第8話 あぽがれ

オレが小学校中学年くらいの時だっけな。

図書館でとある小説を見つけたんだ。

タイトルは「トリフィド時代」だったっけな。

いま思えば、オレと終末世界観ポストアポカリプスとのファーストコンタクトだったのがコレだ。


あらすじを簡単に説明しておこう。

トリフィドってのはエネルギー問題解決の為に人間が遺伝子操作で生み出した植物だ。

この植物から抽出される植物油が非常に良質なのだ。


トリフィドの大きな特徴として、植物のクセに動き回れるってことがある。

自ら養分となる獲物を探し、猛毒の棘がついた蔓で一撃。

獲物が死ぬとそこで根を張り、養分を吸い取るのだ。


人間にプラントで管理され養殖されているうちは危険は少なかった。

養分は人間によって与えられていたので獲物を狩る必要はなかったからな。

……まあ、不用意に近づけば人間もエサになっちまうんだが、プラントでは拘束されていたしな。


ただ、人類にとって大きな悲劇が発生する。


ある夜に大流星群が世界的に観測される。

その予告もあり、人類の大半は宇宙の神秘という娯楽として夜空を見上げ歓喜の声を上げたのだが、それを行った者は全員何故か失明してしまったのだ。

作中には失明させるような兵器を積んだ人工衛星に流星が衝突した結果かもしれない的なことが書いてあったけか。


それだけでも社会崩壊レベルの事態なのに、更なる悲劇が人類を襲う。

蔓延する疫病。


更に泣きっ面に蜂なことが起こっていた。

管理者を無くしたトリフィドがエサを求めて野に放たれたのだ。

彼らの主食は、失明し容易に狩ることができる人間になるのにそうは時間がかからなかった。


生存者で失明を逃れたものは、何らかの理由であの日流星群を観察しなかった者だけ。

主人公もそのひとりだ。何故彼が流星群を見なかったかは忘れたが、確か怪我で病院にに引き籠っていたからだったかの様に思う。


余談だが、この手の物語でパンデミックとかに巻き込まれなかった主人公って、何かの理由で引き籠ってて免れましたってパターンが多いよな。

ご都合主義にも程があるってもんだぜ、まったく(笑)


主人公はほとんどの者が失明している生存者のコミュニティをのトリフィドの大群から守りつつ、最終的には比較的小さな無人島に脱出するという話だった。



この作品にオレは熱狂した。

何故ここまで熱狂したかはこの頃にははっきり自覚できなかったが、大人になっていくにつれ判ってきたことがある。


子供の頃から体格には恵まれなかった。

どの学年でも低いほうから数えたほうが早い身長。

大人になってから判ったのだが、常人の7割しかない肺活量。

運動に関しては同学年の誰よりも劣っていたと思う。

親に無理矢理入れられた少年野球ではライトで補欠という最底辺ポジションでバカにされたものだ。


頭だって特別良いワケでもない。

勉強なんて苦痛なだけだった。

顔だってイケメンとはお世辞にも言えない。

そんな境遇において、自信なんてのが育つはずもなく。


オレは必然的に、自信が無いので何かを行うワケでもないのに他者を羨む、卑屈な性格な大人になったというわけだ。

普通に考えて、ロクな人生になるはすがなかろう。



オレは子供の頃から漠然と、人生をリセットする何かを欲していたのだ。

自分で切り開くような行動力は無いので、外的要因によるという都合のよい何かを心のどこかで切望していた。


その答えが、子供の頃読んだ小説にあった。


終末世界観ポストアポカリプス


僕の大嫌いな世の中。

それを一気に破壊し、逆転できる素晴らしい世界観!!!

しかも、今までエリート共が築き上げてきたモノによってエリート共自らが破滅するという痛快なモノである。

これ以上の話って、あるかオイ!!!(笑)



そして、現在それが叶ったってワケさ。

憧れの、終末世界ポストアポカリプスがな。


オレをバカにしてきたクソったれな全てよ、ざまあみろってヤツさ!


ここは神が与えたもうただ。

好きな様にやらせてもらうぜ。

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