勇者もどき追放作戦③
「セバスちゃん、運転代わる? はい、飲み物」
マリは助手席に腰を下ろし、メイソンジャーに入れたデトックスウォーターをセバスちゃんに手渡す。
「お、有難うございます。運転はまだまだいけますよっ!」
「そう? 無理しなくてもいいけど」
コルルと一時間程会話し、マリは一度考えを整理するため、適当な理由を付けて彼女の前を去った。情報量が多くて少し混乱気味なのだ。
「猫耳の子、何か言ってました?」
「うん。色々と……。その中でも気になったのはモンスターの事かな。最近モンスターの数が増えてきてて、凶暴化してるんだって。もしかしたら、この先もっと危険な奴と会うかもね」
「むぅ……。エイリアンみたいな奴等は雑魚でしたが、この世界のモンスター共に我々の銃火器がどれだけ通用するか……」
「そうなんだよね。聞く話によると、人だけじゃなく、モンスターなんかも魔法を使えるみたいだから、私達二人で各地をブラブラしまくるのも危険かも。だから提案なんだけど、今向かってるレアネー市に数日滞在する事にしない? 猫耳のーーコルルって名前なんだけど、あの子の話では、レアネーはそこそこ大きい街みたいだし、そこでアレックスの連絡を待ちつつ、異世界の暮らしとかを見学したらいいんじゃないかと思うんだけど、どう?」
「大賛成ですよ」
「冒険者ギルトっていう組織の支部もあって、そこでもっと大きな地図を貰ったり、情報を集めたりも出来るらしい。私達みたいな他の世界から来た奴等は目立つだろうし、もしかしたらアレックスの事も何か聞けるかもしれないね!」
「きっとうまくいきますよ! ……066殿はどうするんです? 街まで運んだらお別れでいい気も……」
セバスちゃん的にはゴブリンの一件から、試験体066がさらに嫌いになったようだ。マリとしても、彼に車内に居座られ続けると気が休まらない。
「また私から、レアネーで車を下りるように言ってみる」
「宜しくお願いします。それはそうと、私ハンバーガーを出せるようになりました」
「は?」
急に何を言いだすのかと、マリはセバスちゃんの横顔をマジマジと見つめた。気は確かだろうか?
「カーナビに、私のスキルが表示されてたでしょう。ハンバーガーメーカーと。だから、集中してイメージしてみたんです。そしたら、ほら……」
彼の手の中には、いつの間にやら紙に包まれた丸っこい何かが握られていた。白と赤の包装紙には見覚えがある。
「アンタいつの間にマッ○に行って来たの!?」
「買ったわけではないんです。これは私のスキルで出したんです。是非食べてみてください」
恐る恐る丸っこい物体を受け取る。ほんのり温かい。包装紙を開くと、ふっくらとしたバンズと、中に挟まれたパテ、輪切りのトマトや、トロリと溶けたチーズが現れた。普段あまりチェーン店には行かないが、久々に見たハンバーガーは結構美味しそうだ。
パクリと齧り付く。
「……むぐっ!? ナニコレ!! 味が何故かマク○ナルド! ほんとに買ってきたんじゃないの!?」
「スキルですね!」
「信じらんない! っていうか、どうせならFIVE GUYS BURGERS AND FRIESのハンバーガーの味を再現しなさいよ!」
「そんな無茶苦茶な!」
まぁ、久々に食べるハンバーガーの味は、可もなく不可もなくという感じなので、しょうがなくムシャムシャと完食する。
(それにしても便利なスキルだな。これがあったら飢えずにすむじゃん。ていうか、無限に出せるなら、ニューヨークでハンバーガー店開けるよね……)
訳の分からないスキルだと思っていたのに、意外と有用なものだったらしい。尤も、ずっとハンバーガーを食べ続けるなんてごめんなので、マリの手料理八にたいして、セバスちゃんのハンバーガー二くらいの割合がちょうど良さそうである。彼の承諾も得ず、勝手に決めつけるマリである。
「ゴミ捨ててくる」
「いってらっしゃいませ」
立ち上がり、ふとカーナビが目にとまる。画面右下の人型のアイコンがピコピコと光っていたからだ。
セバスちゃんにキャンプカーを停車させ、席を譲ってもらう。人型のアイコンに触れてみると、搭乗者の情報が表示された。
マリのレベルは、一から三まで上がっていた。
「私、レベル上がってる!」
「本当ですか!? 私、私のは!?」
カーナビを覗き込もうとするセバスちゃんの頭を押し返しながら、画面を下へとスクロールする。
「アンタもレベル3になってる!」
「おお!! さっきエイリアン共を倒しまくったからでしょうか。数値を確認すると、急に強くなった気がしますな!」
「確かに!」
セバスちゃんがハンバーガーを出せた事から、マリの中でこのカーナビの信憑性はちょっとは上がっている。表示上でレベルアップしているのだから、何等かの変化が自分達に起こっているのかもしれない。
マリは謎のやり甲斐を感じた。
しかし、急に眠くなってくる。ハンバーガーを食べた事による、急激な血糖値の上昇のせいかもしれないし、一晩丸々寝てないからかもしれない。
(うー。眠い……。ハンバーガーを食べ続けるの危険だな)
セバスちゃんに「ちょっと寝てくる」と伝えて、キャンプカー後方のベッドルームにフラフラと向かう。ドア付近を通りすぎる時に試験体066と目が合うが、無視する。彼の側には転がるコルルの姿もある。ゴブリンに襲われ、疲れたのだろう。マリももう限界で、ベッドルームにつくやいなや、ベッドにダイブしてそのまま眠ってしまった。
◇
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