第7話

「一寸何なの〜?!何がお前だよ、馬鹿!」この蟹は黙っているが、態度は偉そうだ。人を馬鹿にした様に見ている。そしてこの時は、巨漢はおらず、警察署ヘ戻った様だった。そして、小松菜の付き添いでいなくなった警官だとかで、半分程残っていた警官はついには二人になり、今では一人だけだった。すると蟹はこの警官を近くに呼んだ。何かを言っている。「はい。」と警官が返事してから、私の所へ来た。           「今から一緒に来て。署で話を聞くから。」時間はもう時計を見れば8時10分位だ。 「今から?!」             「そう。だから出てきて。」        ジョーダンじゃない!!何でこんな時間に 行かなきゃならないんだ?悪いが、大した事件でもなんでもない。確かにうちの中型犬が小型犬を噛んだのは悪いと思う。だけどいきなり近くの店に飛び込んで行って警察を呼んで、しかも消えてしまった。おそらく獣医へ行ったのだろうが、普通なら私に直ぐに何か言ってくる筈だし、何も警察なんて関係ない筈だ。(実際にこれは民事事件で関係なかった。)                  それと小松菜にしても、私が酔っているのに、しかも嫌がっているのに、無理矢理に家の中に入りたがったのだから。調書が読めないと言って。そんなのは外でも十分なんとかなった筈だ。うちの犬が噛んだのはこれも勿論悪いとは思うが、だけどハッキリ言えば、自分が巻いた種ではないか。入って来なければ何も問題は無かった。         「悪いけど、もうこんな時間だし。だから明日行って話すから、それで駄目?」    もし今行けば、恐らく又数時間は帰れないだろう、そう思った。           警官の顔が曇った。           「さぁ、早く出てきて。」        「明日にして。絶対に行くから。朝、直ぐに行くから。じゃあ、おやすみなさい。」   そう言って家の方へ歩いて行こうとすると警官は焦った。              「駄目、早く出てきて!」        「嫌だ、明日行くから。大体、あの人だって、どうしても家の中に入りたいって言って入ってきたんだから。でないと調書が見えないからって。だからあんなことになったんだからね!大体、自分達が懐中電灯を持ってないからいけないんじゃん!!借りたら見えるって言ったのに!」           警官が不審そうな顔をした。       「持ってるよ。」             何を言ってるんだ、この女?呆れて、馬鹿にした様な表情だ。            「だって、さっきあの人が無いって言ったけど?」                 警官が凄く驚いた顔付きになった。チラッと蟹を見たがやはり同じ表情だ。そしてこの蟹は、小松菜の後釜に来た刑事の様だ。   「あるの?!じゃ、見せてよ。」      そうだと思ったよ、無い筈無いじゃん!だが、見ないと気がすまない。       警官は懐中電灯を手に持って私の目の前に突き出して見せた。            「ほら?」               カーゲート越しにハッキリと見えた。   「さぁ、もういいからそこから出て来て。」私を、家の前に止まっているパトカーに乗せようとしているのだ。          「だから明日行くから。別に逃げないから。殺人事件だとかそんなんじゃないんだからさぁ。」                「本当にいい加減にしないと承知しないぞ。」                 若い、色黒で眼鏡の警官はイライラし出した。                  「だけどこれ、任意なら無理に連れていけないよね?だったら行かないよ。」     「そんなのは、連れていける場合だってあるんだ。さぁ、早く出ろ。」         私はこうした強気の命令口調に又腹が立って来た。何でこんな言い方されたり、そこまでして今行かなきゃいけないの?蟹が意地悪く、取り調べをしたいだけなんでしょ?  ネチネチとしつこく、満足するまで。見るからに陰険そうな男だもの。        「じゃ、連れてったら?今、犬達を出すから。そしたら開けて入って来なよ。」   「何ー?!」              「じゃなきゃ機動隊でも何でも呼んだら?それで連れ行きなよ。だけどどうせ来やしないよ。たかが女一人の為に、こんな時間に。残念でしたー。」             「何だと〜。」             「だってそうだもん。違う?アッ、そうだ。じゃ、私も今もう段々疲れて具合悪くなってきた。本当だよ!だから私、今救急車を呼ぶから。それで病院に連れて行ってもらう。待ってて?今、家から携帯持って来るから!」本当に段々と疲れてきたし、具合は悪くなかったが、急な、とんでもないこの土曜日の展開に、もう早く切り上げて家に入りたかった。そして眠りたかった。だからこうでも言わなければまだ食い下がって戻らないと思えた。だってもし救急車が来たら連れて行かれるだろうから、そうしたらこの二人は無理矢理に引き止められない。         警官は焦った顔付きになった。そして急いで蟹へ近づきながら聞いた。        「明日来るって言っていますから、それで良いでしょうか。」             そんな風にお伺いを立てた。       蟹が優しそうに若い警官に言う。     「はい、良いですよ。」          まぁ、仕方ないなと言う風に。蟹もずっと私と警官の言い合いを聞いていたから。そうして、私に明日出頭する様にと警官が言った。そして蟹とこの警官は帰った。私はやっと解放された。               続く… 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る