第4話 少女の名前

国境に近くなり、人が通る大通りを歩いていくことにした。


「これから俺のことはバハル殿下ではなく、バハルと呼べ。」

「そっそれはさすがにできません!せめてバハル様と……」

「あ??」

「いえいえいえいえ!!!バ……バハル……私は帰りません!!」

上出来だ、と微かに笑いながら、歩く。

「もう新しい魔王が決まっている頃だろうよ。俺はもうただのバハルだからな。」

バハルがそう言うとスラングは少し悲しそうな顔でバハルの背中を見つめていた。


大通りはやはり人がたくさん通っている。

人だけではなく獣人もちらほらいるようだ。

冒険者のような恰好をしたもの、商人を載せているだろう馬車、多種多様な姿の人間がたくさん歩いていた。

「あ、スラングこれ渡しとくからなくすなよ。」

ズボンのポケットをごそごそ探り引き出してスラングに渡す。

「これは……?」

「身分証だ。スラングお前はほとんどあそこからでたことないだろ?これがないと町に入れないから昨日の夜に作っておいた。絶対なくすなよ。」

「バハルでん……ごほん、バハルとは違いますから、なくしませんよ。」

にっこりと笑いながら革ひもが付いた名刺サイズのプレートを嬉しそうに受け取る。


しばらく歩くと、門の前に長い行列がずらりと並んでいた。

「うへえ、これ並ぶのか……」

顔が完全に不機嫌そうになるバハル。

「私めが蹴散らしてごらんに入れましょう」

などとスラングが言うもんだから、睨みつけながらやめろ、というと、しゅんと凹んでいるのか頭を垂れた。

長い列の最後尾に並び、待つこと2時間。

やっと俺の番か、と思っていると、後ろからガラガラと馬車を引く音が聞こえてくる。

「どけどけ!聖女様のお通りだ!道を開けろ!!」

御者が叫びながら猛スピードでこちらに向かってくる。

並んでいる人や、通行人はきゃあ、うわあ、とか言いながら道を開けている。

バハルも邪魔にならないように横によける。

本当なら馬車を粉々にしてしまいたいがぐっとこらえる。

馬車は順番などお構いなしに一番先頭に並び、数人分の身分証のプレートを見せ門兵は場所の中を確認して門の中へと入っていった。


今度こそバハルたちの番になり、門兵は申し訳なさそうに頭を下げながら身分証を提示してくださいと言うもんだから、ため息をつきながら、仕方ないか、と身分証を見せる。

「その子は娘さんですか?」

マントで完全に姿が見えないため少し疑っているのか、じろりと見る。

マントを頭からはがして、首輪が見えないように顔を見せる。

ふわりと茶色い髪が流れ、少しこけたような顔をしていた。

「親戚の子だ。難病のため薬と医者を探しに大きな町へとやってきた。親は生まれつき病弱なこの子をほとんど世話をしなかったので俺が引き取った。隣にいるのは俺の叔父だ。」

「それは、大変でしたね。少しでも良くなることを願います。それではこちらの石板に触れてください。」

石板の前に案内され、スラングとバハル、少女の手はマントから引き出してバハルが触れさせる。白い光がぱあっと光るとにこりと門兵はにっこりと笑い

「はい、問題ありません。アルバン王国へようこそいらっしゃいました。お嬢さんが少しでもよくなりますように」

ありがとうと言いながら頭を下げながら門をくぐり、町の中へと入っていく。

「長かったですなあ。」

「ま、こんなもんだろ。」

「あの石板は何だったのでしょう……?」

スラングは首をかしげて考えている。

「あれは犯罪者かどうか確かめる石板だ。どこの門にもあるもんだよ。」

白く光れば犯罪歴なし、犯罪者は赤く光り、罪を償ったものは黄色く光るのだ。

何度か人間の町に来たことがあるため、行列も仕方がないものだと分かっていたし、町に入る方法も分かっていた。。

「とりあえず、宿探すか。」

マントをまた頭にかぶせて背中をぽんぽんと叩く。

大きすぎずボロすぎない普通の宿の一室を借りた。

本当はスラングと別の部屋を取ろうとしたが、スラングが頑固拒否したため、めんどくさくなってツインの部屋を借りた。

「俺は一体いつになったらベッドで一人で寝れんだよ……。」

部屋にあるソファに背もたれにだらっと体重をかけて座る。

「私めがソファで寝ますので、バハルで……バハルはベッドでお休みください。」

スラングはマントを脱ぎハンガーにかけながら言う。

「何言ってんだよ。もう俺はただのバハルだって言ってんだろ、特別扱いすんな。」

はぁ、とため息をつきながらソファに寝転がる。

「あと、そいつ名前決めたぞ。」

「名前、ですか?」

そう名前だ。いい加減それ、これ、何かなどと言うのがめんどくさくなったのだ。

「名前はハンナ、だ。」

バハルはいろいろと名前を考えていたが、結局なんだかめんどくさくなってよくある名前をつけただけである。

「ハンナ、ですね。これからそう呼びます。」

「ああ。流石に親戚って言いながらあれとかいってるとおかしいだろ。」

「それもそうですね。」



バハルはギシっと音を鳴らしソファから起き上がり、窓側のベットに近づく。

ハンナは窓側のベッドに寝ている。

すうすう、と寝息を立てて寝ている。

変化の魔法をとくとまだまだがりがりの体だ。

最初に比べたら少しはましになったが、まだまだ健康、とはいえない。

それに全く眠りから覚めない。

ベットはセミダブルほどのサイズなので体の大きなバハルといえど余裕で寝れる。

ベッドの淵に座り、ハンナの髪をさらりと触れる。

バハルが毎日髪をとかし、オイルを塗っているおかげか痛んだ髪はさらさらになっていた。

スラングに何か食べるものと、ハンナの着替えと何か欲しいものでもかって来いとお金を渡して、すでに追い出してある。


バハルは不思議とこの少女に一目会った時からひかれていた。

見た目はミイラのようだし、最初であった頃は異臭を放ちはながもげそうだったが、なぜかとくり、と胸が高鳴った。

おでこに優しくキスを落としてハンナと名付けた少女の隣に並んで寝転がりそのまま眠りについた。



スラングはワクワクしながら街を歩いていた。

見たことのない料理、武器、鎧を見てテンションが上がっていた。

スラングはいろんな店を周り、いろんなものを手に取って楽しみながらショッピングを楽しんでいた。

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