ようこそ異世界へ①

 キャンプカーを停め、マリとセバスちゃんは状況を確認する。


「地球上にはミクトラニ王国って存在しないよね?」


「確か無かったはずですね……」


「ボディガード達がどうなってるか確認してみようかな」


 スマートフォンを取り出し、リーダーの男に電話をかけてみようとするが、繋がらない。メッセージはどうかと、適当な文章を打ち込んで送信してみても、『レベルが足りないため送信出来ません』と表示される。意味が解らない。そのうえネットも繋がっていないようだ。時刻の表示は一見まともなのに、よく見てみるとAM11:00と表示されていて、バグっている。


「なんだこりゃ? セバスちゃん。スマホ使えてる?」


 背を丸め、ハンバーガー型のケースに入ったスマホを弄っていたセバスちゃんは首をふる。彼はYouTubeの動画鑑賞やTwitter に反社会的な呟きをするのが大好きなので、マリよりもガックリきているようだ。


「私の楽しみの八割が失われましたね」


「カーナビは動いてるのにね。意味わかんないや」


 セバスちゃんを運転席から追い払い、カーナビのタッチパネルを操作してみる。今表示されているのは、恐らくマリ達が居る地点だと思われるが、上下左右に動かしてみても、空白の範囲が広く、いつまで経っても何も表示されない。

 指での操作に限界を感じ、目標地点の選択肢を選ぶ事にしようとするが、地名が二つ表示されるだけだ。

 一つはヴィシュ、そしてもう一つがレアネーという場所だった。勿論どちらも心当たりのない名称だ。


「ここは異世界なのかもしれませんね。ばあ様は本当の事を言ってたんだ」


 途方に暮れた様な声でセバスちゃんが呟く。今まで目にした異様な現象と、見覚えの無い地名から、リマも薄々勘付いていた。しかし中々受け入れ難い。誰も教えてくれなかった世界に、今自分が居るという現実感の無さに、不安が募る。

 セバスちゃんの言葉を否定する材料を探したかったのに、フロントガラスの向こうにアリエナイ生き物の姿を見てしまい、全ての希望が打ち砕かれた。

 巨大な芋虫がノッソリ目の前を横切っていた。バス並みのこのキャンプカーより、三倍程もデカイ。

 セバスちゃんと共にサッと身を隠す。


「あんな生き物、地球上に居なかったよね!?」


「です! 襲いかかられたら、我々ひとたまりもありません!」


「銃は効かない?」


「変に刺激しない方がいいでしょう! とにかく、通り過ぎるまで待った方がいいかもです!」


 セバスちゃんと騒ぎつつ、十分ほど待つと、巨大芋虫は割と遠くまで移動してくれていた。

 安堵して立ち上がる。カーナビの画面の色が変化しているように見え、顔を近付けると、画面の表示が変わっていた。

 そこに自分の名前を見つけ、凍りつく。



[名前 ]マリ・ストロベリーフィールド


[ジョブ]選定者


[レベル]1


[スキル]キャンプカーマスター、錬金術


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[名前 ]セバス・ライトミール


[ジョブ]アニオタ執事


[レベル]1


[スキル]家事魔法、ハンバーガーメーカー


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[名前 ]試験体066


[ジョブ]当代66番目の勇者


[レベル]66


[スキル]血祭り、自爆


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「何コレ ?」


「どうかしました?」


「私とセバスちゃんの名前が表示されてる!」


 セバスちゃんに場所を譲り、見てもらうと、彼も目を丸くした。


「これは……、今キャンプカーに乗っている人間のステータスを表示しているかもしれません」


「そうだとしても! 色々突っ込みどころが満載だよ……。まず一番気になるのは、試験体066が誰ってところ!」


「おそらく、彼かと……」


「!?」


 セバスちゃんの指差す方を見てみると、先程マリが倒した不審者が虚無な表情で膝を抱えていた。

 陽の光の下の彼は、意外と若く、繊細な顔立ちをしていた。白髪に紫色に見える瞳。人間離れしている。けして、女性に暴力を振るう様な雰囲気ではない。


「お、起き上がってる!!」


「ですなぁ……」


「呑気な返事をしないでよ! アイツを縄で縛って! アレックス捕獲用に持って来てたじゃん!」


「で、でも相手はlv66! 対する私はlv1!! 敵うと思います!?」


「あんな訳の分からない表示を信じてるの? 馬鹿馬鹿しい! アンタがやらないなら私がやる。縄を貸して」


「ぐぅぅ……! マリお嬢様にやらせるくらなら、私がやりますよっ!」


「そう? じゃあお願い」


 セバスちゃんはスパイ〇ーマンの顔型のリュックから荒縄を取り出し、白髪の少年に近付く。彼の三十センチ程内側にセバスちゃんが入ろうとすると、急にその巨体がブルブルと痙攣し、仰向けに倒れた。


「セバスちゃん!!」


 マリは驚き、駆け寄る。


「何されたの!?」


 死んでしまったのではないかと心臓が縮む思いだったが、彼はすぐに身を起こしてくれたので、ホッとする。


「……この少年に近寄ったら、感電する様に痺れたんです」


「えぇ……っ!? こわ……」


 顔を上げた少年の瞳は不気味に光っている。彼は人間なのだろうか? あまり刺激したくないと思いつつも、ちゃんと伝えなければならない事もある。


「ここから出て行ってくれるかな? アンタはこの世界に用無いでしょ? 一緒に居られると迷惑なの? 分かる?」


「ガッカリしてる……この世界に来てしまって……」


「ニュージャージー州に用があったみたいだしね!」


「用は無い。自由がほしい」


「じゃあ、私達と一緒に居ない方が自由になれるよ。バイバイ」


「君は変わってる……」


 少年は、意味不明な事ばかり言い。そのまま目を閉じてしまった。


「キャンプカーを気に入ったんじゃ?」


「気に入られたとしても、また私たちに危害を加えるかもしれないから、このまま置いておくわけにはいかない」


「確かに」



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