第6話

さて、長々とこの小松菜が私の犬に噛まれた話をしてしまっているが、この日の事が第一話に関係しているので仕方無い。我慢してお付き合い下さい。            小松菜がいなくなり、私はそのままカーゲート内に立っていた。するといきなり巨漢が現れた。さっきまではどこにいるのか、その大きな体なのに、見当たらなかったのだが。それで私に、小松菜の事を聞いたと思う。私は事情を説明した。そして急いで家の中へ駆け込むと、玄関からホースの切った物を持って来て見せた。青い、長さが大体53cmの、普通のホースを切った物だ。        「これ見て?!これ、普段使ってるの!これは犬用のホース。」            巨漢がジッと見る。           「うちの犬は、ちゃんとに躾や訓練が入ってるの!これは訓練学校で使うやつ。これは、訓練学校でくれたの。日本で一番賞取ってる所で!安達って所で!だから、あの人がどうしてもっていって入って来たから。だから侵入者かとと思ったから!!」       巨漢は話をジッと聞いている。そして言った。                  「じゃあ、それ渡して。」        「エッ?何で?!」          「それ、渡して。証拠品だから。」    「駄目、嫌だ。」            「早く!こっちに渡して。」       「だってさっき使ってないじゃん。何で証拠なの?」                「早く!」               「だってこれもう一本しかないから。もう一本、散歩中に無くして。だから、困るから!」                 私は警察犬訓練学校の安達建先生に、最後の時にこれを2本もらった。普通のホースをある程度の長さに切った物だ。訓練時に、たまに使う物だ。犬が言うことを聞かない時にそれで打つ。ホースだからそんなに固くはないし怪我もしないが、それで自分が悪いだとか間違っていると分かる。(可愛そうみたいだが、大型犬の場合、しっかりと教え込まないとそのサイズの為に力もある。散歩中にいきなり引っ張られたり等で危険だから。)殆ど使わないが、散歩時は一応持っている。  そして、沢山あるからと2本もらったのだが、一本はもう一匹の、小型犬を噛んだ方の犬の散歩時に(この犬には使用しないから)ウンチ用のビニール袋や水飲み用の器を入れて持ち歩く布製のトートバッグに縦にして入れていたら、いつの間にか落ちたらしい。それで無くしてしまい、一本しかなかった。勿論、ホームセンターで長さを言って、切ってもらって買える。今使用しているのはそれだ。何しろ、無理やりに巨漢に取られてしまったのだから!            「早くそれ渡して!」          「嫌だ!」               「早く渡して!警察が言ってるんだから。早く!!」                巨漢は段々と怒り顔だ。意地でも取り上げると言う感じだ。もう仕方ない、私は渋々これを渡した。本当はそんな物を持って帰ったって無意味な筈だ。だが、巨漢は小松菜の友人らしいから、耳を噛まれて救急車で運ばれた事が腹立たしいのだろう。でも、あの時に言えば良かった。じゃあ、本当にこれを提出する必要性があるのかお宅の警察署に電話で今確認するから。で、そうなら渡すし、違うなら渡さない。分からなければ、今は渡さない。でもやはり必要になるなら、後から提出するから、と。だがこの時はそんな事が頭に浮かばなかった。            巨漢は受け取ると、私から離れた。だが確か、まだそこにいて家に入らない様にと言われた。だから私は、まだしばらく敷地内に立っていた。すると、何か視線を感じた。左の方から。見ると、背の小さな、蟹を思わせる様な40代の男がいつの間にか来ていた。そして私を凄い形相で睨みつけている。余りの陰湿な、挑戦的な顔に私は驚き、見入った。そしてこう言ってしまった。      「あの、何ですか?」          男が凄い勢いでこう返事した。      「お前、悪いと思ってねーだろ!!」   驚いた。中身もだが、その口調に。    「思っています。」           「嘘つくんじゃねー。してねーだろ!」  私は頭に来た。             続く…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る