第5話 おじさんの買い物
スラングは今八百屋にいた。
魔族領にはない色とりどりの野菜と果物をてにとり、これはなんなのか、どう食べるのかしつこく聞いていた。
「お前さん、だいぶ田舎ものじゃな。こんなどこにでもあるジャガモンをじっくり見て何に使うか聞いてくる人は初めてだよ。」
店主は笑いながら、紙袋に野菜を詰めていく。
「小さな集落だったため作物もあまりなかったので。あと一つお聞きしてもいいでしょうか?」
「ん?なんだ?」
いっぱい野菜が詰め込まれた紙袋をスラングに渡す。
「町中聖女様の話でもちきりだったので、どういうお方なのかと。」
「ああ、田舎から出てきたばっかりだもんな、知らなくてもおかしくないわな。14年前に誕生したお姫様が聖女だったんだ。聖女が誕生したと聞いた時、もう国中、いや隣の国も喜んでいたよ。今は勇者と共に近隣の討伐をしているようだよ。」
「勇者様と聖女様のおかげで我々は安全に生活ができているのですね。」
スラングがニッコリと返すと
「そうさ!勇者様、聖女様さまさまさ!!」
しばらく主は笑顔で力説をしている。
その後もしばらく店主は勇者と聖女がどれだけ素晴らしい人かくわしく教えてくれた。
だがスラングは何かが引っ掛かる。
聖女は今、バハルの手の中にある。聖女がふたり、など聞いたことがないからだ。
「ありがとうございました。宿で待っている者がいますので、失礼します。」
ぺこりと頭を下げると、またこいよーと気さくに答えてくれる。
スラングは急いで宿に向かった。
バハルは暇だった。しばらくはハンナの髪や頬を触って遊んでいたが、反応のないハンナは面白くない。
「ひまだぁ~。」
ベットにごろりと寝ころびだらける。
こんこんとノックをする音がする。
バハルはドアの向こうにいる者が誰かわかっている。
「入れ。別にノックしなくてもわかってる。」
がちゃりとドアが開きスラングは部屋に入る。
「ですがやはり、ノックは常識的にも必要ですので。」
手に抱えた荷物をソファの上にどさりと置く。
「結構買ってきたな。」
「そうですね、人間の前でイベントリを開くわけにもいかず、少々疲れましたな。」
肩をぐるぐると回し、疲れたと呟く。
「はっ、そのぐらいでつかれるようなタマじゃねえだろ。」
スラングはかすかに笑いながら、紙袋をイベントリの中に放りなげる。
「バハル、少し聖女のことでお耳に入れたいことが……。」
「……聞こう。」
バハルはベットから起き上がりベッドの淵に座る。
「町で聞いてきたことですので、本当のことかわかりませんが・……。」
「かまわん。」
「では……」
聖女と呼ばれる少女がこの町を拠点にしていること。
聖女の少女は今は国王の第二王女で、わがままなところがあり、魔物を討伐するための装備は大金をかけ、討伐に行かない間はドレスや宝石を買いあさっている、ということだった。
勇者は数名の仲間がいるため、聖女がいなくても近隣へ赴き退治していること
「クズだな。まあ、勇者はマトモみたいだが。」
「私もそう思いました。勇者は頻繁に魔物退治に行っているようですが、聖女は1~2か月に一度、近隣のみだけのようです。」
「というか、聖女なわけねえだろ。ここにいるし。」
バハルは顔をハンナに向けて見る。
「左様で……。では聖女と呼ばれいている娘は一体何者なのでしょうか。」
「わからんな。俺は常にサーチを起動させているが違和感がある場所がある。」
「違和感、ですか?」
「ああ、あの廃屋の地下のように存在がばれないように魔法をかけているようだ。」
スラングは目を見開き、言葉を失う。
「ということは、この町に関係者がいるということでしょうか・・・。」
「確証はないが、可能性はあるな。まあ、俺の敵ではない。」
ぼすんと、ハンナにぶつからないように後ろに倒れる。
「そんなことより、メシ。」
「……はっ。準備しますね。」
「……食堂でどうにでもなるだろ。」
イベントリから急いで鍋と食材を出しているスラングに、ため息をつきながら言う。
「はっ!そうですね!もらってきます。」
そういうとバタバタと走って食堂に向かっていった。
目だけハンナに向ける。外から入る光で、ハンナの髪がキラキラと光る。
髪を一すくいしてぐっと力を籠めると、髪は茶色に変わり少し精気がこもった顔になる。
スラングが両手に料理を器用に持ち、部屋の前に立つ。
スラングははっと声をなくす。今、両手がふさがれていてドアを開けれない。だが、バハルに開けてなど言えない。
どうしようかとおろおろしていると、中からドアが開く。
「なにしてんだよ……。」
バハルは呆れたようにスラングを見る。
「も……申し訳ありません。」
ちっと舌打ちを打ち早く入れとつぶやく。
手に持った料理を机の上に置き、椅子に座り食べる。
スラングのほうが年上なのに、なぜか緊張しながら食べている。
「普通に食えよ、人がいるところでそんな風に食ってたら怪しまれるだろうが。」
「そ……そうですが。この状況にはなかなか慣れませんな。」
スラングは苦笑いしながら皿に乗った料理を口に運ぶ。
バハルは急いでもいないのに素早く食べ、野菜のスープだというものを口に含み、ハンナに唇を重ね流し込む。
「スラング、俺は今日ギルドに行くからハンナを見ていてくれ。」
「ギルド……ですか?」
「ああ。」
簡単に返事をし、ハンナにスープを飲ませる。
「人としてここにしばらく留まる。田舎から出てきた人間がそんなにお金を持っているとは思えないだろ。怪しまれないように簡単な仕事をこなし、その日暮らしができるくらいは稼いでくる。」
「私めがしますので……。」
「若い奴がやるのが不自然にみられんだろう。それにスラング、お前は信用できる。だから留守番してろ。」
信頼していると聞き、スラングはジーンと感動していた。
「バハルで……バハル、留守をしっかり守らせていただきます。」
手を胸に当て頭を下げると、だから普通にしろよ、と笑いながらつぶやいた
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