第8話 バハル、パーティを組む

「バハルでんっ……ごほんごほん、バハルおかえりなさいませ。」

バハルがドアを開ける前にドアを思いっきり開けるスラング。

「お……おう。」

スラングがドアを開けるのは分かっていたが、こんなに勢いよく開けるとは思わずおどろいてしまった。

「あんなに小さかったバハルが……一人迷わず戻ってこられた…。」

よよよ、と指で目頭を押さえながら泣いている。

いつの話だよ……とため息をつきながらソファに座る。

「つい先ほど食堂より食事をいただいてきましたぞ。冷めぬうちに、さあ!さあ!!」

ずいっと料理の乗った皿をバハルの前に差し出す。

だから、子供じゃねえって、とぶつぶついいながら皿を受け取り口に運ぶ。

食べてるバハルを見て、父親のようにニッコリと微笑んでいた。

そしていつものようにハンナにスープを飲ませて眠りについた。




*********

一か月間宿で暮らしながら3日に一度のペースでギルドで依頼をこなし、無事ランクが1つ上がりFからEに上がった。

貯金、といっても本当は冒険者などしなくても一生遊んで暮らせるくらいの金は持っていたが、冒険者として稼いだ金もある程度たまった。

「スラング、家を借りるぞ。」

「え、廃屋かどこかに住むんじゃなかったんですか?」

驚いた顔でバハルを見る。

「さすがに町の中では無理だろ……。まあ、ある程度の大きさの家に住みたいがあまり贅沢は言えんだろう。」

バハルは今日、借家か売り家を探すことにした。



でもどこで借りたらいいんだ?と思いながら歩いていたら後ろから、バハルさん!と名前を呼ばれ

振り返るとリリアがいた。

「リリアか……。」

「覚えていてくれたんですね!」

息を荒げながら近づきニッコリと微笑む。

ギルドに行ってはいたが会うことはなく、マントもギルドで受け取った。

「今日はギルドに行くんですか?」

「いや~……家を借りるか買おうかと思って。」

「え!バハルさんこの町に住むんですか!」

嬉しそうな顔でバハルにずいっと近づく。

「まあ、仮の家だな。手持ちと相談しつつだな。」

「ギルドでも探してくれるので、ギルドに行きましょう!私も依頼を受けようとギルドに行く途中だったので!」

「あ……ああ。」

リリアが手をつないで引っ張ってギルドへと向かう。



「あら、リリアちゃんいらっしゃい、あれ、バハルさん?」

リリアがギルドにぐいぐいと引っ張りながら

中に入ると、リンがきょとんとした顔で見てくる。

くっ、そんな顔で見るのはやめてくれないか。


「バハルさん、家を探してるんだって!」

「え!……まぁバハルさんはまだランクが低いですが確実にこなしていますので、ぜひ紹介させていただきます。」

にっこりと嬉しそうに笑う二人。

なぜそんな顔をするんだ?その笑顔を苦痛でゆがめてしまいたくなるだろ?口に出さずに心の中でつぶやく。

「まだEランクだが、家借りれるだろうか?」

「もちろんですよ。確かにランクが高い人のほうが借りやすいですが、ランクが低くても依頼の達成率の高い人だと信用が付いて借りれるんです。たかが薬草採集、ですが、薬草がなければ高ランクの魔物を退治する時にもっていくポーションを作れません。冒険者は皆助け合って生きているのです。」

ニッコリと笑いながら、物件の書類をタンスの引き出しから出す。

リリアはそうだそうだ、とう呟きながら頷いている。


「なにかご希望の場所、間取りなどはありますか?」

「そうだな、日当たりがよくて2部屋は確実に欲しいな。」

「日当たりですか、どうしても住居が密集して日当たりが悪い場所が多いですね。日当たりがいいのは貴族や豪商、高ランク冒険者が住む土地でないときびしいですね……。」

「む、そうか。じゃあ日当たりはいいとして部屋は確実に二部屋欲しい。」

「バハルさんは確か親戚の子がいると言っていましたよね??」

「あと叔父も一緒に暮らしている。」

リンはぺらぺら紙をめくりながらと条件に合う物件を探している。だがなかなか、見つからないようだ。

「ん~、1部屋だけの空き家ならたくさんあるのですが、2部屋となると…値段も結構張ります……。」

「バハルさん、ランク上がったんでしょ?薬草だけじゃなくてオークの単体や小物の魔物の依頼くらいなら簡単に倒したらいいんじゃない?合間に薬草も採取すればある程度高くてもバハルさんなら払えるよ!」

「リリア、俺の年を考えろ。」

魔族ならばこのぐらいの年だとまだまだ現役だが人間ではそうもいかない。冒険者として生きていくには難しいと思われてもおかしくない。

「ええ~そうかな?バハルさんオークも一撃でやっつけたし、大丈夫だよ。」

ぺたぺたと体を触ってくる。

特に意味もなく触っているのだろうが、少し反応しそうだ。


「前はちょっと失敗しちゃったけど、これでも一人でDランクまで上がっていったんだから!私とパーティ組めばcランクの依頼まで受けれるよ!」

ふむ、それもありか。ちまちま小金を稼ぐよりだいぶ楽になるか。

「俺と組んでくれるのか?」

そういうとリリアの顔がぱあっと明るくなり、うん!とかわいく返事をする。

「バハルさん強いから、一緒に組んでくれたほうが私も助かる!」

なぜかだんだん周りの視線がきつくなっているが、まあ、めんどくさいので相変わらず無視をする。

「それでしたら、もう少し幅を広げて探してみます。ですが、バハルさんがお強いと言っても本当にやっていけるかはわかりません。調べておきますので、数件リリアちゃんと依頼をこなしてから、紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、それでいい。」

「今日、依頼受けていっちゃおうよ♪」

ぐいぐいとバハルを引っ張り掲示板の前に移動する。

Cランクの依頼か、お、パーティ限定の依頼も受けれるのか、ふむ。

リリアは黙ってバハルの顔をちらちらと見ている。相変わらず顔が赤い、熱か?

ふと、目に留まった依頼を指さす

「え……。」

リリアの顔がこわばる

「これにしよう。」

無理だよ、と言おうとするが、バハルの眼光が光り、出かかった言葉を飲み込んだ。


「え・・・この依頼を受けるんですか・・・?」

リンが困惑した顔でバハルとリリアの顔を見る。

依頼内容は10キロほど離れたところにある少し大きい村に数十体のミノタウロス。

Bランク依頼にするか、Cランク依頼にするか協議し、数が不明で少ないだろうとのことでCランク扱いとなった。

報酬は何人で討伐しようと金貨10枚。金貨1枚で銀貨10枚分らしい。あと魔石や素材を持って帰ったり、数が思っていた以上に多ければプラスで報酬が増える、ということだ。数が少なくても報酬が変わることはないみたいだ。

ミノタウロスくらいだったら数人のDやCランクパーティで十分みたいだが、今日組んだばかりのふたりで一人は最近Eランクになったばかりのおっさんである。

リリアも不安そうにちらりとバハルを見る。

バハルはちっと舌打ちをする。

「あー、ミノタウロスくらいなら倒せる。俺がいた村で普通に倒してたし、数が分かんねえってのは当たり前のことだったからな。」

リンは少し考えて、わかりました!と言いながら机をバンっと叩く。

「危険だと思ったらすぐに撤退することを約束していただけるのなら、いいでしょう。」

「バハルさん、本当に大丈夫?」

心配そうにリリアが顔を見てくる。

ぐっ、だからそのうるんだ目で上目遣いはやめてくれ。


「ごほん、無理そうなら撤退する、だからこの依頼を受けたい。」

「わかった!バハルさんを信じるよ!」

不安そうな顔をしながら、覚悟を決める。

「ではこちらにサインをお願いします。」

バハルもリリアもサインをして、リンに渡す。


「で、いつ出発していただけますか?」

リンが書類に不備がないか目を通しながら聞く。

「今からだ。」

「ブフォオオオ」

「ブッフ」

かわいい顔の二人だが唾を飛ばしてきたので、無意識に魔法で飛んできた唾を弾き飛ばす。

「バハルさん、何言ってんの!?」

リリアは驚いた顔でバハルを見る。

「なんだ、聞こえなかったのか、今からだ。」

そういうとバハルはリリアの腰に手を当て抱き上げる。リリアはきゃあ、と声を出すが気にせず抱きかかえる。周りの目がさらにきつくなったような気がするがそのままギルドの外に出る。

「バハルさん、お……おろして、恥ずかしいよ。」

「こうしたほうが速い。」

「え?」

門に向かい、今日はいつもの門兵ではなく違うおっさんだった。

「?今から行くのかい?」

「ああ」

門兵がニヤニヤしながらこちらを見ている。

リリアは顔を真っ赤にして俯いている。

「リリア、俺にしっかりしがみついておけ。」

「え?」

説明もなく、びゅんびゅんと駆けていく。バハルにとっては歩いているつもりだが、リリアは馬に乗っている感覚でいる。

「バハルさあああああんんん!!??ちょっ……はやいいいい!!!」

あまり揺れてはいないが恐怖でバハルの首をぎゅっと掴む。

リリアがなにかまだいっているが、バハルは完全無視を決め込んでいる。そう、めんどくさいのだ。




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