第8話 楽観的な燻製

 勢いよく響く蒸気の音。

 ハクマツの床から伝わる振動は、空へ放り出されたあの日を思い出させる。


「よっし……!動くぞ!」


 タナーの喜色を含んだ声が聞こえた。

 イテル蒸気機関が唸りをあげ、ノアの推進機が動きはじめたことが分かる。

 

「なんかこの感じも随分久しぶりだ……!」

「誰かさんのせいで余計に時間がかかったから……な!」


 タナーはニヤリと笑い、歴史ある雲船の操縦桿を引き寄せる。

 言い出した俺としては、そう言われてしまうと言い訳の一つも出てこないが。


「落ちてきた時より、先行きは明るいってことで!」


 一応やれることはやってみたのだ。

 もやもやとしたまま、雲海の上へ戻るよりましな選択だったはず……多分。


「妙に前向きになったな……ま!そういうことにしとくか」


 俺は教えてもらった通り計器の数値を確認し、新たに取り付けられた木製の取っ手を握る。

 主となる操縦はタナーだが、推進機の細かい調整は別で担当が必要なのだ。


「こっちは問題なさそう!順調に上がってる!」

「了解だ!」


 少しずつうるさくなり始めた船内、俺達は負けないように声を上げる。

 ちなみに他にも様々新しい器具も増えてはいるが、増えたのはそれだけではない。


「こ……こっちもじゃ!ひとまず言っとった数字に向かっていっとるぞ……っわわ!?」


 カグハが新しい船員として加わったのだ。

 ただ乗り物には慣れていないらしく、足元がおぼつかない。


「フォル!あ、ありがとなのじゃ!」

「はいはい。気を付けてね」


 こけそうになった彼女を支えながらそう言うと、彼女はこくこくと頷いた。

 怪我はしなかったみたいだが、考えてみれば神様って怪我するんだろうか……。 


「怪我はせんが、痛いものは痛いんじゃぞ!ころがしても平気かな、とか間違っても思うんじゃないぞ!」

「いやいや、そこまでは考えてないって!」


 ぷりぷりと怒るカグハに、つい笑ってしまった。


「おい!いちゃつくのは後でな!浮上するぞ!」


 操縦桿を握るタナーが大きな声を張り上げ、イテル蒸気機関の音が更に大きくなった。


「い、いちゃつくじゃと!?不敬じゃ……ってわあああっ??」


 揺れも激しくなり、身体の小さいカグハは抗議もそこそこに計器台にしがみつく。

 そのまま計器の数値はぐんぐんと上がり、予定の値に到達する。


「カグハ!そっちは!?」

「だ、大丈夫じゃ!こっちはいつでもええぞ!」


 ふらついたのは一瞬だったらしい。

 態勢を整えた彼女と息を合わせ、俺達が床に用意されたペダルを踏み、取っ手を回すと……。



「浮上開始だぜ!!!!」



 楽しそうなタナーの声が響き、勢いよく蒸気が吹き上がる。

 

 そして歴史ある雲船ノアは、景気よくその巨体を空へと進めたのであった……。




「し、死ぬかとおもったのじゃ……」


 ふらふらになった狐耳の神様が、力なく草原に倒れ込む。

 

「大丈夫?」

「かろうじてな……今日は美味しいもの出すんじゃぞ……」


 草原に顔を突っぶしたままのカグハは、さり気なく夕飯の催促をしてきた。

 声に元気はないが、どうやら意外と平気な様子。


「神が乗り物酔いするとはな。やっぱりただの幼女もどきじゃないのか?」

「もどきじゃないし……幼女でもない……のじゃ……」


 息も絶え絶え、といった様子の彼女はごろごろと草原を転がる。


「……ふかふかじゃあ……」


 仰向けになった時の顔はかなりだらしなかったが、少しずつ生気が戻ってきたようだ。


「にしても……」


 俺は改めて周囲を見渡す。

 春を感じさせる風が頬を撫で、その暖かさに実感が湧く。



「帰って来たんだ……!」

「ああ……雲海の下から生還できるなんてな!誰かに言っても信じられないだろうぜ!」



 この間まで幹と根しか見られなかった始原樹レブレ。

 今この眼に映るそれは、大きく枝を広げ青々とした葉を茂らせている。

 眼下には見上げていた雲海がどこまでも続いている。


 過疎が進んでいたとしても、やはり故郷の風とはいいものだ。


「久しぶりに白い雲海を見た気がするよ」

「下からだと半透明……っていうか不思議な感じだったからな」


 タナーが手を尽くしてノアを修理してくれたのは分かっていたが、やはりそれでも確実に浮上できる保証はなかった。

 浮上できたとしてもこうして樹上に到達できるかどうか、かなりの賭けであったことは間違いない。

 俺達がいつも以上に気分を上げていたのは、そんな悪い想像を吹き飛ばしたい、ということもあったのだ。



「ってやっぱり人が減っとるようじゃな。樹上へ来るとよく分かる」



 カグハの声に振り返ると彼女は顔をしかめていた。


「いや、しかし。これならあのろくでもない本を落とした馬鹿者も見つけやすいというわけじゃな!」

「確かにそうか……ってあれ?どうやって見つける気?名前書いてあるわけないだろうし……」


 『聖書』に名前を書くなんて、そんな人はいないだろう。


「それがじゃな……最近落ちてきたものは判子が押されとるんじゃ……!」

「は、判子……?」


 自称善神様は、とても善神とは思えない表情で含み笑いをする。


「筋金入りの阿呆じゃ。まあそうでなくてもイテルの反応をみればわかるんじゃが、追い詰めるにはちょうど良い材料になるじゃろうて……ふふふ……」


 相手がその判子を持ってるとは限らない、とか。

 その辺ですぐに作れるものだったらどうするんだ、とか。

 販売した書店の判子じゃないか、とか。

 まあ色々考えないわけでもなかったが、本人が楽しそうなので良しとしようか……。


「でも、ちょうど良いところに出れたな」

「何がじゃ?」


 タナーの満足気な言葉に、カグハが反応する。


「ああ。見てみろ、あっちが湖だろ?」


 彼が指さした方向にはうっすらと水面が見えた。

 そしてその水面の向こう側はおそらく。


「レブレの街……かの?」

「俺達が落ちたところからは大体逆側に出たってことになる。随分街からは離れたな」

「確かに、いい具合に作戦どおりだね」


 俺がそう言うとタナーは嬉しそうに頷いた。


「浮上しながら全力で進んだからな」

「相当揺れたのはそのせいもあったってことか……」

「ま、ぶっつけ本番にしては上出来じゃねえか?お陰で騒ぎにならないで済んだ」


 確かに。

 急にノアが雲海から浮上してきたら相当面倒な騒ぎになっただろう。

 衛兵やらなんやらがやって来て、こんなにのんびりと帰郷を楽しめなかったに違いない。


「ただでさえ騒ぎの種がね……」

「ああ、付いてきちまったからな」

「なんじゃ、その顔は!不敬じゃぞ!」


 耳をぴんっと立てるカグハ。


「ひとまずこれでええじゃろ?」

「お、おお……それ消せるんだ」


 得意そうな顔をした彼女の頭には、すでに狐耳は無くなっていた。

 こうして見ると、小柄な普通の女の子である。

 ただし、身体つきは……特に一部分……人目を引きそうではある。


「チッ……」

「なんじゃ、その態度は!?ちゃんと普通のおなごに見えるじゃろ!」


 変態技師は彼女のその部分に納得いかないみたいだけど……。

 普通の紳士は目を奪われるんじゃないかなあ。 


「その……悪い男にだまされないようにしてね」

「そりゃ無理じゃ、もうフォルに騙されとる」


 俺の小言に、ふふっと楽しそうに笑うカグハ。

 どうやら体調は完全に持ち直したようだ。



「っていうか、黒曜獣の管理は本当に大丈夫なんだろうな?」



 そこでタナーが改めてカグハに聞く。


 樹上での生命活動規模が小さい今、彼女が使える魔法やその規模に制限がかかっているらしい。

 

 だからこそ、本当は雲海の下での安全確保を続けてもらいたかったのだが。


「やつらをやっつけられる聖獣せいじゅうを数匹配置してきたからの。妾からイテルを供給できれば大丈夫じゃな」


 じゃから、とカグハは悪戯っぽい笑みを俺に向ける。


「美味いご飯を妾に食べさせるんじゃぞ?」

「タダ飯食らいにそれっぽい理由を付けただけじゃねえのか?」


 タナーのからかいに、なんじゃとお!と彼女はぷりぷりしだした。

 しかしこれが意外と重要なことらしいのだ。


「『美味しい』って感覚は食事内のイテルに関係があったとはね……」

「そうじゃ。全ての生物はイテルを一定量摂取せんと調子が悪くなるようにできとる」


 怒りを一旦閉まったカグハはそう言って頷く。


「人間の味覚も自身を守るための防御機構なのじゃぞ?だから身体に悪そうなものは、苦いとか、辛いとか。ある程度刺激を感じるようにできておるんじゃ」

「それは確かに聞いたことがあるな。まあ全部がそうじゃないらしいが」


 それは俺も聞いたことがある。

 組合にいた頃、学院を卒業した賢い連中はそんな話をしていた。


「食事が『美味しい』というのは、通常より上質なイテルを感じているからなのじゃ。そしてそれは妾も同じ。フォルの料理に極上のイテルが含まれとるのは間違いないのじゃ」


 つまり彼女は樹上では空気中からでなく、食事からイテルを吸収しよう、という目論見らしい。


「現に木の実を食べていた頃よりずっと魔法のキレはいいのじゃ。雲海下の安全を考えれば、フォルの料理を食べつつ聖獣を維持するほうがマシじゃろう」


 自分で料理をすればいいんじゃ、と思ったが。

 彼女の性格上、雲海下に残すとまた木の実生活に戻るのは明白であった。


「責任重大だな、レブレの街の存続がかかってるぞ?」


 挑発的な目で俺を見るタナー。


 つまるところ、彼女に同行してもらったほうが雲海下の安全性は高まる……という妙な状態になってしまっているのだ。

 まあそのためには美味しいご飯を食べさせ続けなければいけないのだけれど。


「まあ、どっちにしろ美味しいもの食べてもらうつもりだったし……変わらないな!」


 ……うん、そういうことにしとこう!

 あまり難しいことを考えても仕方ないのだ。


 2人が美味しい!って言ってくれることが好きなんだし!


「なんか最近のフォルは吹っ切れはじめたな……いや現実逃避か?」

「ふふ……頼もしいの」


 にやにやとする2人に、俺はちょっと照れくさくなって目を伏せる。


「で、最初はどうするんじゃ?飯か?」

「はええよ!」

「タナー、天然のイテル水ってまだある?」

「雲海下ではちょっとしか取れなかったし、少ないな。とりあえずそれから終わらしちまおう」

「それ、妾もやるんか?」


 少々当初の予定と差異はありつつも。

 俺達はこうして作戦行動に移ったのだった。



 『雲海の下で得た食材で、弁当屋を始める』


 料理でもう一度挑戦する、と決めた時。

 俺が考えた手段はこれ。


 浮上も怪しいノアではあったが、それが成功さえすれば。

 再びの潜航はそう難しくない、というのが修理中のタナーの意見であったからである。

 どうも下降に使われる機構の重要な部分は、非常に強固な素材でできていることがわかったらしい。



 日が落ちて、本日の作業を一旦終了した俺達はノアの食堂に集っていた。


「やっぱり狭くなってしまうんじゃな……」


 カグハがやや不満そうにする。

 操縦室と食堂が繋がるのは、雲海下へ潜航する形態へ変形した時だけだ。

 今は通常の状態に戻っているので、食堂は元の大きさである。


「で、ノアはどう?再潜航はできる?」

「雲海下での稼働が確認できたし、おそらくノア側は大丈夫だ。雲海上での制御方法ならいくらでも資料があるしな」


 雲海上での制御、というのは要するに普通の雲船の制御と同じ。

 旧世代の雲船とはいえ、資料は簡単に手に入るらしい。


 ただ、とタナーは続ける。


「完全に潜航するまでのイテル水は自分達で汲んでこないとだな。売ってる濃縮イテル水じゃ駄目だ。天然ものがいる」

「ってことは魔窟の周辺へ行かないとってことか……」

「ある程度の高度まで落ちれば、空気中のイテルを吸収できるんだがな。いかんせんそこまでは動力が必要だ」


 第一世代型であるノアの動力は、現在流通している濃縮イテル水では無い。

 だからこそ自力調達が必要になる、というわけだ。


「妾がついていけばええじゃろ。黒曜獣は出ないって分かっとるんじゃし、いざとなれば人の子二人くらい守ってやれる。安心せい」

「ありがと」


 俺がカグハにお礼を言うと、ぴょこっと耳が現れ忙しなく動く。

 どうやらご機嫌なようだ、わかりやすくて大変結構である。


 俺がそれを見ているのに気づいたのか、彼女はおおっ?と変な声を上げて再び耳をしまった。


「とりあえず目玉になる黒曜獣の肉は一応載せてきたが、あれで持つのか?」

「なんか色々やっとったようじゃがな、あれ美味しいのか?下処理とかなんとかいって、浮上を遅らせたじゃろ?」


 当然新しい弁当の目玉になるのは、黒曜獣の肉だ。

 とはいえ、これをそのまま出してしまっては面倒なことになる。

 第一保存もそう長くは効かない。


 ふふふ……だからこそ!


 今回は『燻製くんせい』という手法を使ったのだ!


「煙をかけてたよな。単純にくさそうなんだが……」


 タナーの心配ももっともだ。

 俺も最初にあの工程を見た時は驚いたものである。

 とはいえ、この不安を払拭する方法は簡単だ。


「ほい、これ食べてみて」


 雲海下で作った木製の粗雑な皿に、燻製にした黒曜獣の肉を薄切りにして出す。

 生ではないが、うっすらと赤みが残る断面に二人は目を輝かせ。


「う、美味え……!!」

「適度にしょっぱくて美味しいのじゃあ……!」

「でしょ?」


 一口食べた二人は、俺の言葉に満面の笑みを浮かべた。


「あんなに煙をかけてたのに臭くないんだな。いやそれっぽい香りはするんだが」

「妾はむしろこの香りすきじゃぞ?」


 燻製というのはさほど難しいものではない。

 塩漬けにした食材を寝かせ、その後水にさらし塩気を抜く。

 続けて水気を乾燥させた後、木材を燃やした煙でいぶすのだ。


「今回はナミスギでやったんだ。カグハに拾ってきてもらった枝さ」

「おお、あれ使っとったんじゃな!」

「ナミスギ……?レブレの街の近くにもある木か?」


 タナーの言う通り、ナミスギという樹木はレブレの中心地でも見られる。

 濃いイテルにあまり影響を受けないらしく、雲海の下でもすぐに見つかった。


「あれで燻すと、この独特の風味がつくのか。思いついた人はすげえな」

「本当だよね。しかもこのひと手間で随分肉が長持ちするようになるんだ」

「人の子というのはよく頭が回るもんじゃなあ」


 イテルが極端に濃いと食材の劣化は相当に遅くなる。

 しかし雲海の上、つまり樹上ではそうはいかない。

 魔窟の中でも緑の粉が見えるほどの領域はそう多くはないため、雲海下と同じ方法では食材がすぐに駄目になってしまう。


 だからこそ『燻製』はぴったりの手法であった。


 煙で燻すと、食材の周りをその成分が覆ってくれるらしいのだ。

 劣化が著しく遅くなるし、合わせて塩漬けの工程も経ることで更に保存が効くようになる。

 キャラバンに同行した時は、この塩漬けと塩を抜く工程を特に研究した。

 どうせなら塩辛いより、美味しいほうがいいだろう、という目論見は二人にも気に入ってもらえたようだ。


「これとグラノを合わせて、まずは簡単に手で持って食べられるものにする」

「なるほどな、労働者にとっての『弁当』ってわけだ」


 日中働く労働者達のほとんどが今は夕食としてペッシェを食べている。

 仕事帰りに弁当屋に寄り、今晩の分と明朝の分を買っていくのだ。


 そしてその販路にしてもおあつらえ向きのものがある。


「そんで、俺の実家で委託販売ってことか。確かに見込みはあるな。ペッシェがまずいとは言わねえが、より美味いものがあるんなら俺だったら食いたいしな」


 そう。

 タナーの実家はもともと弁当屋なのだ。

 だからそこの新しい商品として取り扱ってもらおう、という作戦である。


「妾はそのペッシェとやらも食べてみたいぞ!」


 そう言えば彼女は樹上のペッシェは食べたものがないんだった。

 後で食べさせてあげよう。


「じゃが、その『より美味いもの』を求めるという気持ちが無いんじゃろ?じゃからフォルは困っとった……」


 そこはカグハの言う通りだ。

 しかしそこにも未来がまったくないわけではない。


「だが俺は今やペッシェだけじゃ満足できない身体になったぜ!」


 そう言ってからっと笑顔になるタナー。


「そもそもフォルがやった料理ってのは魔窟産の食材を使ってたわけでよ。そう簡単に振る舞えなかったっていう事情も大きいと思うぜ。やっぱり食べてみなきゃ分からねえしな」

「グラノとかはともかく……まあそうだね」


 なるほどな、とカグハは頷いた。


「フォルの料理が本当の意味で食べられるのは、キャラバンとかいう仲間達だけじゃったってわけじゃな」

「喜んでくれたのもその人達くらいだったからなあ……」

「つまるところ、まだ世界はフォルの料理を知らないのと一緒だ」


 そうだろう?としたり顔をするタナーに、カグハも再び頷いている。

 

 改めて考えてみれば、そのとおり。

 上司達は一部を除いて俺の話に耳を貸さなかったし。

 自分が工夫を進めた料理も、基本的には魔窟での素材が前提になっていた。


「それでも……やっぱりこれってすごい安直な賭けだよね」


 とはいえ、この考え方はひどく傲慢で楽観的なものでもある。


「タナーとカグハが『美味しい』って喜んでくれた。キャラバンの人が『美味しい』って言ってくれた。ただそれだけを拠り所にしてることには違いないしさ」


 言っていて自分でも苦笑してしまう。

 有り体に言えば、おだてられて木に登る動物みたいなものなのだ。


 しかしそういう状況だから。

 これが駄目であれば、俺はやっと気分よく料理を諦めるだろう。

 

 傲慢も強欲も全て出し切って。

 大笑いされることで、きっと救われるのだ。


「まあ、自信過剰気味なのは違いねえ。でもそれを分かっていて、それでもやろうっていうのは気に入ったぜ」

「そうじゃな。愚か過ぎて、逆に気持ちがいい」


 酷い言い草に三人で大笑いしてしまう。


「まずはそろそろ定期でやってくる『小キャラバン』を狙いうちだな。上手く話題になってくれりゃ、うちも儲かるし、次の小キャラバンにも繋がる」

「なんだかんだで、かなりいい時期に浮上できたよね。そこはツイてた」

「運を引き寄せるのも力の内じゃ。ちゃーんと人が集まるきっかけにするように上手くやるんじゃぞ!黒曜獣を樹上へ上げられなきゃ皆困るんじゃ」


 弁当一つがどこまで物事を動かすかは分からない。

 何も変わらないかも知れないし、その可能性のほうが大きい。


「街内でも話題になればいいがな。結局店が儲かりゃ納税額も増えるし、領地にとっても悪い話じゃないはずだぜ」

「遠回りだけど、庶民がやれる地域活性ってそんなもんだしね」


 過疎が進むレブレ。

 そして領主はやる気がないらしく。

 俺に至っては無職。


 端的に逆境である。 



「で、まずはやってみるんじゃろ?」



 カグハはそんな現状にいたずらっぽく笑う。


 そうだ。

 何もやらないよりはずっといい。

 何かを変えなきゃ逆境が何処かへ行くことなんてないのだから。


 隅っこに追いやられた俺達は、そのことを心に刻んだのだ。


「こういうの試食っていうのか?それも済んだし、この味なら俺はいけると思うぜ。それじゃ次の段階だ、明日は久々に我が家族と再会といくか!」

「多分死んだことになってると思うなあ……」

「妾も人間の街が見てみたいぞ!」


 賑やかな夜はこうして更けていき、いよいよ俺達の作戦は本格始動することになったのである。

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