第11話 口の中にあるもの

「バハル……この魔方陣は一体……。」

ハンナの舌から浮き出た魔法陣は見たことがないものばかりで見るだけではわからない。

「お前ほどの魔族さえわからないこの魔法はとてもおもしろいぞ。おかしいと思っていたんだ。ハンナほどの魔力を持つ者がいつもハンナの体には魔力がほとんど残っていなかった。だが、これで分かった。誰かが意図的にハンナの魔力を奪い続けている。」

「では、解除すれば……。」

「魔力を奪う魔法陣のみ残して他のはすべて解除する。」

「ほかの……とは?」

スラングがバハルの顔を不思議そうに見る

「まず解除しようとすると自爆するようになってる、これは国一つぶっとぶくらいの威力があるな。言葉を発せなくするもの、体を動かせなくするもの、痛覚や体の感覚をなくすもの、数年いや、寿命が来るまで食事をとらなくても生きることができる魔法陣もあるな。おもしろいものばかりだ」

スラングはさぁーっと血の気が引いていく。

「そんな……それはもう生きてるとは言えないでは……。」

「確かにな。でもまだ生きている。生きていなければハンナの魔力を奪うことができないもんだから、こんな厳重に重ねてるんだろうよ。あ~めんどくせえなあ。」

頭をぼりぼりと掻きむしる。

「バハル、どうやって解除するのですか?爆発するのでしょう?」

「あー、できないことはないと思うが、スラング一応自分に結界はっとけ。絶対なんてねえんだから。」

びしっとスラング指をさす。

「了解しました。私め、どこにいたら……。」

「まー……とりあえず後ろむいとけ……?」

「あ……はい。」

なんとなく察して後ろを向いて結界を張っておく。

ふぅ~と息を吐き、ハンナの舌を引っ張りながら自分の舌で魔法陣をなぞる。

(まずは自爆を解除っと……)

くちゅりと音を立てながら舌でくるくるとなぞりひとつひとつ丁寧に解除していく。

くちゅくちゅと静かな部屋に響き渡る。

体の感覚を戻すとバハルの舌が動くたび少しだけ体が震える。

ハンナの口からバハルの唾液が零れ落ちる

魔力を奪う魔法陣のみ残して舌を離すころには、ハンナの顔に少しだけ精気が戻り、虚ろな目はかすかに光が灯っていた。

もう大丈夫だろうとハンナに向かって話しかける。


「話せるか?」

「ぅあーー……」

「……は?。」


バハルもスラングも驚いた顔でハンナを見る。

ハンナは少し困ったような顔をして目を泳がせる。

「あーぅ?」

少しかすれ、弱弱しい声だ

「おい、スラング、これって……」

「まるで赤子のようですな。」

スラングは顎に手を当ててハンナの顔を見る。

「ちょっ!?えええ~、まじで!?」

バハルは手を額に当てて大声を出しながらのけぞる。

「バハル、もしかしたらハンナは生まれてすぐあの地下に入れられたのかもしれません。」

「ッ!!」

それなら辻褄があう。見た目は10歳前後だが、幼いころから魔法をかけられ閉じ込められていたのなら言葉を発せなくても仕方がない、いや、魔法で言葉を発することすらできなかったのだからできなくて当たり前なのだ。

「あ~、なんちゅうもんを拾っちまったん……俺は……」

バハルはハンナを膝に乗せたまま後ろに倒れこむ。スラングはでも捨てれないのでしょうと微笑んでいる

「あ~?」

不安そうな目でバハルの体の上をはいずりながら顔を覗く。

まだ体はがりがりで手もプルプル震えている。

「あ~、なんでもない。とりあえずは人並みの体力をつけさせた後勉強だな。」

「勉強ならお任せください!バハルでん……バハルだけでなくバハルの弟君にも教えていたのですから!」

胸に手を当てながらにっこりと笑いながら話す。

「あー、じゃあ頼んだ。ハンナ、寝るぞ。」

そういうとハンナを優しく抱え込み腕の中で包む。

「うー……あー……」

少しだけ恥ずかしそうにしているが、これは赤子のようなもんだと思いながら目を閉じて眠りについた。



目が覚めると一緒に寝ていたハンナがいない。

周りを見渡すと椅子から今にも落ちてしまいそうな感じで座っているハンナがいた。

「おはようございます。ハンナは先ほど目覚めてベッド落ちてしまっい床で泣いていたので椅子に座らせて、その、食事をとろうとしていたのですがうまく飲み込むことが嚥下えんげできないようです。」

机の上に飲んだのであろうスープがあるが、嚥下できないのか何度も布に吐き出した跡があった。

「あー、ちょっと待ってろ。」

ベッドから立ち上がり、椅子に座っているハンナを横抱きにする。

ベッドに腰を下ろしスラングにスープをとってもらい口に含む。ハンナの顎を手で押さえて顔を近づける。

「あー……あー!?」

少し驚いたような顔をして、手をバタバタさせて抵抗する。

バハルは、鼻で息をふう、と吐き、ハンナの頭を大きなの手の平で固定して唇を重ねて流し込む。

こくり、こくりとハンナの喉を通っていくが、なぜかハンナは目をつぶり顔が少し赤い。

嫌がるハンナを今度はベッドに押し倒して片手で両手をまとめて固定し、片手は顎を持ち逃げられないように唇を重ねて流し込む。

すべて飲ませ終わるころにはハンナはふぅふぅと肩を揺らしながら息を吐いていた。

「なんだハンナ、恥ずかしいのか?お前が目覚める前からずっとしていたことだ。今更恥ずかしがってどうする。」

ふうと、ため息をついて椅子に座り自分も食事をとる。

キッとこちらを睨んできたが、赤子が睨んできたものだと気にせず食事を続ける。

「バハル、さっきのは流石にへんた……」


「あ"あ"??」

低い声でそれ以上言わせないぞとスラングを見ると、いえ、なんでもありません、と横を向く。



髪は昨日変化の魔法を解いてしまったので再び茶色に戻す。目は変化の魔法をかけていなかったのでバハルと同じ茶色に変える。

流石に白銀の髪は目立つので茶髪で過ごさせる。

聖女の象徴とも言われている白銀で後々外に連れ出した時、騒ぎになるだろう。とにかくそんなことになったらめんどくさい。


「俺は今からギルドにいくからスラングは部屋に結界をかけて留守番しててくれ。」

ソファから立ち上がりマントを着る。

「結界、ですか?」

「ハンナが勝手に部屋を出ないようにと、騒いでしまうかもしれないからだ。」

そういうとドアに手をかけ廊下に出る。

「いってらっしゃいませ、バハル。」

スラングはバハルを見送り、イベントリからなにか言葉を教えられそうなものはないかとあさる。


ハンナは顔を真っ赤にしながら俯いていた

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