第10話 彼女の不純な決意

「あれね……」


 傾いた夕陽が辺りを照らす。

 昼の陽気はここらを後にしたけれど、それでもレブレの商店街は熱気に満ちていた。

 とある弁当屋に大量の客が並んでいたからである。


 私が領主に就任してから初めて眼にするほどの人だかり。

 こういうのがもともと苦手な私は目眩がしそうになる。


 とはいえ、これも仕事。

 とりあえずもう少し様子を、と近づくと。


「おっと!」

「っ!」


 大柄な男性とぶつかってしまった。

 人出がなければありえない久しぶりの感覚に、身を固くする。


 すると想像以上に大きな、しかし心配そうな声が聞こえた。


「すまねえな、。大丈夫か?」

「あっ……えっと……はい。大丈夫です」


 ならよかった、と気持ち良さそうに笑う男性。

 正体がバレていないようでほっとする。

 

 人件費の削減で今私を守る護衛はほとんどいない。

 とはいえ一応私は領主だし、今はまだ貴族の端くれ。

 悪しき企みに利用しようという人間がいないとも限らない。

 

 そんな事情もありでこそこそと視察をすることにした。


「お前さんもあれ目当てか?」


 彼はそう言って、列の先の店を指す。


「は、はい。美味しいって聞いて」


 見た所、彼は冒険者だろう。

 身体も大きいし、よく鍛えられているようだ。


「ああ、確かに美味いぜ!昨日も来たがありゃ絶品だ」


 彼は満足そうに何度も頷く。

 どうやらすでに例の弁当を食べたことがあるらしい。


「塩気はあるんだがよ、こう……違うんだ。いつものペッシェとはなんかな……」

「まったく……アンタちゃんと説明できないの?」


 大柄の彼が口ごもるのを見かねたのか、隣から女性の声がした。


「男の子だったのね。肌も白くて随分可愛らしいじゃない、同じ男なのにどうしてこんなに違うのかしら」

「種族が違うからだろ?俺はノルディアとしてはかなり美男子だと思うがな」

「ノルディア族に謝ったほうがいいわよ?」

「なにぃ!?」


 二人は随分と仲がいいようだ。

 もしかしたら同じキャラバンに所属しているのかもしれない。


 女性は絵に描いたような美しいトムテ族であった。

 透明感のある白い肌に、やや白っぽい銀髪ですらりとした身体つき。

 ……同じトムテ族なのに、どうしてこうも違うのか……。


 ちんちくりんな上、すらりとしなくて良いところがすらりとしてしまっている身体に悲しくなってしまう。


「で、例のご飯の話よね。あれは最高よ。まるで黒曜獣かってくらいの味がするもの」

「お前、黒曜獣食べたことねえだろ」

「まあ、例えよ例え。それくらい美味しいってこと」


 彼女に話を聞いていくと、その弁当は2つの食べ物が一緒に入っているとのこと。


「もちもちの……ええと、グラノって言ったわね。それと、塩気のあるお肉。こっちはあんまり多くは入ってないんだけど、さっと食べちゃうには丁度良いわ」

「そうそう、あの肉がな!名前はまだ付けてないって言ってたが、ありゃ最高だぜ」

「紙で包んであるんだけど、熱々で出してくれるのよ。はふはふって食べるのが美味しくて」

「ペッシェも熱いと美味いしな。もちもちのやつも熱くてうめえんだ!」


 二人はここの弁当が気に入ったようで、熱っぽく語る。

 私はまだ食していないので、もちもちとか塩気という単語で想像するしかない。

 けれど彼女らの話しぶりから察するに、相当美味だったのだろうと思った。


「元調理師とかって言ってたぞ?うちのキャラバンで仕事して欲しかったぜ」

「ホントよね。でもあの味を覚えちゃったら、ペッシェじゃ満足できなくなりそう」


 確かに、と笑う大柄な男性。


「その、お二人はこのお弁当を食べに?」


 二人とも機嫌が良さそうなので、私は色々と事情を聞いてみることにした。

 一応これも視察の一貫である。


「いや、たまたまさ。小キャラバンにくっついてきたんだ」

「ロドラで突発の黒曜獣が出てね、そっちにみんな行っちゃったからレブレ向けの補充募集があったのよ。で、たまには違う島もいいかなって。同じことを考えた連中も多かったみたいね」


 聞けば首都ロドラの近くで黒曜獣が現れたそうだ。

 定期的に姿を見せることが多いので、少し珍しい例だろう。

 おそらくその対応へ人員を割いたので、レブレ向けの派遣人員が足りなくなった。

 そして、その補充としてこの二人は名乗りをあげてくれたようだった。


「大正解だったわねえ。ほんっとロドラは日に日にペッシェが不味くなって」

「な。他の国から来たやつなんて、そのせいで帰ったやつまでいたからな」


 冒険者が今のロドラへ抱える思いは複雑らしい。

 仕事はあるが、住環境は良くないようだ。


「『とにかく蒸気』みたいな貴族達がのさばるようになって、なんか人情がなくなったわよねえ」

「ペッシェも手でやんなくなったらしいしな。それで不味くなったって噂だぜ?」


 イテル蒸気機関を利用した工場で大量に作っている、とは聞いたことがあった。

 どうやらその味はあまりよろしくないらしい。


「『清貧』ってのが奴らの中じゃ格好いいんだろ?」

「そのくせ黒曜獣のお肉は必死に買い付けちゃってさ。二枚舌……とは違うのかしらね?まあ、言うほど『清貧』できてないでしょって思っちゃうわ」


 でもそのお陰で俺達は稼がせてもらってんだがな!と二人は笑顔を浮かべた。


「冒険者で良かったわ。あんな面倒な生き方、私には無理ね」

「俺にも当然無理だな。表と裏を使い分けるっていうのか?そんな器用なことはできねえ」

「あれ使い分けられてるのかしらね。私には無理な背伸びにしか見えないわ」

「ロドラじゃこんな話できねえよな、貴族に叱られちまうぜ」


 ほんとよね、と笑う二人に私も釣られて苦笑してしまう。

 なんだか彼らのほうがよっぽど貴族を知っているな、なんて思ってしまった。




 私が貴族位を継いだのは10歳の頃。

 流行り病で両親が亡くなってしまったのがきっかけだ。


 さすがに10歳では政治に関してはちんぷんかんぷん。

 そんなわけで、当時治めていた領地はそのまま別の貴族に担当が移ることになった。

 

 結果、私達の家はしばらく宙ぶらりんな地位になってしまった。

 そして周囲の大人達は口を揃えて言いだした。


『貴族としての義務を果たしていないのに、いつまで貴族位を持たせるのか』

『取り潰しでいいのでは』

『他の国民、領民に示しがつかない』


 貴族には国家の税収からそれなりの額の補助金がでる。

 しかしそれも領地経営を始めとする仕事をするからこそ。

 10歳の当主に何ができるわけもなく、されど少額とはいえ補助金を受け取っている様子は、当然悪であった。


『庶民よりはるかに教養を持つ家庭を潰しても、それは国家のためにならない』


 しかしながらある貴族がこうして説き伏せてくれたらしい。

 私は学院に入って政治を学び、その後国家に尽くすことを前提に生活費を受け取ることになったのだ。


 ただ私の貴族位を繋ぎ止めてくれた人は、その後すぐに他国へ渡ってしまったらしい。

 面会を取り付ける間もなく、結局お礼は言えずじまい。


『出世しよう。そのためにとにかく勉強しよう』


 だからこそ。

 その人の判断が間違いでなかった、と示したかった。

 顔も知らない恩人に報いる方法はそれしかないって。


 貴族の子女が集う学院で必死に勉強して。

 過去の領地経営も全部見直して。

 黒曜獣と魔窟のみに頼る領地経営は相当に危険だと思うようになった。


 でも。


『いかに資源を有効活用するかということが先決だろう』

『黒曜獣が枯渇する可能性は、枯渇しない可能性と比べて高いとどうして言えるのか』

『金銭があればそれも問題ではなくなる』

『そもそもどうするのか。具体的な提案がなければ意味がない』


 私が学院で主張しても、一切の賛同は得られず。

 議論を深めることすらできなかった。 

 口先女、でしゃばり女史と非難される毎日。


 そんな時、近しい主張をアケル院の貴族がしたのだ。

 すると周囲はてのひらを返した。

 

『あの女は院の真似事をしたのだろう』

『身体でも使って近づいたのかも』

『おこぼれで生きているんだし、それくらい当然』


 結局彼らの底にあったのは、タダ飯食らいを排除したい、それだけだった。

 国家の敵、国民、領民の敵として糾弾きゅうだんする対象が欲しかったんだと思う。


結局人が嫌いになって。

 外に出たくもなくなって。

 学院を卒業する頃には、鼻つまみ者を追いやるかのようにレブレ領に送られた。

 

 その時学院の人間に掛けられた言葉を今でも覚えている。



『好きにやれるじゃないか。もう終わる領だからこそ君の活躍を示すのに最適だろう』



 貴族子女の彼らは欲求を建前で隠し。

 それらしい言葉を乗せるのが得意なのだと、その時に気がついた。

 そしてそんな世代が今、少しずつ政治に関わっていっている。


 ロドラで起きていることはその発露だろう。




――の……あ、……――あの……


「あの!お客さん?」

「っ!?」


 考えに沈んでいながらも列については行けていたらしい。

 眼の前にはトムテ族とノルディア族の混血……に見える青年がいた。


「大丈夫ですか?どこか具合でも……?」

「あ、いいえ!大丈夫です」


 私はいつも出さないほどの声で返事をする。

 茶髪で青目の彼はそれに驚いたのか、数回瞬きをしてから笑顔を浮かべた。


「お弁当ですよね?並んでいただいてありがとうございます!お一人様一つまでなんですけど、よろしいですか?」

「え、ええ……お願いします」


 調理師の格好をした彼は、手元で熱道具を使いながら私に話かけてくる。

 忙しそうだが、その表情はとても嬉しそうだった。


「フォル、紙とってきぞ!」

「あ!ありがとう!助かったよ」


 どうやら彼はフォルと言うらしい。

 歳は私と同じくらいだろうか。

 そしてその彼に近寄っていく男性を見て、私は逃げ出したくなってしまった。


「ん?随分華奢な冒険者さんだな。無理すんなよ?」


 ノルディア族の若者。

 彼は確かタナーといったはず。

 眼を見開いた私とは対照的に、彼は私の男装を見抜けはしなかったらしい。

 ぶっきらぼうだが、暖かい言葉を掛けてくれる。


「あ、あはは。ありがとうございます」


 まさか私がノアを押し付けた張本人とは思っていないだろう。

 どうやら彼もこの大繁盛の弁当屋を手伝っているようだ。


「ほい」

「あ、熱いのじゃ……!」


 そしてフォルと呼ばれた彼の隣では、いくぶん小柄な女性が食事を紙に包んでいる。

 古風な話し方をするけれど、若くて人目を引きそうなとても美しい顔立ちだ。

 

 私と同じトムテ族のようだが……胸が……胸が相当大きい。

 おかしい……なぜだ、なぜ私だけ……!

 ぐぬぬ……!


「ど、どうしたんじゃ。随分辛そうな顔しとるぞ……?」


 と、可愛らしいその子は私を下から見上げてきた。

 その手には紙で包まれた弁当。

 話どおり熱々で用意してくれたのだろう、ほかほかと湯気が立っている。


「ん。おまたせしたのじゃ。早めに食べたほうが美味しいのじゃ」

「ありがとう」


 大丈夫、と首を振った私に笑顔を向けつつ包みを渡してくれる。

 予め表示されていた金銭を支払うと、彼女は小さな手にそれを握りしめた。


 じゃあ、と離れようとした時。

 不意にその彼女は顔を近づけてきた。


「その包みは捨てないほうがよいぞ……!食べ終わったら中を見てみるのじゃ……ぐふふ……」

「えっ……包みを……?」

「ぐふふ……ないしょのおまけじゃ」


 その顔立ちに似合わない、親父みたいな笑みを浮かべると。

 大きな胸を揺らしつつ、彼女はもといた位置へ戻っていった。


「ないしょの……おまけ?」


 どうも意味は分からなかったが、ひとまず混雑している店内にいるのは申し訳ない。

 私は急いでそこを出ようとして、ようやく気づいた。


「ここ……タナーっていう技師の……」


 ……彼の生家は弁当を売っていたはずだ。

 そこで新しくこれを売り始めていたのか。


 今後のことを思うと盛大にため息が出る。

 そうして今度こそ、私は逃げるように店を後にしたのだった。




「な、なに……これ……!お、美味しい……っ!!!」


 思わず声を上げてしまい、口を閉じる。

 とはいえ、この辺りに誰かいるわけもない。


 ほとんど用事がある人の居ない始原樹の森。

 その奥まったところにある小さな魔窟周辺のここは、私の秘密の休息地だ。

 人ひとりようやく入れる大きさの小さな魔窟には、私のお気に入りの本達が溜め込んでる。


「……確かにこれは……すごいかも……」


 もちもちしてあっさりした味わいの白いやつと、じゅわっと肉汁を感じる不思議な肉。

 独特の香りも手伝って、これはずっと食べられてしまいそうだ。


「お腹に溜まりそうだし、冒険者から人気が出るのも納得ね」


 あの並びよう。

 信じがたいけれど、恐らく一度この味を体験した冒険者達が朝晩と通っている可能性は十分にある。

 

 レブレのペッシェはそれでも美味しいとは言われていた。

 けれど、これはそれ以上。

 そもそも普段口にしたことのない食感に、豊かな風味。


 黒曜獣のお肉ほど美味しい。


 その語り草はあながち間違いではない、そう感じてしまうほど素晴らしい味だ。


「これでペッシェより少し高いくらいか……。絶妙な価格設定ね、材料は一体なんなのかしら」


 お腹が満たされたところで、丁度陽が落ちきり空は星が支配しはじめた。

 私はこの秘密の場所に用意した、イテルを利用するランプに火をともす。


「はあ……なんかすごい贅沢をした気分だわ……」


 でも、この贅沢を長く楽しむことはできない。

 本当ならランプの灯りでお気に入りの蔵書を眺めて、至福の時間を過ごしたかったのだけれど。

 今日はどうもそういう気分になれなかった。


 なぜなら。


「『飲食税』って。本当に意味がわからないわ」


 ディエールにも見せた手紙に一人愚痴をこぼす。


『指定する飲食物以外の提供は届け出義務と、追加で税を課す』


 これはアケル院から各領主に向けた通達。

 そして掲示された課税額は相当に高額だった。


「雲船税とほとんど一緒じゃない……」


 しかしこれには理由があった。

 それはロドラでの深刻な食糧不足。

 単純に人が増えすぎた結果、ペッシェの加工が追いついていないらしい。


「で、贅沢をする人間からは税を取ろうと」


 つまり広く効率的に食糧を供給するために、調理の知識がある人間にペッシェを作れ、と命令しているようなものなのだ。

 国が運営するペッシェの大規模な生産拠点の給料を上げる、という政策付き。


「ロドラの事情を、っていうかアケル側の事情をレブレに押し付けないでよ……」


 彼らにはレブレのことなんて見えていないのだろう。


 確かにロドラを中心としたイテル蒸気機関の発展で様々な益はあった。


 紙が大量に作れるようにならなければ、お気に入りの蔵書だってあんなに揃えられなかっただろうし……!

 雲船の発展により、他国にその技術を輸出できるようにもなった。


「『清貧』を固持こじしてる貴族だって、結局黒曜獣は買い漁るのに……」


 汚いのは今回の税金対象に、キャラバンから買い上げた黒曜獣は入っていないこと。

 色々理由はつけてあるが、これは単純に金持ち達、貴族達の反発を抑えようとしたんだろう。



「あの店潰すのか……私」



 きっとこの税金は彼らには払えないだろう。

 理由も無く、益も無いのに領が補助してあげるわけにもいかない。


 この通達を彼らに伝えれば、それはもはや営業停止に追い込むのと同じ。


「……ほんと最低な仕事よ」


 笑顔で私に応対してくれた茶髪の彼。

 あの人数の客を相手にしながら、一切疲れた様子を滲ませない表情。

 

 あの素敵な表情を私は。

 


「美味なのが問題とは……上手くいかないものですね」

「ディエール……」



 秘密の場所にしてあったはずだが、もうバレてしまっていたらしい。

 無駄に有能な執事が、地面に座る私の目の前に立っていた。


「あれを目当てにレブレに人が移動したら、ロドラは困りますからね」

「……そうね、今でも人手不足でかなり苦しいだろうし」


 あの店を存続させれば、あらゆる方面から圧力をかけられる。


「そんな面倒なの……私嫌よ」


 本音を建前で覆ってうまく立ち回る彼らに、かないっこないのだから。

 私がどれだけ無能なのか、毎日思い知らされるだけなのだから。

 

「……では、通達されますか?」


 それがいい。

 そう思ったのに、私はすぐに頷けなかった。


「……」


 そんな自分の歯がゆさに嫌気がさして、逃げ場を探して。

 なんとなくもちもちが包まれていた紙をいじる。


「……?」


 すると、その紙は二枚重なっていることが分かった。

 

 今更そんなことに気づいたところで……なんて自嘲しそうになった時。



「ふぁうっ!!!!?????」



 私は自分でもどうやって出したのか分からない声を上げてしまう。


「お、お嬢様……?」

「はっ……!?えっ……んんん!????」


 一枚目の紙は普通だ。

 とても安価なもの、どこでも手に入るやつだ。


 問題は二枚目。

 

 こ、こここの、あら、あられもない表紙は……!

 そしてその裏に押された判子は……!


「……お嬢様。その判子、私の見間違いでなければレブレ領の『裏印』では?」

「ひっ……!?」


 怒りを含んだディエールの声に小さく悲鳴を上げてしまう。


「ち、違うの……!」

「ほう。違う……とは」

「さ、最近……その……」


 半年ほど前から、例の小さな魔窟にしまった大切な本が無くなっていっていたのだ。

 気づいたのがその頃だっただけで、実際にはもっと前からなのかもしれないけど……。


 もしかしたら誰かがこっそり持ち出し、書店に売っているのかも。

 そう考えた私は、『裏印』という判子を押しておくことにした。

 レブレ領主だけが持つ、領印の裏側についているもう一つの判子。


 大きな領では使うこともあるが、レブレ領ではまず使わない。

 だから丁度良いと思ったのだ……いつも手元にあるし……!


「もし書店に並んでいれば犯人を捕まえる手がかりになるかと……」

「貴女、魔窟にそんなもの詰め込んでたんですか!?」

「だ、だだだって!黒曜獣が出ないってことは安全ってことじゃない!誰も近づかないし!」

「だからって趣味に使う馬鹿がいますか!」


 誰も思いつかないからいいんじゃない!と言ったら更に怒られそうだったので黙っておく。

 とはいえ、これで犯人は捕まえられたわけだ。


「あ、あの美味しい弁当屋!絶対捕まえてやるわ……!私の大切な蔵書を……!」

「お嬢様、それよりも例の通達は……」

「……そ、それも一緒にしてやるわよっ!」


 彼らに営業停止を命じるのは大変気が進まなかった……が。

 それも今は過去のこと。


 本泥棒なら私だって思い切って、通達してやろうじゃないの!

 と決意を固めた時。



「……お嬢様。何者かの足音が……」



 ディエールがさっと私に寄り、注意を促したのだった。

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