第10話 報告と発見

「え、すべて倒した……のですか?」

血まみれの二人を見ながら、信じられない、という顔をしていた。

「途中まで数えてたんだが、めんどくさくなって数えるをやめた。150以上はいたと思うが、証拠が見たいなら……」

収納カバンからずるりとミノタウロスの首を出す。

ひいっと声が聞こえるが、反応するのもめんどくさいので聞こえなかったふりをする。

「住みついていたミノタウロスは全滅もしくは数頭逃しているかもしれませんが、数頭程度ならみなさんでも追い返したり退治はできますよね?」

村人たちは顔を見合わせて、こくりと頷く。

「本当になんとお礼を言っていいか……お二方の見た目だけで判断して本当に申し訳ありませんでした。」

村長だと思われる男は頭を深々と下げると村人たちも次々と頭を下げる。

はあ、とバハルはためいきをつき、ミノタウロスの胴体をずるりと5体収納バックから出す。

「しばらく食事もとっていないだろう。これでも食べろ。」

「いいんですか!!??」

ああ、と返事をしてリリアを見ていいだろ?と聞くと、微笑みながらもちろんですと返した。

もちろん魔石とギルドに提出する剥ぎ取り部位は除いている。

村人たちは村がある程度復興するまでこの場所に留まると言っていた。

今いる土地は精霊の休憩所と言って、大昔に旅をしていた精霊が休んだ場所らしく、魔物が近寄らない場所らしい。

「では、俺たちは帰る。」

「え!?もう帰られるのですか!?おもてなしはできませんが、もう少しゆっくりしていっていただいても……」

「俺は病弱な子供の面倒を見ている。帰らないわけにはいかない。」

そういうと少しだけリリアがしょんぼりしていたが、まあ、気にすることはないか。

めんどくさいだけだけどな。

リリアを抱きかかえて、アルバン王国へと帰る。リリアは慣れてきたのか楽しそうに空を見ている。空は暗くなり、あと少しで門が閉まってしまうぎりぎりに着いた。

門にいた兵は血まみれの二人を見てけがをしていないかと駆け寄ってきて心配されたが、返り血だというと、ほっとした顔でおかえりなさい、と言ってくれた。


「時間が微妙だけど、ギルドに行きましょう。解体にも時間かかるし、今日預けちゃったほうがいいかも。」

バハルは頷きギルドに向かう。

リンが丁度ギルドの玄関のカギを閉めようとしていたところだった。

「明日帰ってくるものだと思っていました。二人とも血まみれですね、激戦だったんですね。」

ふふふと笑いながら中に案内する。

リンは二人が激戦を繰り広げて疲れ果てているだろうな、と思い普段はカウンターで話をするがギルド内にある椅子に座るように伝え依頼達成の書類を持ってくる。

「それで何頭いましたか?20?30?」

「150以上だ。途中から数えるのやめたからわからん。」

「は……?」

きょとんとした顔でバハルを見る。

「リンちゃん、バハルさんの言ってることは本当だよ。」

「で……ですが、ギルドに依頼があったときは20から30だと……。」

どんどんリンの顔が青ざめていく。

他のギルド職員は帰ったのだろうかギルド内は芯、と静まり返る。

「これが魔石だ。」

どんっとカウンターに袋いっぱいの魔石と剥ぎ取りした尾を収納バックから取り出しておくと、リンの顔からどんどん血の気が失われていた。

「ちょ……ちょっと待っててくださいね……。」

ぱたぱたと階段を駆け上がっていきドアをバンっと開けて何か話しているようだ。

二階に誰かいるとは思っていたので別におどろきはしないが。

どたどたと足音を立てながらやってきたのはギルドマスターのアクセスだった。


「やあ、バハル君!いやぁ一目見た時から君はただものじゃないと思っていたけど、まさかミノタウロスの群れを壊滅させてくれるとは!それも半日で帰ってくるとは!」

芝居を打ったような話し方にバハルは少し怪訝そうな顔になる。

「無事依頼は達成した。俺はもう宿に戻りたい。さっさと依頼完了のサインをさせろ。」

「いいや、今日はもう無理だ。魔石の数の確認と、これがすべてミノタウロスの魔石かどうか確認をしなければいけない。」

アクセスは袋の中の魔石を数個取だしじっと見ている。バハルの眉がピクリと動く

「どういうことだ……?」

「気分を悪くしちゃったかな?ごめんね、悪意はないんだ。ただ以前いたんだよ、魔獣や魔物の群れがでたといって、魔石の中に同じくらいの大きさの魔石の雑魚魔獣の魔石をまぜて出した冒険者が。」

にっこりと笑いながら両手を広げて説明をする。

「あー……なるほどな。わかったよ。これはギルドに預けておくから中身は確認したらバックは明日か近いうちまた来るから結果とそのバックを返してくれ。」

アクセスは徹夜で確認するので明日朝でもいいですよとニッコリと笑う

バハルは立ち上がり、リリアにじゃあなと一言残しギルドから出ていく。

「ん~面白い人ですねえ。」

「バハルさんはとてもすごい人です。」

リリアの目がバハルの背中を追っていた。



「帰ったぞ。」

ガチャリと部屋のドアを開けると、目の前にいたスラングにびっくりする。いや、ドアの前に立っていたのはわかっていたが、やっぱりびっくりするもんだろう。

「バハル、ハンナに早く食事をって……血まみれですなあ。」

バハルの頭から足先まで見てはっはっはと笑う。

ああ、血まみれのままだったな。忘れてた。どおりですれ違ったやつや宿に入ったときの周りが驚いてたわけだ

ドアを閉めて自分に清浄魔法をかけて体についた汚れと血をきれいにする。

「ん?ハンナに食事?」

「左様で。ハンナはバハルがいないと食事をとれません。私めが同じようにしようとしたら、怒っていたのはバハルでしょう……。」

「ああ……。」

そうだった。朝スープを飲ませてから、朝ギルドに行ってそのまま討伐に出ていたため昼は飲ませていない。

マントを脱ぎ、ソファにかける。ギシっと音を立てていつものようにハンナを抱きかかえてスラングからお皿を受け取る。

「あー……スラング、あっち向け。」

スラングがじっとこちらを見ている。はい、と言うと、なぜか部屋の外に出て行った。

ちっと舌打ちをして、スープを口に含み流し込む。

変化をとくときらりと光る髪が月の光できれいに煌めく。何度唇を重ねただろう。

変化の魔法をかけている時は少しこけた顔だが、魔法をとけばまだまだミイラのような顔と体だ。

少しだけ顔色がよくなっているようにも思うが、まだまだ健康には程遠い。


スープをすべて流し込み、じっと見つめてそっと唇を重ねる。

薄くひらかれた唇にバハルの舌をぬるりと滑り込ませる。

くちゅり、と卑しい音がするが構わず口の中を犯す。

ふと違和感を感じる。

舌を引き抜くと糸を引いているが、構わず口の中に人差し指と中指を突っ込む。

口を開かせて舌を引っ張る

バハルはかすかに不敵な笑いをしていた。



ドアの向こうで息をひそめて待つスラングを呼ぶ。

スラングはすぐ部屋の中に入ってくる。

バハルの不気味な笑いを見てぞくりと体を震わせる。

「バハル……?」

「これを見ろ。」

ハンナの舌を引っ張り出し、見ろという。

一体舌に何があるというのだろう?首をかしげながらハンナの舌を見る。

「……バハル、ハンナの舌に何かありましたか?」

バハルが少し魔力を灌ぐと何重にも重ねられた魔法陣が浮き上がってきたのだ

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