第10話 野ロボ狩り

 ルンタは、何日も雑居ビルの半地下で過ごしました。充電台は一つしかなかったので、ゆっくりたっぷりとは充電出来ませんでした。台に乗ったと思うと、他のルンタにはじき出されてしまうのです。十数台のルンタ達の中には、充電台にたどり着けず、動けなくなったものも数台ありました。バッテリー切れのルンタ達は、時々他のルンタに小突かれる以外は、ずっとじっとしていました。

 田中さんの家のルンタの白いボディは、数日経つうちに薄汚れて、他の白やグレーや黒のルンタたちと見分けがつかなくなりました。


 十日あまりも過ぎた頃、雑居ビルの新しい管理人がやってきました。このビルの元の管理会社が倒産して、新しい管理会社が引き継ぐまで、だいぶ間が空いてしまったのです。

 管理人は、初めて来る半地下のエントランスに入って、何かが動く気配を感じました。そして、懐中電灯を向けた先に蠢くルンタ達を見て腰を抜かしました。

 気の毒な管理人は、数十分を要して平常心に立ち戻ると、市のAI機器不法投棄物係に電話しました。いわゆる『野ロボ狩り』の係です。AIを搭載した家電製品は、持ち主の意図に反して思わぬところで迷子になってしまうことが多いため、最近の役所にはこんな部署があるのです。


 野ロボ狩りの職員は、かすみ市という文字とシンボルマークがついた灰色のバンでやって来て、ルンタ達を次々と捕まえては電源を切り、ビニール袋に入れて、日付と番号を書きました。

「こういうのは、屋内で使ってくださいよ」

 茶髪の職員が管理人に向かって言いました。

「やあ、すいませんねえ、前の管理者がつぶれちまってねえ」

「元からここにあったのはどれなんです?」

「さあねえ。どれでもいいから一台置いてってくださいよ。ちゃんと動くやつ」

「いや、そういうわけには。これからシリアル番号とユーザー登録確認して、返せるやつは持ち主に返さなきゃならないんで」

「そっかあ、それで、持ち主がわからんやつはどうなるんです?」

「だいたいは廃棄っすね。状態がいいのは年四回ののリサイクルいちで売りに出されるけど」

「うーん、じゃあ、いいや、全部持ってってくださいよ。あの充電台もさ」

「いいすけど、有料になりますよ。三百円」

「はいはい、三百円ね」

管理人は小銭を払って、領収書をもらい、ルンタたちは市のクリーンセンターへと運ばれて行きました。

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