第9話 遊びの時間

「ほら指示された村の近くまで来たぞ。」

抱きかかえていたリリアを地面におろす。

リリアは疲れていないはずなのに、肩を大きく揺らして呼吸を整えていた。

「バハルさん、できれば走り出す前に説明をしてほしかったんですけど、今説明していただけます…?」

「何をだ?説明することなどない、めんどくさい。」

「め……めんどくさいって……ぐうう、わかりましたよ!空のように広い心で何も聞かずにいてあげますよー!」

なぜリリアはこんなに不機嫌なのだ。俺が抱えて走ったのだから疲れてもいないだろうし、楽だったんじゃないだろうか。

「さ、依頼のあった村に行きますよ!」

バハルの手を引き村へと向かう。

村に近づくにつれて、道は獣の足跡が無数みられ、木が根っこから引き抜かれていた。

「これは一体……。」

バハルは別に気にも留めず村へ向かう。

何度かミノタウロスに遭遇して100匹の群れを蹴散らしたりしたことはある。もちろん瞬殺で。群れで移動しているのなら、このぐらいまだ被害は少ないほうだ。

村に近づき、小さな門がある。門は半分崩れ、建物はほとんどが大破してしまっている。

「……バハルさん、危険じゃないですか?これはギルドの情報よりもっと多いと思います。」

「何だリリア、怖いのか?」

「こわくなんかっ!!……いえ、怖いです。」

語尾が弱弱しく小さくなり、しょんぼりと俯き震えている。

頭をポンっと叩き、大丈夫だと呟く。

ああ、ふわふわで触り心地がいい、もう少し触っててもいいだろうか。髪をくるくると指で遊んだり、軽く引っ張ったりする。

リリアの顔をふと見ると、顔が真っ赤だ。耳もついでに真っ赤になっている。

行くぞ、と言うと、う、うんと小さな声で返事をしてバハルの跡をついていく。

「ギルドより討伐依頼に来たものだ!誰かいないか!?」

叫ぶが返事がない。

「も……もう全員やられちゃったのかな……」

リリアは心配そうにきょろきょろと周りを見渡す。

いや、少し離れたところに魔物ではない生命反応がある。避難をしているんだろう。バハルはサーチで居場所が分かっているが、サーチができることは伝えてはいないし教える気がないので、リリアに村人がどこにいるのか教えるわけにもいかない。

「リリア、少し周りを見て回ろう。」

「う……うん。」

めんどくさいが、少し違うところも見て回って避難先を見つけた感じでいこう。

「ああ!冒険者さんやっと来ていただけたのですね!他の仲間の方はどちらに!?」

両手を組み祈るような姿の村人たちは他にも仲間がいるのだと思っているようだ。

「いや、俺たち二人だけだ。」

そういうと、村人の顔が一瞬で曇る。

「え……そ……そんな……。」

代表と思われる男が膝と両手を地面につく。

村人たちは二人を見て虚ろな目でにらむ。やっと来てくれたかと思ったらおっさんとまだ幼い少女の二人だからだ。

「なんだ、不満か?」

「い……いえ、そういうわけでは……。」

リリアがちらりと心配そうにバハルを見るとバハルの目がとても冷ややかだ。

「まあ、依頼は受けたから討伐はしていく。討伐が完了するまでここから動くな。」

村人たちに向かってびっと指をさして、踵を返してきた道を戻る。

「バ……バハル、皆疲弊してるんだよ。あんな言い方ひど……。」

「疲弊しているなど俺らには関係ない。助けに来た者に対しての態度ではないだろう。リリア、村人達のところにいてもいいぞ。」

リリアは首を振る。

「ううん、私はパーティのメンバーだよ。一人で行かせるわけないじゃない。」

ふんっと鼻を鳴らし、リリアの腰を引き寄せる。

「バハル!?」

バハルはポケットから細い布を出し、リリアの目に巻き付ける、単なる目隠しだ

「バハル!!??何するの!?」

リリアは驚いた声で叫び取ろうとするが、

「とるな。取ったら俺がリリアを襲うぞ。」

耳元でささやくとびくりと体が震え顔と耳が真っ赤になる

「いい子だ。」

バハルはニコリと笑い、リリアを左手で抱きかかえる。

少しびくびくしているリリアを面白そうに笑いながら、サーチで引っかかっている魔物のところへと向かう。



「リリア、動くなよ。あと俺がいいっていうまで目隠しもとるな」

バハルの目の前にミノタウロスの群れがいる。

リリアは何も見えず体を震わせる。見えてはいないがたくさんの魔獣の鳴き声が聞こえる度に小さな悲鳴を出す。

ミノタウロスの数はざっと100を超えているだろうか。

「さあ、遊びの時間だ。」

そうつぶやくと、空いている右手ですらりと剣を抜く。リリアを抱きかかえながら地面を蹴り上げ宙を舞う。

剣を目にもとまらぬ速さで振り回し首をきれいに落としていく。リリアは周りが見えず、ただ獣の叫ぶ声と剣の振る音、体にかかる生暖かい血しぶきをあびて、出そうな悲鳴を必死にこらえながらバハルの首にしがみついていた。

時間にして10分、すべて駆除終わった。

もういいぞ、とリリアの首元でささやくと目隠しを外す。

リリアは目を見開く。一面血の海である。

想像していた数よりも多いミノタウロスの死体に一瞬めまいがした。

「ば……バハルさ……全部お一人で・・・。」

カタカタと震えながらミノタウロスを指をさす

「?当たり前だろ。魔石と剥ぎ取りを手伝ってくれよ。」

バハルは無意識にリリアの腰に手を当て、背中をつうっとなぞる。

「ん……ふぅっ」

リリアの口から声が漏れ、バハルははっと目を見開く。

「す……すまん。」

リリアの腰から手を離し、ミノタウロスの心臓に(一体どこから出したのだろうか)短剣を刺し、魔石をとっていく。依頼達成の証拠としてミノタウロスのしっぽを切り取り、皮と肉は買い取りできるらしいが、流石にこの量は無理だとリリアは言う。

「なら、これにいれてくれ。」

そう言いながらポケットから一つの小さなバッグを渡す。

「え!?これって上級ダンジョンにしか出てこない収納カバンですか!?上級ダンジョン突破者なんですか!?っていうかバハルさんのズボンのポケットって一体何なんですか!?」

ああ、そんなめんどくさいこと聞かないでくれ、いろいろ設定を決めていくのがめんどくさいじゃないか。

「それは親父からもらったものだ。どこで手に入れたかはしらん。」

早くしろ、と小言を言うが、すごいすごいと呟きながらリリアはせっせと剥ぎ取り作業をしていった。

バハル自身にイベントリがあるがばれるとめんどくさいので、魔石としっぽを切り取りそれぞれ麻袋に入れ、せっせと作業をしているリリアの横で収納カバンの中にそのままの状態のミノタウロスを入れていく。

「ちょっ・・・バハルさん剥ぎ取り・・・ああ、でもこの量はさすがにしんどいかも。ギルドで手数料引かれちゃいますが解体してもらいましょう……。肉もいたんじゃうし……便利だな~収納バッグゥ」

そういうとリリアは魔石としっぽを切り取り、バハルが収納バックに詰め込んでいった。

「終わりましたけど、血がすごいですね。」

ミノタウロスの死体はなくなったが、一面血の海である。

「何だそんなことか。」

リリアの頭をぐいっとひっぱりバハルの胸に押し当てる

魔法を見られると後々めんどくさそうだからっと

「バハルさん!!!??ちょっと……。」

手をバタバタさせたり、胸をぽかぽかと叩くが、びくともしない。

バハルが手の平をかざしふわりと血が地面からずずずとひっぱりだし大きな玉になり、一つのカプセルまで濃縮させる。

手のぴらにポトリ、と落ちたカプセルはいつか使えるかもしれないとポケットにしまう。

力を緩めるとリリアはぶはっと声を出しながら、バハルから離れる

「もう!なんなんですか!?」

リリアの顔はまた真っ赤だ。よくまっかになるなあ、と思いながら、リリアの顔を見る。

じっとみられたせいか、恥ずかしくなって俯く。

「これでいいだろ?」

バハルの指さす先は、血の海など元からなかったかのような風景が広がっていた。

「ええ……バハルさんっていったい何者……?」

ちらりと見ると、さあ?と言う顔をしていた。

リリアは深いため息をつき、歩き出す

「まあ、村人たちに報告に行きましょう。」

バハルは黙ってリリアについていった。


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