第3話

そして、私をジッと見ながら、巨漢へ言った。                 「何?外人?!」            私は日米とのハーフだから。       そしてこう言った。          「俺、英語できないよ。」         巨漢が驚いた風に返事した。       「大丈夫だって!」           「だけど、俺英語できないよ!」     「だから大丈夫だって。」        「だって俺、本当に英語なんてできないもん。」                 「だから大丈夫だって!普通に話せるから。」                 しばらくはこんな押し問答が続き、巨漢も呆れ始めた様だ。それで何かをこの男に言った。そこのところは何を言ったのかは分からない。よく聞こえなかったからだ。だが、するとこの男は笑い出した。巨漢も一緒になり、ゲラゲラと可笑しそうに笑い始めた。まぁ、何か変な事を言ったのだろう。私はハーフで白人の血が強いから、見た目はああでも中身は日本人だとか、本人はそう思っているだとかでも言ったのか?とにかくなんだか分からない。だが私の事をネタにして笑っているのは事実だから、私は横を向いた。二人を見ない様にしながら両手をジーパンのポケットに入れ、踵を軽く上下に上げ下げしながら、もう早くしてくれ、早く終わってくれ、と願った。             するといきなり真近で声をかけられた。タメ口だった。確か、こう言ったと思う。   「ねー、一寸いい?」          一年前の事だから部分的によく覚えていない箇所もあるのだが、確かそんな風な事を言った。私はドキッとした。驚いて顔を向けた。横を向くと、目の前に顔があった。電車内で隣の手すりに掴まっている人間と同じ位の距離感。近い!それでか、思わずこう言ってしまった。                「誰?」                男が返事した。             「小松菜。」(本名では無いが極力近い名前にしてある。)               私は少し酔っていたからこう言った筈だ。 「じゃ、マツコみたい!マツコの兄弟?ほら、いるじゃん、あの凄いデブの、女みたいな格好をした男。」            小松菜は凄く嫌な顔をしたが黙っている。私は続けた。               「じゃ、小松菜なんて言うの?」     返事はない。聞かれたくない様だ。私も黙る。すると、順番は忘れたが、何が起きたのかを聞いたのと、私の名前や生年月日、住所を聞いた。後は誰と住んでいるのかとか仕事だとか。(名前と住所は分かっているのだが一応本人に言わせるのだろう。)      確かこんな感じだった。何か紙を見ながら私の名前を読み、「○○さん?」と聞く。                 「はい。」                そして巨漢と同じ様に何が起きたのか聞き始めた時は、私はさっきと同じ事を話したのだが、私はいつまでも家の周りを歩き回ったりメジャーを持ったりしてしゃがんでいる制服警官に段々とイライラして来た。     「ねー、まだぁ?これいつまでかかるの〜?」                「うん、まだ。被害届け出されちゃったから。」                 「エーッ?!嘘ー!!」        「本当。」               「被害届けー?!」           思わず大声を出した。私のその声に驚いた様だが顔は一応真顔で、色々な表情は出さない様にしてはいる。            とにかく、しばらくはこの男と時間を共有する事になった。そして、何が起きたかを聞かれた時に、確かその日は何をしていたのかも聞かれた。だから買い物をしてから戻ると、酒を飲んでいたと答えた。その時に、何かも少し食べたと言った。すると何の酒をどれ位飲んだのか、何を食べたのかも聞いてきた。私は酎ハイの種類と缶の数、それとチーズとポテトサラダを少し食べたと答えたのだが、何故そんな事までしつこく聞くのかと思った。                  そしてそれから私は調書を作る為に、起きた事について文章を作成しなければいけなくなった。私は呑んでいるからできない、と言ったのだが駄目で、又書けと言ってくる。それで用紙とペンを渡され、私の立っていた位置の真横に駐車してあった車にその用紙を置いて、書く事になった。         「エ〜ッ、できないよー。だってお酒飲んでるのにー。」               私は困ってしまい、ペンを持ちながら用紙を見つめた。すると、「じゃあ言うから書いて。」と小松菜が言った。そして、スラスラと文章を言われ、私はそれを紙に書いていった。                  そうして一通り終わり、調書はできた。その頃には辺りはもうかなり暗くなっていた。何しろ、2時間もいたのだから!そしてあれたげいた警察官も段々と減っていき、半分位になっていた。              小松菜が調書を確認の為に見た。だが暗くて見えないと言う。確かに暗い。もう6時を少し過ぎた位だったと思う。だが、私には見えた。確かに読みづらいが、目を凝らせば読める位の暗さだ。だが小松菜は暗くて読めない、と頑張る。             「じゃ、パトカーの中で見れば?電気付けて。」                  そう提案したが駄目。私がパトカーに乗れないからと。自分だけが見れば良い訳だが、間違えてあるだとか付け足さないといけないだとかだと、又私が書かなければいけないから。そうすると私はパトカーの中に座ってできないからだろう。           「それじゃ、あの警官達の誰かに懐中電灯をかざしてもらったら?」         私は又提案した。そうしたら小松菜は難なく読めるし、又車を台にしながら私も書き直しができるから。だが、又もや却下。    「持ってないから。」          「エッ?!持ってないの?!」      黙っている。            「嘘!!懐中電灯持ってないの?!」   無言だ。信じられない。私は警察官が懐中電灯を持ってないのが信じられなかった。  「持ってないのー?だって、じゃ、もし事件があったらどうするの?夜に何かあったら?相手の顔とか見えないじゃん!」     だが、小松菜は黙ってまっすぐ前を向いている。返事をしない。           「だから、家の中に入れて。そうしたら見えるから。」               「家の中?!駄目だよ。だって此処で見えるじゃん!私は見えるよ。まだそこまで暗くないもん。だったら、そっちだって見える筈だよ?」                 だが小松菜は引かない。どうしても駄目なら、せめて敷地内に入れろと言う。幾ら断っても絶対に駄目だ。本当は、犬達も興奮しているだろうし、中に入れたくないのだが。仕方ない…。               「じゃ、良いよ。」            小松菜は、家に入ってくる事になった。この事から、小松菜の上司の警部にその後直ぐに会う事になる訳だが。この続きは又後程に…。

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