オンラインコラム【異語り】(本)1
ーまもなく深夜に差し掛かろうかと思われる時刻にお話聞かせていただくのですがよろしいんですか?
「盆限定のお店だからね。遅くまでお客さんを相手することもある。気にしなくて大丈夫だよ」
ーありがとうございます
「あなたの書かれる「異語り」は毎回拝読してましてね。初のインタビューが僕だなんて、光栄極まりないですな!」
ー以前からこの「謎の水飴屋さん」の取材をしてほしいという要望はあったんですが
「はは! 嬉しいね、しかし盆にしか商いをしないからねえ」
ーそうなんです。インタビューを快諾して頂き、本当にありがとうございます
ーそれにしても見た目に反して豪快な笑い方をされるのですね
「うんうん。よく言われるよ。だがね、人は見た目に騙されてはいけないと思うし、安易に判断するのは危ないことだな。」
ー至極ご尤もです。特にここは「京都」ですからね
「ああその通り。ここは「京都」だからね。今は盆だから殊更気をつけるべきだ。釜の蓋が開いたままだから鬼たちも直ぐには動けない」
ー噂では聞いていたのですが異(あや)関係の方だとかで。やはりこの時期は気を抜いてはいけませんか?
「関係者、と聞かれれば、まあ。うん、そうだね。身内さんが帰省されてるから、普段より警戒が薄れてしまうのも仕方はないんだけれどね。それと同時に、送り出したあとの役人も夏休みに入るからなあ」
ー送り出したあと、ですか?
「うん、僕は普段は伏見の河向こうに勤めているんだ」
ー伏見の河向こう。ということは地獄にお住いなんですね。数年前に大鬼が狂乱を起こした件については
「ああー、その話は未だに方方からつつかれるねー。地獄としても対策は取り始めてるんだけど、如何せんあの件で人の方からの関心が高まっちゃっただろう?」
ーそうですね。鬼を使役する術があるのではという根も葉もない嘘が出回るくらいでしたし
「うん、だからこちらからは不用意にちょっかいはかけないようにと言うくらいしか出来ないんだ」
ーというと?
「元々、鬼はこの現世に出ている時は悪さをすることで稼ぎを得るんだよ」
ー悪さ、不穏なワードですが?
「いやいや、さすがに戦後からは形を潜めてる方でね。ちょっとした物かくしだとか、だいぶましにはなってきてるよ。悪さの限度は決めてあるし」
ーなるほど。小遣い稼ぎができる程度、と?
「うん、そう。同じ悪さの頻度が高ければレパートリー不足として減額したりはするけれど、だいたい成人した鬼はワケアリでもない限りは地獄勤めだし」
ー救済措置、が大前提ということですか?
「ああ、もう。こういう話しだすと馬鹿共が集まって来る…、ああ、記者さんは見えないんでしたな」
ーええと?
「うん。ちょっと異が集まっててね、インタビューはなかなか無いし、対象が僕ってのも珍しいから」
ー…! そ、それは。
「ああ、大丈夫。あなたのファンが集まってると思ってくれたら良い。好きなものにはちょっかいをかけない!って条例もあるし」
ー…ちょっと落ち着いていいでしょうか
「あ、水飴食べる? 美味しいよ?」
ー是非戴きます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます