第9話 追跡者たち

 同じ時、交番と道路を挟んで向かい側のバス停で、時刻表を眺めている若い男がいました。野球帽と片耳用ヘッドセットとパーカーを身につけ、一見したところ普通の学生のような年恰好ですが、よく見ると張りつめたような違和感があります。男は、来たバスには乗らずに、スマートフォンで時刻表を撮影するふりをしながら、交番に入る検事の姿を撮っていました。

「やっぱり田中はマークされてるみたいです。マルサですかね?」

 男はヘッドセットに向かって言いました。

(マルサは交番に入ったりしませんよ。多分特捜です)

 通話の相手が答えました。

「あー、検察官ですか」

(それで、田中は何をやってるんです?)

「それが、どうも、ルンタを探してるようなんです」

 男はさっき公園で拾ったポスターをポケットから出して眺めました。

(ルンタ?)

「はい、あの掃除ロボットの。あれが逃げ出したとかで」

(それはまた、ふざけた話ですね)

「でも、なんか重要みたいですよ。検察官?も大真面目だし」

(そうですか。まあ、お前はもう帰りなさい。あんまりうろついて見つかるとまずい)

「はい。あー、あの、ルンタなんですけど、オレらのSNSグループで見かけた奴を探してみます? みんな大体、学生かフリーターで、そこら中にいるから」

(そうですね、それはいい。ただし、騒ぎにはしないでください)

「了解です」

 男は通話を切ると、ちょうど来たバスに今度は乗り込み、座席に座って《 !!ルンタ逃走中!!目撃情報求ム!! 》とスマートフォンに打ち込みました。


〈 ルンタって、あのルンタ? 〉

〈 指名手配かよ 〉

〈 え、賞金あり?? 〉

〈 俺ん家のも逃げたことある。すぐ捕まえたけど 〉

〈 いつ逃げたの? 〉


 あっという間に、たくさんの返信が返って来ました。


《 四日前 》

《 頼むよ。母ちゃん困ってんだ (>_<) 》男は、また送信しました。


〈 お前が掃除してやれ 〉

〈 ママー、ボクおてちゅだいするう☆ 〉


《 うう…血も涙もないやつら 》

《 わかった、有力情報には千ポイント出すから¥¥ 》


〈 まじ?? そーゆーことなら今俺の目の前をルンタが歩いてるぞ! 〉

〈 ガセネタきたよ 〉

〈 後輩の子が電車の中でルンタ見たって 〉


《 え? いつ? 》


〈 一昨日だったかな。待ってね、聞いてみるから 〉


《 ありがとう!(((o(*゚▽゚*)o)))♡ 》

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