているとハンナは横目で花を見ていた。
スラングに渡した花に手をかけ適当に一束つかみバハルはハンナにわたす。
顔を赤らめて受け取るとハンナはバハルの腰にしがみつく。
バハルはまだハンナを赤子のようなものだと思っているので、抱きついたハンナの頭をなでると、ハンナは目を細め嬉しそうにしていた。
「バァーハリュ」
「お、なんだハンナ。練習したのか?」
「うー。」
うんうんと頷くハンナがかわいい。
頑張れよ、と言ってハンナを抱きかかえ部屋に戻る。
ハンナは一瞬体を強張らせてスラングを見るが、スラングはまた首を横に振る。
ハンナは俯き顔を真っ赤にしていた。
部屋に戻り、ハンナはベッドに降ろされる。
マントを脱ぎ壁に引っ掛けハンナを見ると花束を手に持ちながらまだ俯いている。
ハンナの隣に座り顎に手を添える。
一体どうしてしまったのだろうか。こんなにも幼く、女には程遠い姿をしているのに惹かれてしまう。
ハンナの目は右へ左へ泳いでいる。
そんなハンナの唇に指でなぞると、びくりと体を震わす反応を見て笑い、ハンナの唇に自分の唇を重ねる。
最近はハンナもスープと離乳食のようなものは自分で口にすることができるようになった。
バハルがハンナにスープを飲ませることはなくなったが、一日に数度ハンナと唇を重ねる。ただ重ねるだけの時もあるし、口内を自由気ままに犯すときもある。
最初は抵抗していたが最近は抵抗も少なくなった。ハンナは今目を閉じてかすかに体を震わせている。
ふむ、抵抗がないな。つまらん。
そう思うとハンナの口の中に舌を押し込むちびくりと体が震え、顔がどんどん赤くなっていく。
片手は顎に添えたまま、片手を腰に当てベッドに押し倒す。
一瞬ハンナのうるんだ瞳がかすかに開いたがすぐに閉じる。
くちゅくちゅと部屋に響く。
唇を離し、顎に添えていた手で頭を撫でる。
ふうふうと息を荒くするハンナを抱きかかえ、目を閉じる。惰眠をとることにした。
一瞬ハンナがこちらを見た気がしたが、気にせず眠りにつく。
*************
ハンナは今、バハルの腕の中にいる。
夕飯も食べ、寝る前にまた唇を重ねて恥ずかしい思いをした。
引っ越してから一緒の部屋だと言われて、冗談でしょうと思ったが、毎日バハルに抱きしめられながら寝ている。
ハンナは、はっきりと意識が戻っていた。
中身は年相応なのだ。自分の意識がはっきりしたのはほんの少し前だというのにどうしてこんなにもはっきりと物事が分かるのか自分でもわかっていない。
何回か外に連れ出してもらって、くるくると走り回るかわいらしい服を着た女の子たち。
ある日、部屋にかかっている布が気になり引っ張ると鏡があった。
鏡に映る自分の姿を見て発狂したのは今でも覚えている。自分の体ががりがりなのはわかっていた。だけど自分の顔を見たことなどなかった。
何度も思い出しては、暗い気持ちになるけれど、どうしてバハルはこんな私に優しくしてくれるのか、しかも食事と言う名目がなくなった今、唇を重ねる必要などないのに。
時々おみやげだといって渡してくる増えていく高価な服やアクセサリー、絵本と美容品関係のもの。
私が一体何歳なのか全くわからない。
けれど、いつかきれいになって喋れるようになったら、ちゃんと感謝の気持ちを伝えたい
恥ずかしいだけじゃなく、この胸のぽかぽかとするものは一体何だろうと思いながら今日もまたバハルの隣で眠る。
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