第3話 向かう先

「聖女を……奴隷にするということですか……?」

スラングは驚きのあまり、みっともない声がでていた。

「そうだ、勇者や人間の元にはやらん。勇者などに渡したところで俺の敵ではないがな。どのみち俺たちが見つけなければ遅かれ早かれこれは死んでいた。人間共がこれを見つけることはできても、地下の魔法はなかなか破ることはできない。ならば、拾った俺が好きにしても問題なかろう。」

首にある奴隷の首輪をつうっとなぞり、微かに開いた眼を手のひらで瞼をそっと閉じさせる。

バハルの手がかすかに光ると、かすかに寝息が聞こえてくる。

「早々に拠点を探し、移動する。これを知っている奴がいるかもしれんからな。俺は好きに生きたいんだ。これを知ってるやつが騒ぎ立ててくるのはめんどくさい……。」

くあっとあくびをしてかすかに寝息を立てるこれ、と呼ばれた少女の隣に寝転ぶ

それなら殺してしまって、早々に移動したほうがめんどくさくないのでは?と思ったが、バハルにそんなことはさすがに言えず心の中にそっとしまい込んだ。



バハルが目を開けると空は明るく、日が昇りきっていた。

カーテンは一応窓にかかっているのだがボロボロのため、全く意味をなしていない。

まぶしくて目をこすりながら起き上がると、机の上にバハルの朝食だろうか、パンとシチューとサラダがあった。

あと冷えた具なしのスープも置いてあった。

部屋を見渡すとスラングの姿が見えない。

サーチをしてみると、この屋敷内にいるみたいなので、ベッドからおりて椅子に座り朝食をとる。

食べ終わるとスープを持ち昨日と同じように口移しで流し込ませる。

「一体いつ目覚めるんですか?人間のお嬢さん。」

笑いながら前髪を触る。

少女はミイラのような姿で髪は全く手入れされていないせいか腰まで伸びて、パサついている。

他のだれかが見たら死んでいるのか、魔族やその類だと思われてもおかしくない。

昨日は地下も暗く部屋も少しの明かりだけだったため髪の色までわからなかったが

髪はぱさついてしまっているが美しい白銀の髪の色をしていた。

まつげも長く、顔も整っているように見える。

この少女がふっくらとした顔になったらたいそう美人になるだろうと笑いながらぱさぱさの髪をするりと毛先まで指先までとおしていると、スラングが部屋に入ってくる。

スラングはぎょっとした顔でバハルを見る

まるで愛おしい人を抱きしめ、甘い時間を過ごしているかのようだったからだ。


スラングが驚いた顔で見ているため、バハルは不機嫌そうに睨み、なんだよ……とつぶやいた。

スラングは苦笑いをし、探し回って見つけたものを渡す。

少女が着れそうな服と、3枚の紙。 

軽く目を通し、くっくっと笑いながら、スラングの目の前でぺらぺらを紙を仰ぐようなしぐさをする。

「これはどこで見つけた?」

「……地下です。」

バハルもスラングも人間はなんと愚かで醜い者だろう、と思いながらも魔族もそう変わらないか、とバハルは思った。


三枚の紙を自分のイベントリに入れて、スラングの持ってきた服に手をかける。

少女のボロボロの服を脱がそうとするが、ぴたりと手が止まる。

「お前は外で待ってろ。」

?訳も分からず首をかしげる、スラングは言われた通り、部屋を出てドアの向こうで控える。

スラングが出て行ったのを見届けると少女のボロボロの服を脱がせて着替えさせるが、あまりにも細すぎてぶかぶかで似合っていない。

服自体はかわいらしいのに、ミイラのような容姿の少女には流石に似合うはずがないか、とため息をつき昨日のようにマントをぐるぐる巻きにする。

抱き抱えベットから飛び降りてドアの向こうで待つスラングの元へ行く。

「新しい拠点を探すが、本当についてくるんだな?」

バハルは少しいやそうな顔をしながら聞くと、もちろんですよ、とにっこりと答えた。

バハルはちっ、と舌打ちをしてずかずかと歩いていく。

スラングはニッコリと笑いながら無言でバハルの後ろをついていった。





バハルとスラング、ミイラのような少女はひたすら森の中を駆けていた。

ここ数日はひたすら移動をして、どこか廃屋や手放された館を探し回っていた。

だが、そうそう住みやすそうな場所は見つかるはずもなくただ無駄に走っている。

「これ以上まっすぐ進んでしまうとアルバン帝国にあと少しで入ってしまいます。違う場所を見て回りましょう。」

「……別に大丈夫だろ。」

「いえ、いけません。まだ幼いとはいえ、勇者達がいる国です。用心は……」

用心はしたほうがいい、と言う前に、バハルの殺気がスラングの口を閉ざす。

「俺が勇者ごときに後れを取るとでも……?」

「い……いいえ、そういうわけでは……」

スラングは体を震わせながら、俯く

「俺が行くと言ったら行く、俺のいう事が聞けんのならが置いていくぞ。」

ざりっと音を鳴らし足を止める。

「バハル殿下、申し訳ありませんでした。私めは何があろうとついてまいります。」

深々と頭を下げるスラングを見て、舌打ちをする。

「……スラング、これより人が多い場所に入る、魔族とばれないように角を変化で隠すぞ。」

「町に行かれるのですか?」

ゆっくりと頭を上げ、驚いた顔でバハルを見る。

「意外と人の多い場所のほうが見つからないもんだ。これにも変化の術を使い怪しまれないように病気ということにする。」

「……了解致しました。」

スラングは自分の角に触れフッと一瞬光ると角がきれいに消えてなくなっていた。

バハルは手を当てなくてもすうっと消し、目と髪色を黒から茶色に変化させた。

「髪も変えたほうがいいでしょうか?」

スラングは角を消しただけで他は変わっていない。

「そうだな、俺と同じ色で白髪を混ぜたほうが無難だな。」

わかりました、と言って髪と目に触れ光ると白髪交じりの茶髪に茶色の瞳に変化していた。


「行くぞ。」

また無言で国境へと向かう。

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