第8話 田中さん、ルンタを探す(後編)
「ああ、あれは、あなたのでしたか。いやー大変申し訳ないのですが、実はこの坊やから預かってすぐに何処かへ行ってしまいましてね」
人の良さそうなお巡りさんは、帽子を脱いで頭をハンカチで拭いながら言いました。
「えー、お巡りさん、ルンタ逃しちゃったの?」
坊ちゃんが口をとがらせます。
「そうなんだよ。坊やもせっかく届けてくれたのにすまないねえ。あれが、勝手に動くものとは知らなくってねえ」
「どこに行ったかは……?」
「あれから、ご近所には聞いてみたりもしてるんだけど、誰も見てないって言うもんで。本当に、この通りすみませんです。なんでしたら、本署経由で他の派出所にも当たってみますがね」
「あ、あ、い、いや。そこまでしなくても」
田中さんは慌てて手を振りました。
「いや、お手間とらせました。諦めて、娘には別のを買ってやります」
「娘……さんですか?」
お巡りさんは坊ちゃんと強面くんを見て言いました。どちらも男の子です。
「あ、む、娘はそこの公園に……」田中さんは公園の方を指差して、「そ、それじゃ、本当にお騒がせしてすみません、これで失礼します」と、そそくさと交番を後にしました。
「あ、あ、ちょっと待って、念のためお名前を……」
お巡りさんが呼び止めようとしても、田中さんは振り向きもせずにどんどん行ってしまいました。
「ああ、行っちゃった。……まあ、いいか。あー坊やたち、あのおじさんは知ってる人なのかい?」
お巡りさんはまだ残っている坊ちゃんと強面くんに聞きましたが、二人の幼児は首を横に振り、「じゃあね」と交番から駆け出して行きました。
「ああ、車に気をつけるんだよ」
お巡りさんは門口から身を乗り出して、二人を見送りました。
と、その時、「あの、すいません」という、低い声がしました。巡査が振り向くと、交番の中に滑り込むように、目つきの鋭い小柄な男が入るところでした。
「私、こういう者です」
男は名刺を差し出しました。
「検察庁、特別捜査……、と、特捜の、あ……検事さんですか?」
「しーっ、どうか、ご内密に。ちょっと捜査にご協力を」
「は、はあ、しかし、なんで……」
「今、出て行った男と何を話したんです?」
「あ、ああ、なんでもルンタって、ほら掃除をする円盤みたいなロボットですか。あれを探しに来たんですよ。数日前に、なんでか、あの男性の自宅から出てってしまったものを拾得物としてさっき来てた子どもが届けてくれてたんですがね。じ、実は私がパトロールに行ってる間に、勝手に何処かへ行ってしまって」
お巡りさんはまた汗をかきながら言いました。
「なるほど、ルンタか。……となると」
目つきの鋭い検事は、勝手に交番の中のパイプ椅子に腰掛けるとあちこちに電話をし始めました。
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