第12話

小松菜にあの後初めて会ったのは、偶然にも私が愛薔薇さんに電話で呼び出されて半分返金してもらったその日の午後だ。     丁度、中型犬を散歩していた時に、バス停の前を通るといた。最初は分からなかったが、後ろ向きに立っている所を私がすれ違う時に気が付いた。              思わず耳を見た。縫った後の傷跡は少し盛り上がり、赤い蚯蚓ばれになっている。なんか痛々しい。こうした傷跡は一年位すると段々と白くなり、分からなくなるらしいが。でも立ち止まって見ているとその気配に気付いたのか、いきなり振り返った。顔が合ってしまった!私は急いで、会釈した。      私が野球帽を目深にかぶっていたからだろうか。誰か一瞬、分からない様だった。ジッと顔を見る。そして途端にアッ!、と言う顔をすると笑い出した。そして又顔をジッと見る。                  だから私は聞いてみた。        「耳、大丈夫ですか。」          一瞬の沈黙。              「大丈夫じゃねーよー。」         そう返事をした。私は謝ろうとしたが、思わずこう言ってしまった。         「だけど、どうしても入るって言ったから…。」                「言ってねーよー!」          「エッ?、言ったじゃん。」       すると小松菜は少し得意そうにこう言った。                 「今日、署に来たんでしょう?」     私が呼ばれた時にはいなかった。     「行ったよ。行って、お金半分返してもらったから。良かった!」          その時にバスが来た。彼は大変に驚いた顔をしてから、ムカムカした様な嫌〜な顔で私の顔を見つめながらタラップを上がり、バスに乗った。バスが発車して、私はそのまま又歩き出した。               恐らく愛薔薇さんとブルは、私に返金する事を言わなかったんだろう。そして私は、犬が噛んだ件に付いて注意をする為に呼ばれた、と言う事にでもなってたんではないか?  だから小松菜はあんなに驚いて、嫌な顔をしたんだろう…。             続く…

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