第6話 野良ルンタの溜まり場
次の朝、ルンタは怖い人たちの事務所で起動しました。弟分は工業高校中退者だったので、機械に割と詳しく、ルンタはざっと磨かれて、充電もされていました。
「なんでぇ、こりゃ」
ソファに踏ん反り返った大兄貴分が、床を掃除して行くルンタを顎で差して言いました。
「ヘ、ヘい。ルンタって掃除ロボットでやす。こいつを走らせとくと勝手に床を綺麗にしてくれるんで」
「ほぉ、そんでぇ、おめえは大事な事務所の掃除をこのちんちくりんにやらせて、てめえはさぼろうってかあ??」
大兄貴分はきっと虫の居所が悪かったのでしょう。ピカピカの革靴を履いた足を組んで、ルンタの上に乗せました。ルンタはボタンが押されたので止まりました。
「い、いえ、とんでもありません」
「ったりめえだあ、ばかもんが。下っ端が楽しようとすんなや」
「へ、へい。すんません、大兄貴」
「とっとと、どっか捨ててこい。ウロチョロ目障りなんだよ」
ルンタは事務所のそばのゴミ置場に捨てられました。深夜には野良猫が、早朝にはカラスがにぎやかな場所でした。近所の人たちが次々にやって来て、膨れたゴミ袋を置いて行きました。
朝の八時近くになると、ゴミ収集車がやって来ました。清掃員がルンタを見て顔をしかめ、『正しく分別して出してください』と書かれた黄色いシールを貼りました。すっからかんになったゴミ置場に、ルンタだけが置き去りにされました。九時になるとルンタは起動して、今日の掃除を始めました。
いつものように、ルンタは自分の記憶の中にある田中さんの家の、リビング、寝室、子ども部屋を掃除していきました。書斎、廊下、そして玄関。すっかり掃除が済むと、ルンタは充電台を目指しました。ずーっと遠くから、充電台の出す微かな電波がルンタを呼んでいます。ルンタは導かれるままに、電波をたどって数十メートルほど暗くて狭い路地を進みました。間違いありません、電波はだんだん強くなって来ます。確かにこの先に充電台があるのです。と、ルンタはコンクリートの階段を数段転げ落ちました。あちこちをひどくぶつけましたが、階段に吹きだまった落ち葉やゴミが衝撃を和らげてくれました。階段の下で一度再起動し、それから暗い通路のような場所を進むこと五、六メートル。ルンタはついに充電台にたどり着き、その上に乗りました。スリープしたルンタにエネルギーが満たされていきます。
けれども、バッテリーが満タンになる前に、ルンタは何者かに突き飛ばされて、充電台の上からはじき出されてしまいました。ルンタを突き飛ばしたのは、別のルンタでした。かなり古い機種で、機体に大きなヒビの入ったその黒いルンタは、充電台の上に収まると、バッテリーを満たし始めました。はじかれたルンタは、通路のような場所を奥の方へと進みました。何かモーターの音がたくさんしています。そこは、ひどく古びた雑居ビルの半地下になったエントランスでした。入居者がほとんどいなくなったビルの薄暗いコンクリートの床にひしめき合うように、十数台のルンタが掃除をしていました。
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