勇者もどき追放作戦②
マリはキャンプカーに戻ってきたセバスちゃんに話しかける。
「私達、この世界の人間とも意思疎通可能みたい!」
「確かに、彼女が試験体066氏にアプローチしている言葉、理解出来ますねぇ」
セバスちゃんは忌々しい表情でドア付近の男女を見つめている。もしかすると、試験体066のポジションは本来なら彼のものだったと思っているのかもしれない。
「ていうか、066氏が酷いです。さっきは訳の分からない術で私を弾き飛ばしたくせに、萌え系の女の子のハグは受け入れていますねっ。はっ! もしかして、私を悪人に仕立て上げて、あの子を横取りする気満々だったんじゃ……」
「アンタの被害妄想めんどくさい。最初からあの猫耳の子はアンタの物じゃないから」
「そうですけどー」
「大事なのは、あの子からこの世界の事を聞き出す事だし! アンタはこの車を安全そうなとこまで進めといて。私が対応しておくから」
「……。一生イケメンには勝てないんだ……」
「頭冷やせば?」
セバスちゃんはトボトボと運転席に向って歩いていく。気持ちは分らないではないが、口に出すなよと思う。
(とは言っても、ベタベタとくっ付く男女の間に割って入るのも抵抗あるんだよね)
もう少し様子を見てから女の子に話しかけようと、マリはキッチンスペースに足を進めた。
カウンターに置いたディスペンサーからグラスにデトックスウォーターを注ぐ。先程軽食を作る時に、キウイやレモンを輪切りにしてミネラルウォーターに入れておいたのだが、そろそろ水に味が滲み出てる頃だろう。
飲んでみると爽やかな味わいで、化け物との戦闘でのちょっとした後味の悪さがマシになる。
キャンプカーが走り出す。
マリはちょっと休もうとソファに座った。
このキャンプカーは高額なだけあって、リビングスペースは広々としていて、大きなソファを置いてもまだ走り回る余裕があるほどだ。アレックスのメッセージの内容を信じたわけじゃないが、念の為キャンプカーを用意しておいて本当に良かったと思わざるをえない。なんの準備も無く、この地に放り出されていたらのたれ死ぬだけだった。
気分が落ち着いてくると共に、先程化け物に攻撃された部分に痛みを感じる様になっていた。
(跡残ったら最悪……)
棚から救急箱を取り出し、頰や腕の傷を適当に消毒して、大きな絆創膏を貼り付ける。鏡を見ると、なんとも間の抜けた顔に見え、口をへの字に曲げた。
「わー! すっごーい!!」
箱を元の場所に戻していると、リビングスペースに、少女の可愛い声が響いた。
現れたのは、猫耳の少女だった。試験体066と一緒に居たいのではないかと思っていたのだが、もう気が済んだのだろうか?
「こんな内装初めて見たよ! 綺麗! 立派! それに、この建物動いてるんだね。貴女の魔法で動かしてるの?」
「魔法? これは元々そういう物なの」
「そうなんだ! 吃驚!」
異世界の人間になんと説明するべきか言葉が見つからず、曖昧に答えたのだが、彼女には十分だったようだ。
「アンタを乗せたまま、あの場所から動いちゃったわけだけど、よかった? 私達レアネーって場所に向ってるの」
「全然大丈夫! アタシもレアネー市に向かってたから! 寧ろ有難いくらいだよ! このフカフカの椅子に座ってもいい?」
彼女はマリの隣を指差し、首を傾げる。
「いいよ。飲み物持ってくるから座って待ってて」
「は~い!」
マリが立ち上がると、少女はソファにピョンと腰掛け、きゃあきゃあと楽しそうな声を上げた。
彼女の様子を見ていると毒気が抜かれてしまう。マリは釣られて笑ってしまいながら、デトックスウォーターを彼女の分もグラスに注ぎ、戻って来た。
「よければどうぞ」
「ありがとう~! わぁ! 美味しいコレ! レモンと、後何が入ってるのかな~!?」
「キウイ」
「キュウリ? へ~こんな味のキュウリ初めてだな~」
発音がおかしかったのかもしれないが、もしかするとこの世界に存在しない果物かもしれないので、しつこく訂正しない事にする。
「私、コルルって名前! 貴女は何て名前なの?」
「マリだよ。レアネーに着くまで宜しく」
「うんうん!」
自己紹介も終わった事だし、この世界の事について色々質問してみようと考え、口を開く。
「アンタちっこいモンスターに襲われてたけど、ああいう襲撃? って日常茶飯事なの?」
マリの質問に、コルルは唇に指を当て、「ん~」と唸った。
「あの生き物はゴブリンって言うんだけど、最近増殖してるし、凶暴化してるみたい! 前までは山奥にしかいなかったのに、だんだん里にも現れるようになったんだよ。ていうか、ゴブリンだけじゃなく、他のモンスターもそう! 私だけじゃなくて、この国の人達皆迷惑してる!」
「思ったより危険な世界なんだ……」
「そうそう! ん? マリはこの世界の人間じゃないの?」
「違うー。別の世界から来た」
「びっくりー!! 別の世界に旅行に来れるって、マリってすっごい魔術師なんだね! なんか魔力量が多い感じだし、只者じゃないって感じー!!」
「魔力量? アンタってそういうの分かるの?」
コルルの話は興味深い。だけど感覚がマリの世界の人間と違いすぎて、ピンとこない。
「ん? 皆分かると思うよ~! あ~そっか、マリが来た世界と勝手が違うのかな? んとね~。この世界の生き物って殆どが魔法を使えて、他の生き物の強さが分かるんだよ! アタシはすっごく弱いから、あーやってゴブリンの餌食にされちゃうの!」
「皆魔法が使えるとか、こっちが吃驚だよ……。アイツだけかと思ったのに」
「アイツって? あー! あの白髪のカッコいい人の事かな! ねー、マリ。あの人と付き合ってるの? マリの男?」
「は? 冗談言うな。アイツが勝手にキャンプカーに乗り込んで来ただけだし」
「ホント!? じゃあ、アタシの花婿にしていいかな!? ちょうど相手を探してたんだよぉ!」
聞き間違いかと思い、コルルの顔をマジマジと見る。
(さっき会ったばかりの男を花婿って……。大丈夫かこの子?)
「アイツの同意を得れるならいいんじゃない? 正直、出会って数十分で結婚相手決めていいのかなって思わなくもないけど」
「運命感じたの! あんなに強い人って、そうそう出会えないと思うし、ガンガンアタックしていくよ~!」
「強さが大事なの?」
「うん! アタシ達獣人はねぇ、女しかいないんだけど、他の種族の強い雄の血が欲しいんだ! 相手の人には一生レアネーに居てもらう事になるけど、いっぱい働いて幸せにするよ~!」
かなり特殊な婚姻システムの様だ。相手に選ばれたら大変だな~と、この時マリは思っただけだった。
◇
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