女の友情は腹黒だから上手くいくの

かっぱっぱ

第1話

私はこれまで33年間、彼氏というものが居たことがない。

別に寂しくもないし一緒にお酒を飲む女友達が数人いれば十分だ。

女の友情も脆いってことも知っているし楽しく飲めればそれでいい。


私は人より直感が働く。エンパス体質なのだろう。

会話の最中でも【あっ 今嘘言ってる。】相手の裏の気持ちが分かってしまうのだ。

だからと言って人の会話を否定もしないし流せる技も身についているから大丈夫だ。

同じ女ならまだしも異性と駆け引きなんて疲れるだけだ。

そんな私がまさか年下の男に興味を持つなんて・・・


仕事帰りのいつものコンビニでスマホ片手にビールに手を伸ばした瞬間

勢いよくぶつかる青年がいた。うわっ!ビックリした拍子にビールを落としてしまった。


『申し訳ありません。急いでいたもので。こちら僕が払います。』


すばやくビールを拾うとレジへ直行した。走り戻ってきて

『どうぞ。缶凹んでますけけどすみません。』


袋を渡すとまた入口へと走って出て行った。

缶が凹んでいてもただで貰えたしラッキーかな。何も買わずに私も店を出た。


外へ出ると何だか騒がしい。サイレンが鳴り響き野次馬で人だかりが出来ていた。

あのマンションで何かあったのかな?

背の高い私は人の頭の隙間から覗いてみた。あれ?さっきのビールの青年?

あ~彼は刑事だったのか。連絡受けて呼び出されたんだな。だから慌てていたのか。


『何かあったんですか?』

隣の野次馬に話しかけた。


『留守中にボヤがあったんですって。怖いわね~。』


私の飲み友達もこのマンションだ。少し心配だ。LINEしておこう。

ビールが温くなる前に早く家に帰ろう。その日友達からの返信は無かった。


そして翌日。仕事帰りに大好きなとんこつラーメン屋に入った。


『生と全部普通で、ワカメトッピングで。』


いつも通りのオーダーで早速ビールがきた。

ここのラーメンは汁の濃さや麺の固さ脂の多さも調整出来るのもお気に入りだ。

トッピングのクーポンも見せるだけで『また次回に』と戻されシワシワの使いまわしもご愛敬だ。

生を一口飲んで ぷは~と力を抜いた瞬間、

『あっ昨日コンビニで・・・』

隣を見るとあの青年だった。


『あ 昨日はご馳走様でした。刑事さんなんですか?』


照れくさそうに

『まだ刑事になったばかりで、今日は非番なんで飲めるんですよ。僕、一条隼人と言います。』

『あっ 牧野みほです。よろしく。そうそう昨日はボヤだったの?』

『原因調べてるんですけどね。被害は机の上のものが少し燃えた位で済んだんですよ。』

『何階だったんですか?』

『4Fです』

『え??』『友達4Fに住んでて・・・まさか402?』

『そうです!お知り合いですか?』

『彼女一人暮らしであの後LINEの返信も無くて』

『お友達が遊びに来ていて近くのカラオケから戻ったらボヤでビックリされてましたよ』

私の直感がまた騒ぎ出した。嫌な予感がするな・・・

彼とはアニメの話でも意気投合しLINEを交換した。


ラーメン屋を出て彼と別れるとすぐに402号室へ向かった。

オートロックで出た声は元気がなく『はい どなたですか?』

『私!みほ!』すぐにロックが解舒された。

部屋に入ると少し焦げ臭かった。


『大丈夫?被害は?』


彼女はいきなり泣き出した。


『大した害はないんだけど、彼と撮った写真が燃えてしまったの。』


最近彼女に出来たばかりの彼氏で私もまだ会った事がないが話だけは聞いていた。


収斂火災…しゅうれんかさいっていうらしいわ。窓際にペットボトルを置いていたのが原因みたい。』


※収斂火災とは レンズ状の透明な物体反射物によって太陽光を収束させ可燃物を発火させる事で起こる火災である。


『昨日の友達って会社の人?』

『彼の幼馴染なの。最近よく3人で遊んでいて。昨日は二人でカラオケ行ったの。』


私の直感の疼きはこれだったんだ。彼女の気づいていない三角関係だ。

これは意図的なボヤだったんだ。ペットボトルを写真の前に置いたのは幼馴染だろう。

私の直感は外れたことがない。でも彼女には言えない・・・


『今度みほも一緒に祥子とカラオケ行こうよ。彼女祥子って言うのよ。アニソン好きだし気が合うと思うよ。』

『うん。いいね。みんなの休みが合うときに行こう。』


明日は仕事なので早めに切り上げ自宅に戻った。


あれから数か月が過ぎ、一条さんとは頻繁にLINEをして非番には会うようになった。

彼は正義感が強く嘘がないピュアな心の持ち主だ。

変に裏がない彼は一緒にいて素で居られる貴重な存在だ。


『みほ?今祥子と近くのカラオケに居るから来ない?』


ボヤ騒ぎのあった飲み友達の由香からだった。


『金曜だし明日休みだし行こうかな。すぐ行くね。』


正直疲れていたが祥子に会ってみたい好奇心だけで行く決意をした。


『はじめまして。祥子で~す!みほでしょ?』


『祥子さん?よろしくね。』


やけに馴れ馴れしいな・・・まぁ酔ってるし同じ歳だし良しとするか。


『歌おう!入れるね~』祥子がデンモクに4曲程強制的に入れた。

いやいや、まだシラフだよ。飲ませてくれ。そう思いながらも

アニソンメドレーをみんなでマイクを回しながら歌った。


由香がトイレに行って二人になると急に真横に祥子が座り質問攻めしてきた。


『彼氏いるの?仕事なにしてるの?家近いの?』

『私は今彼氏居なくてさ。幼馴染の卓也にも由香って彼女ボヤで写真燃えちゃったらしいね。写真嫌いな卓也が珍しく撮ったのにね。もう懲りて撮らないかもね。また火事にでもなったら大変だもん!』

『私の飲みかけの水が原因とか責任感じて嫌なんだけど~まさかね、ペットボトルで火事なんて思わないじゃない?』満足げな笑みを浮かべて彼女は言った。


やっぱり祥子は卓也さんが好きなのだと確信した。怖い女だ。


LINEの着信が鳴った。


『あっ ごめんね。私そろそろ帰るね。』


一条さんからのお誘いだ。こんな表面だけの飲み会より優先するのは当然だ。

初めから祥子に会ってみたかっただけなのだから。


『一条さん今日はオフなのにジャケットなんて着てるのね』


『うん。たまにはね。行きたい店あるんだけどいい?』


珍しく今日はリードしてくれてるな。ちょっと頼もしい。そんな事考えながら歩いていると私たちこじゃれた店に着いた。


『予約した一条です』


え??予約?こんなラフな格好でいいのかなぁ・・・


『今日どうしたの?』


『今日大切な日でしょ?』


『?????』


あ!!自分でも忘れていたが34回目の誕生日だった。


ワインで乾杯すると、隼人はジャケットに手を突っ込んで緊張した顔をした。


『一条さん、あなた幸せになります。』


隼人は笑顔になりポケットから小さな箱を出し、震えた手で私の薬指に指輪をはめた。


大丈夫!私の直感は外れないのだから・・・


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