第15話 雲船団

 領主誘拐事件から数日。

 雲船ノアは久しぶりにレブレ住民の前に姿を見せ、現在はルデンツァ伯という貴族の訪問を待っている状態である。

 

 商談の主役のクレセアは。

 相手の調査も必要、ということでディエールさんが前々から集めていた資料を頭に叩き込んでいるらしい。

 もともと商談の可能性を見込んでいた、というディエールさん。

 やはりできる執事である。


 いよいよ明日に迫った有名貴族の訪問を前にした、レブレ領唯一の港。

 レブレの中心街にほど近いここが、明朝に決戦の舞台となるわけだ。


 一方こちらは停泊したノアの上で、傾いた日差しを背に受けつつ。

 俺とタナー、そしてもうひとりの心強い協力者がノアの甲板で準備を進めていた。


「にしてもよく修理したねえ。流石面倒を見てただけあるってとこかな?」

「まあ運が良かったってとこさ。別に俺が特別何かしたってわけじゃない」


 タナーは白髪に白ひげの男性に、曖昧な笑みを浮かべている。


「フォル君も無事で安心したよ!」

「あはは、ありがとうございます」


 人懐っこそうな笑顔を浮かべるもう一人の協力者は、モビッリさん。

 濃いめの褐色肌が印象的なノルディア族のおじさまで、同じ種族のタナーとはお腹の豊かさが違うといったところ。

 彼は優秀な家具職人としてレブレ領では名の知られた人である。


「もう無くなってしまうって聞いてたノアにまたテーブルを付けられるとはね。しかもお貴族様をここで接待しようなんて……いやいやわからんもんだ」


 そう。

 ルデンツァ伯への商談は、ノアの甲板で行うことになったのだ。

 ここで俺達が手がけた料理を食べてもらい、投資を持ちかけることになる。

 相手に目新しいものを見せて新鮮さを売りにしよう、ということらしい。


 俺達はノアの甲板でその受け入れ準備の仕上げをしているところであった。

 ちなみ暇そうにしていたカグハにも、別の準備をお願いしてある。


「よっしと……。これでどうだい?」

「いいですね!」

「おお!もともとあったやつよりいいんじゃないか?」


 彼が甲板に取り付けてくれたのは新しいテーブル。

 雲海下への思わぬ墜落で、今までおいてあったテーブルも椅子も全て無くなったため、今回新しく作ってもらったのだ。


 とはいえ、雲海の下の情報が拡散するのは避けたい……という事情があり。


「甲板が綺麗なままで良かった。急な故障で随分危なかったって聞いたけど」

「そ、そうそう!あれは随分焦ったぜ……街と離れたところまで行っちゃったからな。陸に引き上げてなんとか。衝撃でテーブルとかは雲海の下だよ」

「ははは。譲渡されて思わず運行したくなるなんて、タナー君もやっぱり男の子だね!とはいて、雲海の下へ行ったのがテーブルだけで良かったよ!」


 男の子心を炸裂させたタナーがノアを久しぶりに運行し、そのせいで急な故障。

 街から離れた場所で座礁したままであった……というようなやや無理のある言い訳で通している。


「皆喜んでいたよ。お別れ会をしたとはいっても、事故で失われるのは流石にね」


 茜色の日差しに照らされた真新しいテーブルを前に、モビッリさんは苦笑する。


「『商組合』としては何も出来なくて、結局タナー君にまかせてしまう形になってしまったし」

「いやいや。むしろあれだけの金を集める方法があれば教えてくれって話だ」


 雲船税について申し訳なさそうにする彼に、タナーは首を振る。


 『商組合』というのは地域の商店で作る集まりだ。

 商店前の道を皆で綺麗にしたり、ちょっとした催しを開いたりしてレブレ領唯一の商店街を盛り上げようと昔から頑張ってくれていた。

 地域への愛着が強い人達の集まりで、当然ノアのことも大事にしようという気持ちは強い。

 モビッリさんは『商組合』の代表だから、ノアの廃棄に際し動きを起こせなかったことを悔いているようであった。


「それで明日の商談がうまく行けば、ノアは存続できるのかい?」

「一応そういうことになってます」


 心配そうな彼に、俺はなるべくしっかり頷いてみせた。


「投資の件が前向きに進めば、雲船税も飲食税も乗り越えられる……はず」

「そこはもうちょっと言い切れよ」

「ははは」


 自信の無さが語尾に出てしまった俺にタナーが呆れる。

 その様子にモビッリさんは笑い声を上げた。


「全てはフォル君の腕次第、といったところだね?」

「ど、どうでしょう……」


 クレセアの交渉術にもかなり左右されそうだとは思う。

 相手はあまりいい噂の無い貴族らしいし……。


 考えないようにしていた不安がむくむくと湧いてくるのを感じていると、モビッリさんがため息を吐いた。


「ふう……なんだか情けないよ」


 いつも朗らかに――といっても俺がレブレを離れるまでの印象だけど――していた彼のそんな様子は珍しい。

 タナーも少し驚いたような顔を見せると、モビッリさんは苦笑しつつ肩を竦めた。


「君らより僕らおじさんはレブレ領に長く住んでる。けれど結局地域を変えたのは君達若者だ」

「地域を変えた……ですか?」

「いや、俺達は何にもしてないけどな」


 俺とタナーが似たような思いを言葉にすると、熟練の家具職人はくすっと笑みを見せた。


「君達は夢中になっていて気づかなかったかもしれないけど。今ものすごい弁当屋が張り切っているんだよ」


 モビッリさんが言うには、俺達が僅かな間提供した弁当は同じ弁当屋にも衝撃だったようだ。


「君らの所に並ぶのが面倒になったり、あれだけじゃ足りなかった冒険者が他の皆の弁当屋へ行ってペッシェを買っていたんだ」

「ああ、確かにもっと量を出してくれ!っていう冒険者も居たな」


 あの時の弁当はどうしても数に限りがあった。

 だからできる限り多くの人に行き渡るように、量は控えめにしていたのは事実だ。

 

 なるほど、足りなかった人も他の弁当屋で追加で買い物をしていたんだ。


「そしたら彼らが口を揃えて『ロドラのペッシェより美味い!』と。結局お客さんが喜んでくれたら嬉しいのが商売人さ。さびれていた街の久々の活気にあてられた部分もあって、各々の店でペッシェの研究が始まったようだよ」


 そんなことが……。


「君達が出す弁当も当然大人気でね。急に販売を辞めたって聞いて随分残念がっていたんだ」

「うちにも相当抗議が来てたみたいだしな……そういう事情もあったのか」


 浮上して最初に知ったのがそのことだ。

 急に姿を消してしまった俺達と、弁当。

 あれはどこへ行ったんだ、とタナーの実家は相当人が押しかけたらしい。


「『飲食税』の説明を聞いて事情は理解したけれど。弁当屋の彼らも複雑な顔をしていたよ。何しろ彼らが扱うのはペッシェと少量の芋だから……」

「芋は『飲食税』の対象じゃないですからね」


 ちなみに芋もペッシェに継いで食べられるものではあるが、レブレ領では生産量が少ない。

 それは畑を荒らしてしまう害獣が多くいるためだ。


 他の領地なら若者も多く、黒曜獣を狩る前段階の修行の一貫としてこういった害獣を討伐してくれる。

 ところがレブレは過疎化真っ只中である。

 働ける若者ほど、アケル領のもっと仕事が多い区へ行ってしまうのだ。


 結局害獣は減らず、芋を大量に安定栽培するのは中々難しいのが現状だ。

 

「こんな時領主に頼れれば……と思ってしまうけれど。若い貴族にそれを望むのは、私達の我儘というものかもしれないね」


 悪気のないモビッリさんの言葉。

 クレセアは彼女なりに足掻いていたし苦しんでいたけれど、それを領民が知ることはない。

 それはきっと正しい。

 けれど……俺はどうにも割り切れない想いを抱えてしまう。


「フォル、こっちはいい感じじゃぞ!」


 うまく言葉を見つけられずにいると、呑気な声が響く。

 黒曜獣の燻製を任せていたカグハが甲板へ上ってきたようだ。


「おう、焦がさなかっただろうな?」

「大丈夫じゃ!」

「つまみ食いは?」

「だ、大丈夫じゃ!」


 タナーと俺の質問にやや狼狽える彼女。

 つまみ食いはしたみたいだな……。


「おお、大きくて良いテーブルじゃのお!」

「ははは。ありがとう」


 真新しいテーブルを撫でながらカグハは嬉しそうな声を上げた。

 モビッリさんからすれば孫くらいにも見える彼女を、彼は微笑ましそうに見ている。


「さっきの話じゃがな」

「?」


 しばらくそうしていると、カグハは少し声色を変えつつモビッリさんのほうを向いた。

 相対したモビッリさんは、唐突な彼女の切り出しに首をかしげる。


「若い領主のことじゃ」

「ああ、クレセア領主のことか。カグハちゃん、知っているのかい?」

「ちゃ、ちゃん……というのはやめんか……」


 彼女のことは俺の友人と説明してある。

 とはいえ、身長が身長だ。

 モビッリさんからすれば『ちゃん』が丁度いいのは間違いない。


 まったく……と少しぐちぐちと言った後、カグハは軽くため息をついて続けた。


「あやつ、この船のために実家を売るらしいぞ?」

「えっ!?」


 俺達より歳下に見える彼女からそんな話題が飛び出したこと、それからその内容両方に驚いたのだろう。

 モビッリさんは驚きの声を上げ、俺とタナーの顔を見た。


「ええ、本当です」

「もう手続きしてるって聞いたな」

「……!」


 俺達が肯定すると、壮年の彼は絶句した。


 それはそうだろう。

 貴族が首都の家を売るのは、破産するか、罪を犯したか、普通そのどちらかしかない。

 貴族達にとって最大の財産であり誇りであるそれを手放すというのは、彼らにとっては最大の屈辱のはずなのだ。


 だから俺もあの夜から何度か確認したけれど。

 あれ以降、彼女の決意が揺らぐことはなかった。


「あの小娘はここの領舎をつい棲家すみかに選んだようじゃな」

「そんな……」


 内容が衝撃的だったからか、モビッリさんは『小娘』とカグハが呼んでいることは流してしまったようだ。


「妾は貴族とかいう人間達のしきたりは知らんが、相当なことなんじゃろ?」


 モビッリさんに一歩近寄った彼女は、確かめるようにもう一言付け加えた。



「他に後何をすればいいんじゃ?お主達の理想の領主とやらは」



 何を責めるわけでもない。

 何を肯定するわけでもない。


 感情を抜き去った無機質に感じるほどのカグハの声はよく響いた。


「……」


 見た目と随分違った雰囲気を纏う彼女に、モビッリさんは目を開き瞬きを繰り返している。

 何かを言おうとして、口を閉ざし。

 再び言葉を探す様子を見せる彼に、カグハはふふっと笑みを浮かべた。


「……なんてな。あの領主はそれくらいやって当然じゃな、すけべじゃし」

「えっ!?す、すけべ……?」


 茶化すような彼女の言葉に、モビッリさんは思わず、といった様子で声を出す。

 一瞬の張り詰めた空気はそれによって弛緩し、いつの間にか夕日は落ちきっていた。

 

 気にしないで、と俺とタナーで伝えると。


「じゃ、じゃあ私はこれで」


 と言ってモビッリさんは足早に甲板を後にした。




「ううむ……」


 その夜。

 俺はノアの食堂の熱道具を前に一人唸っていた。


「どうしたんじゃ?」


 と思ったのだが。


「どうした?」


 どうやら一人ではなかったようだ。

 

「タナーもカグハも何でいるんだよ……もう随分遅いから帰って寝たら?」

「いや、なんか美味そうな匂いするからよ。待ってたら食い物がでてくるんじゃないかと」

「妾どこでも寝れるしな。それで、出るんじゃろ?美味いもの」


 二人の期待眼差しが俺の手元に寄せられるが。

 お気に召さなかったらしく、反応はかんばしくなかった。


「今度はどんなのなんだ?……って骨じゃねえか」

「黒曜獣の骨は流石に無理じゃなあ……」


 食堂のこぶりな熱道具で熱されているのはタナーが作ってくれた鍋。

 ある意味で俺の教科書でもある『だらしない彼女の笑顔は尊い』に登場した調理器具の一つだ。

 ノアの故障した部分の銅板を加工して再現をしてもらったものだ。

 

 その中に大量の水を入れ、今は黒曜獣の骨を煮込んでいる。


「せっかくそれ作ったんだから、もっと美味そうなものに使ってくれよ」

「匂いだけは良いのが腹立つのじゃ……燻製つまんで寝ようかの……んぎゃ!」


 悪びれずつまみ食いをしようとする狐は、タナーが捕まえてくれたようだ。

 神としても女の子としても残念な声が聞こえた。


「で、それ食い物なのか?」

「食べ物……っていうか、飲み物かな」

「……いたいのじゃ……って飲み物?」


 首元をタナーに掴まれたらしいカグハは涙目になりながら、改めて俺の手元を覗き込む。


「この骨を食べるんじゃなくてね、この汁が美味いんじゃないかと」

「「汁?」」


 タナーとカグハが一緒の反応をする。

 ……意外と似たもの同士なのかもしれない。


「キャラバンにいた時にさ、骨を一度食べてみようって話になったんだ」

「ず、随分挑戦的なキャラバンだったんだな……」


 まあ言われてみればその通り。

 ただやむを得ない事情もあった。


「ほんと食べるものが無い時で。ムグの実とかもほとんど無くてさ。残ってるのは骨だけ……みたいな」

「草と骨だけかよ……しんどいな」

「一つ前のキャラバンじゃないけどね」


 屈強な冒険者とはいえ獲物がいなければ仕方がない。

 それに、天候や進んだ道によってそれくらいしか無い時もあるのだ。


「で、どうしたんじゃ……?結局食べたんか?」

「こうやって煮て柔らかくして食べたんだ。まあ全然腹は膨れなかったんだけど、意外と好評なところもあってさ」


 俺は鍋の中の大きな骨を避けて、小さな骨を器に取る。

 少しだけ塩をふって差し出すと、食いしん坊達は怪訝な顔をした。


「ほい、食べてみて?」

「ほ、骨だよな……これ」

「た、食べられるんか……ほんとに……」


 とは言いつつ、口に入れる二人。

 そしてすぐに笑顔になった。


「おお……歯ごたえがあって美味しいのじゃ!」

「骨だよな?こんなに噛み切れるほど柔らかくなるんだな……!」


 黒曜獣の骨は基本的にはとても硬い。

 というか動物の骨なんて大抵そんなものである。

 

「一部の小さい骨はこうして食べられるんだよ。食感がすごくいいでしょう?」

「ああ、これは美味いな!」


 器を差し出す二人に、もう一欠片くらいずつ骨を入れてあげる。

 コリコリと楽しそうに食べる二人に、頬が緩む。 


「まあ名前をつけるとしたら……柔らかい骨……だから軟骨なんこつ?」

「ううむ……骨っぽいが、違うものなのかもしれねえな」

「あんまり美味しそうな名前には聞こえんが、味は美味しいのじゃ」


 俺の命名はあまり気に入ってもらえなかったが、まあそれはよしとしよう。

 それにこれは副産物みたいなものだ。


「で、本命はこっち」


 骨をじっくり煮込んだこの汁。

 キャラバンにいた時、これも思い切って飲んでみたことがあったのだ。

 その時はあまり美味しくはなかったのだが。


「ん……お、おお……!」

「あちちっ……ずずっ……ふおお!?」

「美味しいと思わない?」


 器に追加した汁を飲んだ二人は凄い勢いで頷く。

 よかった……どうやらこれも口にあったようだ。

 

 かつてやった時とは違い、今回は燻製にした肉もいくつか入れ、更にしっかりと味付けもしてみた。


「熱いがそれがいいのじゃ!」

「ああ、これも美味い!汁を食べるって発想はなかったが……これはいいぞ!」

「ちなみにこれは何ていう料理なんじゃ?」

「『スープ』って名前を今決めたとこ」


 伝統的な童話に出てくる神様が飲んでいた、という飲み物の名前『スプレ』からとった。

 さすがにそのままの名前は気が引けたからである。


 さて、この料理はここまではとてもいい。

 二人の反応を見てもそれは間違いなさそうだ。


 しかし。


「腹持ちがちょっとね……。軟骨も少ししかないし、ただ飲むだけになっちゃうんだよなあ」

「なるほど……それで唸ってたのか」

「寝る前に食べるなら丁度いいのじゃ」


 出せば出すだけ食べるカグハの意見はともかく……。

 このままじゃ本当にただの汁。

 商談に出すにはやや寂しい気もする。


「燻製の肉を全部入れるんじゃだめなのか?あっちは随分少人数らしいし、肉を浮かせればそれなりに見えるんじゃねえか?」

「確かにね……」


 確かに考えてみればそれでもいいかもしれない。

 今回は食べる人が限られているし。


「じゃが実際に客を相手にするとなると、出せる量が限られてしまうってことじゃろ?」

「そこなんだよね」


 何か他に具があれば。

 と思うけれど、畑を維持するのが難しいレブレではそれも現実的ではない気もするし……。


「いやしかし、この味を出さないのはなんかもったいない気がしちまうな。一品として出してみても良いんじゃねえか?」


 せっかくここまで味が出来てきたんだし、可能なら俺も出したい。

 ひとまずの試作品として出してみようか……と考えた時。



 カンカンッ!



 と金属同士が打ち鳴らされる音とともに、大きな蒸気音が夜闇に響いた。


「な、なんじゃあ急に!?」

「これって……!」

「おいおい……まさか!」


 蒸気音に、金属を打ち鳴らす音。

 これは港に雲船が入る際の合図だ。

 ありえない、とは思いつつタナーとともに食堂の外へ出る。


「貴族ってのは時間を守らねえとは聞いてたが……」

「……まさか時間より早く来るとは思わなかった」


 ハクマツより更に上質な木材、コクマツで出来た艶のある雲船がゆっくりと港に入ってくる。

 時間的にも、見た目的にもあからさまに定期船ではない船。


 やや小型ながらも美しい船体には、見事な装飾とともに、かの貴族の名が大きく記されていた。


「『ルデンツァ』……だ。間違いない」


 明日訪問することになっていたはずの貴族の名。

 狭い港ということもあり、ノアにほぼ横付けするような形で入ってきた雲船。


「ほお、綺麗な雲船じゃのう!こっちノアとはえらい違いじゃな」

「ったく嫌味なくらい良い船だぜ」


 ため息まじりにタナーが毒突いていると、島に接岸した船から一人の女性が降りたのが見えた。

 慌てて出迎えた港の警備係と何やら話をした後、彼女は不意に港の端へ立ち慣れた様子で雲海に手を振った。


「なにしとるんじゃ……って!?」


 女性の急な振る舞いを不振に思ったのもつかの間。



――カンカンカンカンッ!



 再び鳴り響く金属の音。

 今度は港をぐるりと囲むように様々な方向からその音が聞こえる。


「おいおいおいおいっ!?」

「しょ、少人数って言ってなかったっけ!?」



 そして。

 夜闇から現れたのは、大量の小型雲船。

 それはもはや『雲船団』といったほうが正しい光景だった。



「ははは……これ、どうすんだ……?」

「クレセアは嘘つきじゃな……」


 レブレの港を包囲するかのように浮かぶ船を数えながら。


「ま、まさかね。全員に食わせろ、とか言わないよね……」

「は、ははは。まさかな」

「ふふ……そ、そうじゃな」


 俺達は乾いた笑い声を上げるのであった。

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