第7話 好きなもの

「料理を作り、妾達に『美味しい』と言われることは好きか?」



 静かな湖面。

 誰にも邪魔されることのない景色の中に。

 彼女の声はとてもよく響いた。


 そして、それは俺の心にも。


 思い浮かんだのはたった数日の三人での食卓。

 美味しいと言ってお肉を頬張る旧友と、金色の耳を動かす少女の表情だった。



「……多分、好きだ」



 帰郷してからずっと引っかかっていた気持ち。

 それがようやく胸の内に落ちてきたような感覚がした。


「なんじゃ、多分て」

「いや……」


 なんとなく照れくさかったのと。


「タナーほどにはなれてないからなあ」


 『蒸気機関と一緒にならない』という信念をもって、一見報われないようにさえ見える仕事をし続ける。

 お金にならないし、誰も気にしないノアの設備まで丁寧に見て回る。

 

 人が立ち入らない食堂も。

 その他の倉庫だって。

 皆、彼のお陰で綺麗だった。


 ノアは甲板しか使われない、もはや寄合所であったのに。


「友人として尊敬するよ、ほんとに」


 いい意味で単純に、自分が欲しいものを理解し、それに向かっていく。

 吹きすぎる風に負けてしまうことなく、自分を通している。


 そんな彼が羨ましく、そして眩しかったのだ。


 でもだからこそ思う。

 どうしてそんな彼まで、世間は無慈悲に押し流していくんだろう、と。


 雲海の上へ帰ることが現実的になってきた今。

 俺はその後、彼に訪れるであろう事柄を受け入れがたく感じるようになっていた。


 その気持ちのせいで、今日は眠れなかったのだ。

 俺はようやくそのことに思い至った。


「……どこの世も世知辛いもんじゃな」


 俺の心中を察したのか、カグハはやれやれと苦笑する。


「どこの世もって……?」

「神の世も一緒、ということじゃ」


 神の世、というのはどうやらカグハが属する世界のことのようだ。


「妾達はな、神の中でも一番下っ端。神卒しんそつという格におる」

「し、しんそつ……?」


 妙に聞き覚えのある響きに驚く。

 首都ロドラにある学院を卒業したての人間を『新卒』とか言ったはず。

 調理師組合にもかなりの人数がいた気がする。


「この始原樹の管理はな、神卒の役割なんじゃ。生命を繁栄させる実践的な試練というわけじゃな」

「!?」


 流石は神の世界。

 始原樹の管理は彼女達にとっては『試練』の一つらしい。

 人が考える試練とは規模が違いすぎる。


「始原樹の上で暮らす生命活動の規模によって妾達は常に評価されておる。その評価が一定以上になると上の格に上がれるわけじゃ」

「昇進みたいなこと……?」

「有り体に言えばそういうことじゃな」


 なんだか妙に人間社会みたいな話である……。


「逆じゃな。組織をつくる、という人の性質は神が主らに渡したものの一つ。むしろ人らが妾達の真似をしとるんじゃ」


 だから『神らしい』というほうが近いじゃろ、とカグハは笑う。


「妾達神卒は、それぞれ一柱の始原樹を任せられておる。主らがレブレと呼ぶこの始原樹は、妾の管理。アケルという始原樹はまた別の神卒が管理しておるわけじゃ」

「ああ……それで管轄が違うって言ってたんだ」


 狐耳の彼女はうなずく。


「生命活動の規模って……どういうこと?」

「一番分かりやすいのは知的生命の数じゃな。どれくらいの人が暮らしているか、じゃ」


 正確にはもう少し色々と条件があるらしい。

 とはいえ、ざっくり言ってしまえば。


「樹上が都会……っていうか発展して人が沢山いるほうが規模が大きいってことか」

「そういうことじゃな」

「つまり……」

「……アケル担当は出世間違いなし。レブレ担当は落ちぶれ、全然駄目ってことじゃ」


 過疎化真っ只中のレブレ。

 間違いなく生命活動の規模とやらは右肩下がりだろう。

 それが彼女の評価に繋がっている、となればカグハの扱いもなんとなく察しがついた。

 ……ついてしまった。


「そ、それなら黒曜獣を出してくれれば……」

「……そうできればいいんじゃがな」


 彼女は『聖書』をやたら樹洞に放り込む人間に愛想がつきて、黒曜獣を出さないようにしていた……というだけではなかったらしい。


「自身の始原樹での生命活動が減ると、妾達はその力を制限される。黒曜獣を樹上へちょうどよく導く、というのは神卒にとってはかなり力を使うことなんじゃ。短距離の転移さえ満足にできん今の妾には到底不可能」


 本来なら……と彼女はため息をつく。


「生命活動の規模さえあれば、妾の力で黒曜獣の力を削いでおくこともできよう。樹洞周辺を上手に管理して、定期的に黒曜獣を送ることも可能じゃ」


 けれど、今レブレにはその『規模』が足りない。

 そのことは俺にも分かった。


「今のまま樹洞を開放すれば、樹上の街では対応できない強さ、量の黒曜獣が現れてしまうじゃろう。そうなれば本末転倒じゃ、人の子らの大切な街が壊滅してしまう」


 ただでさえ半分見放された田舎領。

 他の大陸へ渡る定期的な雲船も毎日来るわけではない。

 この情報がキャラバンに伝わる前に、おそらく街は……。


 そしてそのことが分かっているからこそ。


「……黒曜獣を倒してくれてたってこと?」

「『くれていた』などと言ってくれるな。神としては愚策も愚策。じゃがもともと大して頭が良くないのでな、こうしてレブレの生命活動がゆったりと無くなっていくのを待っておろうと。そう思っておっただけじゃ」


 つまりカグハとしては過疎化が進み、住民の移住が済むまで。

 あるいは住民の寿命が穏やかに尽きるまで、その時間稼ぎをしようとしていたらしい。


 愚策、とは言うけれど。

 彼女なりに色々と考えてのことなんだろうと俺は思った。

 憂いを含んだ横顔が、そのことを何より物語っている気がしたのだ。


 樹上が栄えるには黒曜獣が必要。けれど黒曜獣を扱うには樹上の繁栄が必要。

 この仕組みは相乗効果をもたらす一方。


「悪循環になったら抜け出せない……?」

「まあ、難しいじゃろな。少なくとも妾のような知恵のない者には」


 それにな、と彼女は自嘲的な笑みを浮かべる。


「始原樹を任される前から結果は分かっておる」


 結果は分かっている……というのはどういうことだろう。

 俺が首を捻っていると、彼女はひどく冷たい声を出した。


「妾たちは前任の神卒から始原樹を引き継ぐ。つまりな、その時点で繁栄している始原樹を受け継げるものとそうでないものがおるわけじゃ。繁栄している始原樹を継げば、やれることは多いじゃろう。そしてそれが評価にも繋がる」


 そんな神卒達はすぐに次の神格へ登るのだと言う。


「妾は万年神卒じゃ。人らの言う『万年』じゃなく文字通りのな。このレブレの生命活動が終われば、次も似たような始原樹に回されるじゃろう」


 神見習い、なんて上手いことを言うやつもいるんじゃぞ、と力なく笑うカグハ。

 

 明るい光をたたえていたはずの金色の瞳は。

 今は夜闇に覆われ、星一つの明るさにも負けてしまいそうに見えた。



「成果を上げられなかったわけじゃからの。無能には未来ある始原樹を任せられない、という判断も当然じゃろ」



 樹上は春先。

 けれど今、雲海の下では冬の寒さを思い出すような風が吹いた。

 どちらかと言えば、身体よりも心を冷やすたぐいのもの。


 それを肌で感じながら思う。


 彼女はきっと。

 俺が感じたようなちゃちな挫折とは比べ物にならない悲しみを負ったのではないだろうか。

 神と自身を同じように考えるのはおこがましいのかもしれないけれど……。


 それなのに。

 俺にあんな優しい言葉をかけてくれた。

 彼女からしたらすごく小さな悩みだったのに。


「何を考えとる。妾、こんなんでも神じゃぞ?おとなしくありがたや、と思っておくのじゃ」

「あ、ええと……ありがたや……」

「ふふ、それで良いのじゃ」


 顔に出ていたのだろうか。

 カグハは、少し元気を取り戻した声色で続ける。


「樹上を良くしてやれない、情けない神じゃがな」


 けれどその言葉は痛々しくて。


「まだ数世代は持つ。余計な心配はせずにお主は自身の人生を謳歌おうかするんじゃぞ?」


 おやすみ。

 と、去っていく彼女の背中はいつもよりずっと小さく見えた。


 なんだかずっと遠くへ行ってしまうように見えて。

 人と神なんだから遠くて当たり前だ、と言い聞かせている自分がいた。




 その夜から数日経った昼のこと。

 いつものように湖のほとりで夕飯の仕込みをしていると。


「!?」

「な、なんじゃあ!?」


 突然背後のノアから蒸気が吹き上がった。

 久しく聞いていなかった蒸気機関の音に、俺の近くでゴロゴロしていたカグハも驚く。


「よっしゃあ!」


 続けて聞こえたのはタナーの景気の良い声。

 どうやら修理が上手くいったようだ。


 しばらくすると、額の汗を拭いつつこちらへタナーもやってきた。


「かなり時間はかかっちまったが、これで一旦は浮上できそうだぜ!推進機もちゃんと動く!」

「おお!!」


 タナーによると、一番致命的だった機関の故障も無事修理できたとのこと。

 これで、ついに樹上へ戻る算段が付いたことになる。


 雲海の下へ放り出されてから2週間ほど。

 気付けば随分と経ったものだ。


「材料はあるんだが加工がな……そういうのに使うものは最低限しかなかったから、随分苦労したぜ」

「加工用の熱道具が無かったら……と思うとぞっとするよ」

「あれ、持ち運びできるやつ買っておいてよかったぜ。鉱石の加工ができなかったら完全に手詰まりだったからな」


 タナーが道具にも凝る種類の人間で助かった、というところだろう。

 必須級の道具たちが――若干の抜けはありつつも――揃っていたのは、不幸中の幸いであった。



「よかったのう。これも神である妾の力があってのことじゃ。感謝せい」

「いやお前食ってばっかりだったじゃねえかよ!」

「失礼じゃな!食うものを採ってきたのは妾じゃぞ!」

「大半はフォルが持ってきてたの知ってるぞ!」


 毎日ごろごろしやがって!と、言い争いを始めた二人。

 まあ、これはいつものことである。 


 兎にも角にも。

 ようやく雲海の上へ帰れる、ということが何よりも朗報……だと言うのに。


「ん?どうしたフォル。腹でも壊したか?」

「なんじゃと!今日の晩御飯は味気なくなってしまうんじゃなかろうな!」


 俺は素直に喜ぶことができなかった。


 神様が食べることしか考えていないとか。

 振り返ると時々食材を取ってくるだけで、大抵ごろごろしてた、とか。

 

 それらの振る舞いが気になったからではない。

 ……いや、気にならなかったわけじゃないけれど。


 ずっと考えていたのだ。


「あのさ……」


 そう口を開くと。


 俺が何を気にしていて、どんなことを言おうとしているのか。

 そのことをきっとうっすら感じ取ったんだと思う。


 カグハはすっと眼を細める。


「お主……」


 あの夜の冷たさを声に滲ませつつ、彼女は鋭い眼で俺を射抜く。

 そんな幼さを吹き飛ばす圧力にたじろいていると。


 タナーはどかっと草原にあぐらをかいた。


「最近なんか上の空だったもんな。さ、話してみろ。なんか考えてたんだろ?」


 そして、ほれほれ、と俺にも座るように促す。

 

「妾は聞く耳持たんぞ。変態談義ならよそで――」

「お前にも聞く責任があるだろ」

「んぎゃ!?」


 タナーはそそくさと席を外そうとした彼女の肩を抑え、無理やりに座らせる。

 相変わらず神に対する扱いが雑である……。


 俺はそんな様子に苦笑いしつつ、自分も草原に座った。


「で、なんだ?」

「わ、妾は知らんぞ……!」


 対象的な態度の二人ではあったが。

 タナーだけでなく、カグハも顔をそむけつつもどこかへ行こうとはしない。


 少し頬が緩みそうになるのを抑えて、俺は考えを話すことにした。



「弁当屋をやりたい」



 端的に言うと。


「「はあ!?」」


 と目の前の二人は同じ反応をした。

 この二人は似たもの同士なのかもしれない。


「どうして急に弁当屋なんだよ……」

「妾にそんな話してどうするのじゃ、主の人生は主が勝手に決めたらよいじゃろ?」


 まあ、そんな疑問はもっともだとは思うけど。

 

「二人に協力してもらう、と決めたんだ」

「「はあ!?」」


 言葉通り、勝手に決めた人生設計を話すと二人はもう一度同じ反応をした。


「いや、俺は技師だしな。そもそも何を勝手に決めてんだよ……」


 はあ、とため息を付くタナー。

 

「妾、神なんじゃが。弁当屋手伝う神なんて聞いたことないんじゃが」

「まあ昼間っからごろごろする神も聞いたことなかったがな」


 タナーのぼやきには同感である。

 えっちな本を献上される可哀想な神様も初めて聞いたけど……。


「……これは三人とも助かる作戦というか」

「助かる?いや、ノアはこのまま浮上できそうだが……」


 怪訝そうな顔をするタナー。

 

「三人ってどういうことじゃ?なんで妾も入っとるんじゃ」


 その隣では同じ表情をして首をかしげるカグハ。

 まあ、唐突な話をしている自覚はある。


 けれども、これでいて一応自分なりに考えたつもりなのだ。

 タナーに『上の空』と言われてしまうほどには。



「……俺は料理が好きだ」



 別になんてことはない。

 ただ好きなものを言っただけだけれど。

 これを誰かにはっきりと伝えたのはいつぶりだろうか。


 少し照れくさくて、二人の顔を見ないようにしつつ。


「けれど、それでは生きていけない社会があるって分かった。それは、俺にはどうすることもできない」


 俺は権力者でもなければ、組合でものし上がれなかった男だ。

 社会や世界を変えるような力は当然無い。

 そして今の世界は『好き』だけでなんとかなるほど簡単ではない。


「でも、最後にもう一度挑戦したいと思ったんだ」


 あの食卓をもう一度、と思ったあの気持ちは。

 気付けば純粋さを失って、色々な欲にまみれていたことがわかった。


 だからこそ。



「欲望に素直になってみてもいいかなって。どうせ綺麗な人間じゃないんだから」



 開き直ることにしたのだ。

 欲を見ないように、自分の汚い部分を見ないようにしたって仕方がない。


 清貧をうたって、爽やかな笑顔を浮かべられないのなら。

 強欲で喉をつぶして、声なき声で歌いあげてみせるのだ。


 静かで虚しい歌だろう。

 だって潰した喉から出るのは空気だけなんだから。


 でもそこで起きた振動こそ、生きている鼓動なんだって。

 イテル水の意のままに動く蒸気機関とは違うんだって。

 いつか死んで神の前に立たされた時、胸を張れると思ったのだ。

 誰になんて言われようと。


――俺は人生を『謳歌おうか』しましたって。


 

 そう決めたから、俺は容赦なく欲張ることにしたのだ。


「二人もさ……一緒に欲張りにならない?」


 うつむき加減になったタナーが肩を少しだけ動かす。

 金色の耳もぴくりと動き、こちらを向いた。


「よくわかんない領主に好き勝手されるの嫌でしょ?ノアを解体なんてしたくないと思わない?」

「……」


 あぐらをかいたタナーは返事をしないまま、そっぽを向く。


「最初から差がついてるなんて、腹が立たない?ずるいよ、そんなの。見返してやろうって思わない?」

「……」


 金色の瞳は、ばつが悪そうに横へ逸れた。

 けれど耳はぴくぴく忙しなく動いている。


「わからないよ。上手くいくなんて全然保証はない」


 今思いついた策が何かをひっくり返せるか、と問われたら自信がない。

 でも。


「なんにもやらない……それは無しだって思った。それじゃなんにも変わらないし、二人にだってもっと気持ちよく生きてほしい」


 欲張ることにしたんだ。

 自分が楽しいだけじゃ、到底満足できないって思ったから。

 料理と同じ。

 一人でも美味しいけど、誰かと食卓を囲めばもっと美味しいのだ。



 そして、しばらくの沈黙の後。

 タナーが口を開いた。


「……変わってねえな、フォルは」

「え……?」


 想像していなかった言葉に、俺は少し意表を突かれ声をあげてしまう。


「人畜無害そうな顔してるくせに、急に突拍子もないことをしでかす」

「そ、そうかな……」


 あまりそういうつもりは無かったんだけど……。

 苦い笑顔でタナーは続ける。


「調理師になるって言って飛び出してった時もそんな感じだったぞ。ろくに挨拶もしないでよ」

「ちゃ、ちゃんと手紙とかは書いたと……」

「長い付き合いの人間に、手紙だけってのはどうかと思うぞ」


 なんかごめん……と謝ると、タナーは大きなため息をつく。


「この幼女もどきはともかく。俺が楽しいかどうかは俺が決めることだ。いくら友人とはいえフォルにどうこう言われる筋合いじゃあねえ」


 た、確かに……。

 それはその通り。


「それなら妾だってそうじゃぞ!人の子に余計な情けを掛けられるなんて屈辱じゃ!」

「ご、ごめんなさい……」


 幼女もどきとか言うな!と元気を取り戻したカグハは続けた。


「……じゃがまあ、それが主なりの……フォルなりの答えというなら、それもまた許そう」


 大人っぽい微笑みを浮かべる彼女。


「妾が言ったことじゃしな。綺麗な人間なんていないと」

「……ああ」


 結局そういうことだ。

 自分が綺麗でない、まずはそれを認めなければいけなかったんだと思う。


「しかしまあなんとも汚い、ずうずうしい願いじゃの。もっと楽しく生きてほしい、なんて。結局は妾達に協力を求めとるんじゃろ?」

「……そうとも言う」

「がはは!本音が出たな!」


 自分の欲望にもかかっていることは事実。

 それこそ、渾然一体となったものなのだ。


 タナーはひたむきで、まっすぐな情熱を。

 カグハは人の痛みを理解して、癒やしてさえくれる暖かさを。


 そんな素敵なものを持っている二人が心を痛めてほしくない、と思う気持ちは本当だ。


 彼らが俺に元気をくれたように。

 俺だって彼らを元気にしたいのだから。


 そして、またしばしの沈黙の後。

 タナーはしっかりと頷き口を開く。



「俺は乗る。お前の飯は間違いなく美味いし、革命だ。その力で俺も引っ張り上げてくれるんなら、できる限りのことをする。お互い利用しあうってことだな!」



 タナーがニヤリと口元に笑みを浮かべた。

 端正な顔立ちが引き立って。

 そして俺の罪悪感まで見越した言葉が、なんだか悔しい。



「妾は毎日美味いものを所望するのじゃ。え、えっちな本を投下した犯人にも天罰を加えるべきじゃしな!」



 狐耳を動かす、神様らしくない神様はそう言って満面の笑みを浮かべた。

 おこがましい願いを聞き届けてくれる、頼もしい言葉だった。


「で、俺はなにをすりゃいいんだ?っていうかなんで弁当なんだ?」

「まずはよう説明してみい。そもそも妾はお主ほど料理はできんのじゃぞ?」


 興味津々と言った様子の二人。

 その反応に暖かいものがこみ上げるのを感じつつ。


「そもそも弁当屋にしたのは……」


 俺は改めて自分が考えた作戦の説明を始めるのだった。

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