勇者もどき追放作戦①

 セバスちゃんに代わり、キャンプカーを運転するマリ。フロントガラス越しに見る大地は凸凹としていて、バス並みの大きさの車両で走ったらもっと揺れそうなのに、ほとんど衝撃的もなく走行出来ている。

 バグった表示のカーナビを見たときから薄々勘付いていたのだが、キャンプカー自体がこの世界にきた事で変化した様な感じだ。

 それに速度メーターの隣に見覚えの無いEXPと書かれた円形のメーターが増えていて、走行距離に応じて針が進み、停車すると針も動かなくなる。針が100%までくると、その上に表示されている数字が一増える。EXPを経験値と考えると、キャンプカー自体にレベルの概念があるという事なのだろうか?  現在二と表示されていて、だいたい三十分走行すると一増えている感じだ。


(今十四時くらいで、晴れてるのに人とかと全然すれ違わないな。人が住めない土地?)


 深い色合いの青空に、豊かな自然。ニューヨークで暮らしている日々でカサカサになっていた心が癒される。

 細すぎる道は、自動車の物にしては細すぎる轍が二本残り、何と無く、この世界はあまり文明が発展してないんじゃないかと思えた。キャンプカーのデカさ的に、対向車が来たらアウトなので、助かってはいるのだがーー。


 いろんな事を考えつつ暫く走行すると、右斜め前方に小さな何かが蠢いているのが見えた。キャンプカーを低速にし、近付いて行くと、地球上に居なそうな生き物が群れていた。

 生き物は緑色の肌で、耳が尖っている。身体は小さめで、若干スタ◯ウォーズの伝説のジェダイ・マスターに似ている。

 邪悪な目つきで下品な顔立ちなので、魂の在り方が違うよーだが……。


 マリがそのまま通り過ぎなかったのは、ソイツ等が、人間らしき生き物を取り囲んでいたからだ。だがその人物も見た目が普通じゃない。ボロい服装に身を包んだ少女は、頭部に黒い猫耳がついているし、お尻に尻尾が生えている。カチューシャか何かと思いたいところだが、尻尾が意識を持って動いているみたいに見える。

 ちょうど黒猫と人間が混ざった様な外見だ。その子は倒れた馬の前に立ち、懸命に棒を振りまわし、異形の群を除けようとしている。

 だが、緑色の生き物の数が多過ぎ、劣勢だ。


(う~ん……)


「マリお嬢様、何故急に停車したのですか?」


 運転席に近付いて来たセバスちゃんが訝し気に話しかけてきた。


「セバスちゃん。あれ見て」


 マリが異形どもを指差すと、彼は大袈裟に仰け反った。


「あれは! ジャパニーズアニメのヒロインみたいな女の子が地球外生物みたいな奴等に襲われてますね!」


「そうそう。二時間程走って、漸く人間ぽい生き物に会えたわけだけど、あの子助けた方がいいかな?」


「そこは『助ける』一択ですよ! あんなエモい美少女は捨て置けません!」


 襲われているのが不細工だったら捨て置くのかと、煽りたかったが、セバスちゃんは巨体らしからぬ素早さで棚から銃火器を取り出し始めたので、しょうがなく付き合う事にする。


「まーいいか。言葉が通じるかどうか試してみたいし、通じるなら、この世界の事色々聞きたい」


 セバスちゃんに手渡されたイングラムM10を肩にかけ、キャンプカーを出て行こうとすると、ドア付近に座った少年が「ゴブリン……」と呟いたが、意味がわからなかったのでスルーする。


 耳栓を装着しながらエイリアンもどきに近付き、声を張り上げる。


「アンタ達! その子を放しなさいよ!」


 マリが二十メートル程距離を残して止まると、異形の生き物達の視線が集まる。

 十匹以上いるだろうか? 興奮状態の彼らは、手に持つ簡素な武器を振り回し、そして石ころを投げて来る。


(ゲゲ……。好戦的な奴らだな……)


「まずは、話し合おう! ここから去ってくれたら、命は助けてあげてもいいよ!」


 そもそも、会話出来るかという問題があるが、こういう時は先に手を出した方が負けと決まっているので、手順を踏む。

 訴訟大国アメリカに住む事で身についた振る舞いだ。

 言葉の途中で、槍が飛んできた。慌てて身を低くして躱すが、異形の生き物の中には、弓を構えている者もいる。

 今にも撃たれそうだ。


(や、やばい……)


 マリは短機関銃の安全装置を外し、引き金を引いた。肩が外れそうな程の衝撃にマリは目を瞑る。すぐに撃ち切り、目を開く。緑の生き物は半数程倒れている。


(うわ! 残ってる!!)


 飛んでくる矢が頬や腕を掠める。


「いたい!!」


「マリお嬢様! 今助けます! 離れて下さい!」


 上空を瓶が幾つも飛び、異形達に何か液体がかかる。マリの前にセバスちゃんが出て行き、手に持つ火炎放射器から火を放った。

 辺り一面が激しい炎に包まれる。異形達は黒焦げになり倒れた。

 耳栓を外したマリの耳に悲鳴が聞こえてきた。


「きゃー!! 熱い! 燃えちゃう!」


 猫耳の少女に炎が迫っていた。


「げ! セバスちゃん! 威力が強過ぎた!」


「うわ! 消火器持ってきます!」


「間に合うのかな……」


 慌てるマリが次に目にしたのは、突如として大きな水の塊が上空に浮かび、落下する光景だった。


「な……、何がどうなって……」


「やり過ぎ……」


 後方からかけられた第三者の言葉。ハッとして振り返ったマリが見たのは、手に水の玉を持つ、白髪の少年の姿だった。試験体066。彼もキャンプカーを下りて来たらしい。


「今の消火、アンタがやったの?」


「飯の礼……」


 マリが作ったアワビ粥が気に入ったらしい。セバスちゃんと共に半眼で少年を見つめると、居心地悪そうに車内に戻って行った。

 唖然とする二人の傍を、猫耳の少女が通り過ぎ、キャンプカーの中に駆けて行った。


「え!? スルーされましたよ!? 礼の一つくらいあってもいいんじゃ!?」


 ショックを受けるセバスちゃんを放置し車内に入ると、猫耳の少女は白髪の少年に抱き付き、ゴロゴロしていた。


「助けてくれて有難う! アタシ、貴方みたいに強くてカッコいい人好みなんだ!」


 どうやら、先に救助に入ったマリ達の事は眼中にないらしい。それか、もしかすると炎で危険な目に合わせた悪人だと思われている可能性もある。

 微妙な気持ちになるものの、ふと気がついた事に気分が上向いた。


(この子の話す言葉、理解出来る!)

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