第4話 幕間
ガラガラのバスが法定速度をきっちり守ってのんびりと走っていく。
その後部座席に二人は並んで座っていた。
「それでなんで俺たちは家と正反対の方向のバスに乗ってんの」
不満げに口をとがらせる京町に柳谷はぴしゃりと言い放つ。
「掃除人さんの事務所に行くためです」
「タクシー」
「京さんが資金提供してくれるなら」
「……なあ、柳、車買わねえ?俺、ワゴンタイプがいい」
「免許がないのでいりません」
「俺は持ってる!」
「資金は?」
「……持ってない」
「結論が出ましたね。却下です」
「なあ柳」
「なんですか?」
「なんで俺たちこんなに貧乏なんだ?掃除人の人たちは似たようなことしてしっかり稼いでるみたいにみえんだけど」
「僕たちは主の子羊。主に仕える尖兵です。奉仕に報酬を求めてはいけません」
「俺は主も尊敬してるけど和牛ステーキも尊敬してる」
「僕のオムライスより?」
柳谷に問われてうーんと京町が首を捻った。
「柳が俺の名前をケチャップで書いてくれたオムライスならステーキより尊敬する」
「そういうことです。信仰に見返りを求めてはいけません」
「俺、なんか騙されてる気がする」
「騙す?主の忠実なしもべの僕が?京さん、僕は悲しいです……」
柳谷が目を伏せた。
意外に長い睫毛が頬に影を落とす。
「あ、悪ぃ、柳、ごめん。マジごめん。おまえみたいなマジメなヤツはいねーのに……俺、サイテーだ……」
「いいんですよ、京さん。僕らは迷える子羊です。だからこそ主が必要なんです」
「ほんと、ごめんな……俺バカだから……」
「京さんは馬鹿なんかじゃありませんよ」
そっと京町の顔に視線を寄せた柳谷のてのひらが、その頭を慰めるように軽く撫でる。
ただ、少しアホですが。と心の中で付け加えて。
その間もバスは掃除人の事務所の最寄りのバス停へと走り続けていた。
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