第6話 バハル、冒険者になる

バハルは今、一人で騒がしいギルドの受付にいた。

「冒険者登録ですね。ですが・・・。」

受付嬢はちらりとバハルの顔を見る。

「いやあ、親戚の子が病気のためはるばる田舎から出てきたんですよ。思い切って出てきたはいいですけど、仕事はなかなかみつからないでしょう?生活費と医療費が必要なので。」

ははは、と笑いながら頭をかく。

後ろにいるガラの悪い冒険者たちがこちらをちらちらみているが、気にしない。めんどくさいし。と思っていたが、まだ若い青年が後ろから大きな声でバカにするような声が聞こえる。

「おっさんがやれるようなことはなにもねえのになぁ!簡単な依頼なんて小さなガキがするもんだしよお!恥ずかしくねえのかな!」

そういうと周りがどっと笑う。

受付の人は困ったような顔をする。受付の子はおじさんだから、とかではなく、この年で一人で冒険者としてやっていくのは危険だというような顔をしていた。

「ごめんね、何を言われても守りたいものがあるんだ。登録だけしてくれる?」

にっこりと受付の子に向かって微笑むと、少し顔を赤らめて頷いた。

一枚の紙を差し出され、名前と得意な武器、職業など書く欄があったので、名前を書いて武器は無難に剣と書いておく。職業はまぁ、無職って書いた。

「それでは登録させていただきますね。」

そういうと記入した紙の上に銅の板を置く。

不思議なことに紙が小さな同のプレートに光りながら吸い込まれ、光が消えたかと思うと小さなプレートに名前、武器、ランクが書いてあった。

「バハルさんは一番下のFランクからとなります。一定の依頼をこなしたり、なにか実績を残せばランクが上がります。依頼は一つ上のランクまでのものでしたら受けることができます。」

説明しながらギルドカードをすっと差し出す。

「お子さんがよくなるといいですね。」

「ありがとう。」

受付の子はニッコリと笑いながら軽く頭を下げた。

バハルは依頼が貼ってあるという掲示板の前に立つ。

一つ上のランクの依頼といっても、薬草採集や小物の魔物の退治ばかりだ。報酬も少ない。

3人分の宿代食事代、あと怪しまれないようにハンナの薬代も稼いでおく必要がある。

じっと掲示板を見ていると、後ろからさっきバカにしていた男たちの声が近づいてくる。

バハルはめんどうだな、と思い気付かないふりをする。

「ようおっさん。そんなにじっと見てたっておっさんがやれるような依頼はねえんじゃねえの?この町には今勇者と聖女がいるんだぜ?」

この男の仲間だろうか。一緒にゲラゲラと笑っていた。

大きな声で言っていたのでバハルに聞こえていないことはないのだが、バハルは無視し続ける。

「おい、おっさん、無視すんじゃねえよ!!」

男がバハルの肩に触れると、男の体がびりりと電撃が走ったかのように震えその場に倒れる。

「お・・・おい・・・グラン?」

グランと呼ばれた男は白目をむいて倒れている。

「おや、静電気かな?」とわざとらしく笑いながら振り返る。

「てめえ!なにしやがった!!!」

仲間と思われる男たちは剣を抜きバハルに向ける。

「え?俺何もしてないですよ。俺ずっと掲示板見てどれ受けようかな~って考えてただけだぞ?」

うっすらと目を開けながら笑うバハルに男たちはぞくりと体を震わせる。

体が動かないのだ。


「はいはい、そこまで!!」

ぱんぱんと手を叩く音がする。バハルは目を閉じると男たちは剣を鞘に戻して舌打ちをしてまだ白目をむいているグランを抱えて外に出て行った。

「いやあ、見事でした!見たことがないですが、あなたは?」

ニッコリと笑いながら近づいてくる男に、目を向けると、男の耳がとがっていて色白、金色の長い髪がさらさらと揺れているエルフの美青年だった。

「バハルだ。今日冒険者になったばかりだ。」

不機嫌そうに答えると、エルフはバハルの顔を見て一瞬考えこむような顔をする。

「私はギルドマスターのアクセス、バハルさんこれからの活躍に期待していますよ!」

にこにこと笑うその顔に一発殴りたくなるような衝動に駆られるがこらえる。

「まあ、ぼちぼちな。」

と答えて掲示板に張られた薬草採取の依頼をちぎりアクセスの側を通り受付にもっていく。

「バハルさん、早速依頼を受けていただきありがとうございます。この依頼の報酬が安いのであまり受けてくれる人がいなくて助かります。品薄のため、たくさん採取していただけると助かります。」

受注書にサインをしているバハルをじいっとアクセスが見ているが無視してギルドをでる。

早足で門へと向かう。

昨日と同じ門兵がいた。

「あれ、どこかいかれるんですか?」

覚えていたのか、笑顔で身分証を受け取り、返す。

冒険者になったから早速依頼を受けた、というと、頑張ってくださいね、と笑顔で送り出された。


少し歩き草が腰のあたりまでの高さの場所で薬草を探す。

サーチを起動して、短剣で薬草を刈り袋に詰めていく。

町で大きめの袋を二つ買ったが既にぱんぱんになってきたので、サーチを起動したまま寝転がれそうな草原にごろりと寝ころぶ。

短時間でこれだけとれるのは流石におかしく思われるだろうと、ここで時間をつぶすことにした。

目をつぶり、心地よい風にあたっていたがバハルのサーチに何かが引っ掛かる。

むくりと起き上がり、めんどくせえなあ、とつぶやく。

走りながらこちらに近づく気配が二つ。

「いぃぃぃぃやあああああぁぁぁああ!!!だっだれかあああああ!!!」

誰かが叫ぶ声がする。ふむ、誰かが魔物に追われているようだ。

めんどくさいとおもいながらも、こちらに一直線に向かっているのでほおっておくのもめんどい、動くのもめんどくさいと思いながら剣を抜く。

なんかいろいろと隠しきれていない少女が必死に走りながらこちら向かってくる。

「そこのおじ様!たすけてえええええ!!!」

涙だけでなく鼻水もたらしてくるかわいらしい少女に、少し引きながら剣を構える。

少女の後ろをついてきているのは豚のような顔をしたオークだ。

なんだ、オークかよ、と呟いていると、少女はバハルの胸に飛び込み、必死に助けてと震えている。

はあ、と軽くため息をつき、剣を持っていない手で少女の頭を胸に押し付けるとぐえっと声を漏らしているが気にしない、とりあえず目の前の敵に向かって剣を振りかざす。

まだオークまで距離はあるが、魔法を打つ。

剣でやっつけたと思わせるために、剣も振る。

「!!??」

頭を男の胸に押し付けられている少女は顔を赤くしてふるふると微かに震えていた。

剣を鞘に戻し、頭を押し付けていた手の力を抜き少女を引き離す。

少女が後ろを振り返ると、オークは真っ二つになっていた。

「あ・・・ありがとうございます!!」

深々と頭を下げ、お礼を言っているが服がボロボロで見えてます、いろいろと。

はあ、と再びため息をつきマントを脱いで少女にかぶせる。

「あ・・・す・・・すみません。お見苦しい姿を見せてしまって・・・。」

「いや、まあ、見苦しくはなかったぞ。」

ニッコリと笑うと、少女は顔を真っ赤にして俯く。

「私・・・リリアっていいます。申し訳ないのですが、町に戻って服を着替えるまでマントお借りしてもいいですか・・・?」

リリアは青い瞳に薄い茶色のショートボブのふわふわの髪のかわいらしい少女だ。

胸もまあまあ膨らんでいたように見える。

はずかしそうにもじもじししている。

「今返せ、と言ったらどうするんだ?」

もじもじしながらいう姿が面白くて意地悪なことを言ってみる。

「っ!!!そういわれたら・・・もちろんお返しします・・・。」

顔をばっと上げてこちらをみる。さっきよりさらに顔が真っ赤になっていた。

「はは、冗談だよ。俺も依頼終わってるし、戻ろうかな。」

「あ・・・オークの退治の報酬はおじさ・・えと・・・名前は・・・。」

「んあ?俺はバハルだ。」

「バハルさんがこのオークの退治の報酬もらってください。私・・・退治すらできずにあと少しでその・・・オークに巣に連れていかれてやられちゃうところでしたので・・・本当にありがとうございます。」

オーク単体の退治依頼をくけたが不意打ちをくらい、犯されそうになったがどうにか逃げ出せたらしい。


「んじゃ、報酬はおれがもらうけど、退治したっていう証拠はどうすればいいんだ?」

「え?知らないんですか?」

「ん?冒険者になって一日目だからなぁ~」

けらけらと笑うバハルに目を見開いて驚いている。

「そんな・・・こんなにお強いのに・・・。」

「ん~・・まあ、田舎育ちだから村に出てくる魔物は自分たちで倒さなきゃいけなかったしな?」

「そ・・・そうだったんですね。」

納得してくれたようだ。というか設定をいちいち説明するのがめんどくせえ・・・と思いながらため息をつく。

あれ、俺ため息ばっかりついてね?


「じゃあ、私が剥ぎ取り作業しますので、見ててくださいね。」

そういうと、リリアはうっと声を漏らしながら真っ二つになったオークに近づく。

「胸の当たりに魔石があります。オークは素材になる部分が少ないのであまり受ける人がいないのですが、近くにある村の人が困っていたので受けたのですが・・・勝てませんでした。」

がっくりと肩を落として落ち込んでいるリリア。

「そして、退治した証明にするための剥ぎ取り個所はオークは・・・その・・オスだとこの部分になります。」

汚いものを触るかのように端切れで覆い指先でつまむ男の象徴・・・。そしてスパンっと切り落とすと、なぜかバハルもうっと股間を抑える。

「?メスの場合は首から下げている首飾りです。オークのメスは生まれた時に群れから首飾りを贈る習慣があるらしいのです。」

「そ・・・そうなのか・・・。」

オークの男の象徴を袋にいれて、水筒の水で手を洗い拭いてきれいにする。

冒険者というのも大変な仕事なんだな、と思いながらも股間を切られたオークにすこしばかりの同情しながらバハルは股間を抑えながら門へと向かった。

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