第7話 はぁげ♡

※このお話は全てのハゲを侮辱するものではなく、特定のハゲに対するお話です



「はぁげ♡」

ぺちん。

あうー。


オレの行動範囲で、またもや知人がゾンビになっているのを発見した。

自分で言うのもなんだが、こんなオレの性格である。

知人と言えば、大体が敵であったことはお察し頂けるであろう。


「はぁげ♡」

ぺちん。

あうー。


オレはその知人てきを縛り上げ、高校のグラウンドの鉄棒に逆さ吊り状態で吊るし上げた。

そして、はげはげ連呼をしながら、その哀れな頭頂部を叩きまくっているところだ。


しかし何だな。

生存者と感染者の割合は都市部で1:100,000。地方はグッと減るらしいが、どちらにせよその中でゾンビ化するのは1/20くらいと分析してると生存者グループから聞いている。

それと比較すると、オレの知人てきはかなりの確率でゾンビ化してるな。

性格が悪いヤツがゾンビ化し易いんかね?

だったらオレも感染してたらゾンビになったに違いねえな。どーでもいいけど。


まあ、感染→昏睡→ゾンビの手順でゾンビ化するので、昏睡で止まった感染者は衰弱死するかゾンビのエサになるのが運命だ。

ゾンビ化しようがしまいが憐れな末路なのは変わらないけど、どっちがマシなのかはオレにはわからん。

てか、これはどーでもいいことだな。


ちなみにこのハゲ――と言っても完全なハゲではなく、おでこから頭頂部がハゲた落ち武者スタイルだが——は、高校教師である。

生きの良い女子高生ゾンビでも残ってないかな、と高校に散策に来てバッタリ出くわしたのだ。

オマエ、ここの教師やったんかい。


お目当ての女子高生。

登校を習慣として繰り返す個体とか可能性あるかもと考えてやって来たのだが、その個体は女子高生ではなくこのハゲだったというワケ。


……萎えたね。

ムカついたし因縁もあったから、フラつきながらこちらに向かってくるこのハゲの足目掛けてバットをフルスイングし、動きを止めたところで吊るし上げたって感じだ。


しかしこのハゲ、はっきり言って自己愛性人格障害とかサイコパスな部類の男だったのだ。

そいつらは「先生」と呼ばれる仕事に多いと言う説、本当かもしれんな。

今では本当のゾンビモンスターになっちまってるってのも、なかなか皮肉が効いてるかもな。



このハゲとの因縁の詳細は面倒だから述べないけどな。

概要だけ説明するわ。


コイツと揉めた時、外面そとヅラは良いこのハゲの主張を一方的に信用されてオレが悪者にされたことがあった。

また、コイツの異常さを気付いてた面々も、こいつを敵に回すと面倒臭いことになると分かっているので、結果的にオレがハブられる形になってしまった。


……悔しかったね。


だいたいコイツはバツイチ。

オレに垣間見せた歪んだ性格や攻撃性、言動等から、おそらく離婚原因はモラハラかDVであろう。

それを見抜けないアホもそうだが、理解しつつオレを切ったほうが無難と判断したその他にも大いに失望したものだ。


……失望?

そう。おそらく、オレが他人に失望したのはソレが最後だ。

他者を信じると言うか、そんな人間らしい心がソレまでは残ってたんだろう。

この件以降に同様な裏切りを他人から受けようが、「まあ、人間こんなもんだね」と心が動かなくなった。

まあ、どんどん心が闇に堕ちていく感覚は都度覚えたけどな。


元々人間不信気味ではあったが、決定的になったのはこいつの影響と言っても過言ではないかもしれんな。

その意味では、コイツはかたきである。


オレの、人間性を殺した、かたきだ。



「おい、オレがゴミクズゾンビになったのは、オマエのせいだぞ」


思い切りハゲの腹を蹴り上げる。

ハゲは「ぐぅ」という声をあげ、ワンテンポ遅れて赤色のゲロをだらだらと吐き出した。


「きったねえなあ」


バケツに溜まっていたボウフラが湧いた水をハゲにぶっかける。

小便をぶっかけたかったところだが、まだまだこれからが本番である。

このご時世、不潔な行為や状態は少々慣れはしたが、自らの排せつ物を積極的に触りたいとは思わないからな。


オレはバックパックを開き、いつも持ち歩いているアレを取り出した。

チャッカマンと、簡易ガスバーナーだ。

バーナーのほうはカセットコンロ用のカセットガスを流用できるタイプで、カセットコンロのついでに持ってただけだけどな。

まあ、察しの良いヤツなら、オレがこれからコレで何をするか想像できるだろうな(笑)


バーナーに点火。

そして、炎の勢いを調整。


「ほぅら」


オレは冷めた口調で呟きながら、炎をヤツの、まだ残っている髪へと近付けた。

ヤツ自身の血のゲロとバケツの水のせいで勢いは良くは無かったが、チリチリという音と独特の焦げた異臭が漂ってきた。


あうー……!

あうー……!


身をよじって暴れ出すハゲ。


……こりゃ予想外だわ。

ゾンビは痛み等の感覚は非常に鈍いので、どんなに損傷しても何事も無かったように行動する。

にも関わらず、このハゲは炎から逃れようと必死になり、しかも抗議と抵抗と哀願

を込めたような声を上げているように見える。

こんな元気なゾンビも珍しい。


「はっ、ははっ! ゾンビになっても、そんなに髪が大事か……!」


驚いた。


確かに赤ん坊の死体を抱いた母親ゾンビってのと遭遇したことがあり、ソレは退治中も赤ん坊の死体に固執していた。

恐らくは親心が残っていると言うよりは生前の習慣的なものの名残りなのだろうが、これはさすがに憐れに思ったものだわ。


……でもな、このハゲの場合は滑稽そのもの(笑)

このハゲな、生前(?)は「最近のハゲはモテるんや」って豪語してたクセに、ゾンビになってまで髪の毛に固執するとか、やっぱりめっちゃ気にしてたんやんけw

ウケるし、はははははっ。


そう言えば、”あの日”以前にSNSで「ジェイソン・スティサムかっこいい。外人はハゲでもかっこいいな」って何気なく書いたら噛みついてきたことあったな。

そんな藪蛇に対しオレは「お、おう」って感じだったが……思えば、その頃からこのハゲのオレに対する態度が変わってきた気がする。

何か悪かったなw


「はぁげ♡」

ぼわっ。

チリチリ。

あうー!!


「はぁげ♡」

ぼわっ。

チリチリ。

あうー!!


こりゃ楽しい。

最初はただ一方通行の恨みをぶつけるためだけに、一気に燃やして終わるつもりやったんやで。

こんな愉快な反応されたら、少しずつ燃やして楽しまない手は無いやんけ(笑)



「はぁ~げ♡」

ぼわわっ。

チリチリチリ。

あうーーーー……


たった今、このハゲは完全体となった。

全ての髪の毛を燃やし尽くしたことによって。


……いや、まだだ。

まだ終わらんよ!


「ファイヤー!!」

ぼわわわっ。

ジューーーっ!!


オレは二度とコイツの頭に髪が生えることのないように、念入りに頭皮に炎を浴びせた。

そう。頭皮ごと、毛根を根絶やしにしてやったのだ。


あーうーーーー……!!!


ハゲはひと際長い悲鳴を上げた後、重力に顎が負けたのか、口を開けたまま無表情になった。

ゾンビらしい表情に戻っただけだが、一連の反応後ではまるで全てを失い絶望したかの様な表情にも見えるぜ。

コントかよ(笑)


「はっはっは、ひーっ苦しい(笑) も、もういいや!」


オレは笑いを噛み殺し、そして……

バットをハゲの頭目掛けてフルスイングした。


ゴン!

ずるり。


わお、失敗した。

振り下ろしたバットとハゲの頭とのインパクトの瞬間、焼け爛れた頭皮で滑り頭蓋骨粉砕を逃れたのだ。

運がいいヤツめ。


その代わりと言っては何だが、生焼けて細胞が死んで剥離しやすくなっていたのであろう頭皮は、すぽーんと頭蓋骨とサヨナラして数メートル飛んでいき、ずざざと地面に着陸した。


はっはっは。

どこまで笑わせてくれる。

まるでハゲ芸人のカツラネタみたいじゃねーかw

あれだよ、頭叩いたらズラが飛んで行ってハゲとバレるヤツ。

まあ、このハゲの場合、頭皮ごとだけどさ(笑)


ま、いーや。

笑わせてくれた礼に、トドメは刺さずにおいてやる。

どうせこの吊るされた状態じゃ、頭の傷口から出血が止まらず失血死するのも時間の問題だしな。


せいぜい無くした髪の毛を偲びながら逝きな(笑)

きっと、来世もハゲだぜオマエ♡

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