第1話 炎の神に誘われた事と思わぬ人たちの登場 上
処刑場に設置されていた、絞首台と斬首台を解体したアサトらは、解体した木柱らを組み上げ、十字の貼り付け台からベラトリウムの遺体と、他の遺体7体を降ろすと、組み上げた木の上に遺体を置いて火葬を始めた。
辺りは闇を伴ってきていたので、今日は、この遺体らを火葬する事にして、翌日は他の遺体の火葬などをおこない、埋葬をしてから、王都へと向かう事にした。
ここから王都までは、1週間ほどのようである。
案外近いと感じたアサトだったが、遠い目で、王都『キングス・ルフェルス』の方角を見つめているセナスティには、遠くに感じているように感じたアサトは、言葉をかける事も出来ずに、ただ見つめているだけであった。
言葉が見つからないのは当然の事であり、王都へ向かう言葉を発したが…、それからどうするかは考えて無かった。
衝動的ではないが、タイロンの言葉を思い出している。
『人を殺す事になるぞ…』
その意味は……。
馬車を敷地内の移動を終わらせたタイロンが、火葬が行われている処刑場に現れると、セラと話を始め、馬車をイモゴリラに監視をさせるような会話をしているのが聞こえてきており、ほかに、この火葬の現場を、ソンゴに任せるとクラウトが言っていた。
セラには、一度に2体…いや、3体の召喚は過酷かもしれないが、修行の一環であると思えば、少しはいいのではないだろうかと言う事であり、セラも承諾していたようだ。
イモゴリラが処刑場を後にする頃には、とっぷり陽も落ち、火葬をしている炎も勢いが薄れ始め、そのタイミングで、夕食の準備をアリッサとシスティが、建物内の食堂で行うと移動をして、残ったアサトらは煌々と燃える炎を見ている。
その炎を見ていたアサトに…、何かが見えた。
…なんだろう…。
炎の向こうには、真っ白になり始めている大地を歩む姿が見え、その姿は…、朽ち果てた体を持っている。
透き通るような蒼い目に血色の無い肌、そして…、生気を感じない姿は、骨も見えるような姿のモノや、ほとんど骨の姿のモノ、また、干乾びた肌を持つミイラのようなモノもいれば、しっかりとした肉体だが、目の上を剣で突かれたのであろう、刺された傷を持つモノの姿もあり、様々な容姿の者らの行進が見え、その行進は、今はまだ数千人ほどであろうかと言うほどの数であったが、考えて見れば、多い数である。
その集団の中に、ランダムに馬に乗っている者らの姿があり、手にしているのは氷で出来ているような、薄い水色でつららのような剣先を持つ槍を手にしている青い瞳のモノ、髪は真っ白であり長い、と言っても肩程だが…、ほかにも馬に乗っているモノが見受けられ、白い髭の者や短い髪のモノ、そして…、ひと際目立つように進むモノは、そのようなモノらに囲まれ、頭には薄い水色の角の様なものが数本生え、頬はこけているが、エラの様な窪んだ場所が見受けられ、肌は蒼に近く、黒い血管のようなものが見受けられていた。
どこから見ても、この者が……。
「アサト!」
急に肩に手を当てられた事で、正気に返ったアサトは声の方を見た。
そこには、タイロンが目を細めてアサトを見ており、その後ろでクラウトがメガネのブリッジを上げ、セラとケイティは、不思議そうな表情で伺い、その傍でジェンスはニカニカしながら見ていて、セナスティとビッグベアは目を細めていた。
「なにぼうっとしているんだ、行くぞ!」
タイロンの言葉に小さく俯くと、燃え盛る炎へと視線を向けたが、何も見えない。
…さっきのは?
「どうした?」
クラウトの言葉に、視線を向けたアサトは小さく笑みを見せた。
「…気のせいだと思います。今…炎の中に何かが見えたような…」
「ナニかって?」とタイロン。
「…そうですね…死人の行列に…、青い目のモノ…そして…雪ですね…」
「雪?」
「…なんでしょうか…、そうですね。気のせいだと思いますけど…」
タイロンの言葉に返しながら、小さく笑みを浮かべてタイロンを見たアサトを、メガネのブリッジを上げてクラウトが冷ややかな視線で見ている。
その視線に合わせたアサトは、小さく首を傾げて見せた。
「まぁ~、はっきり見えていたみたいだから、何かあるんだろう。覚えておけばいい!」
「え?」
タイロンの言葉に視線を向けた。
「雪に死人…そして、青い目と言う事は、はっきり見えていたって事だろう、なら、何かがあるんだろうよ。”とりあえず”な」
その言葉に小さく俯いたアサト。
そのそばにジェンスが寄って来る。
「待っている子って…死人かぁ?」
ニカニカしながら言うと、大きな笑い声をあげながら建物へと進み出して行き、その後をケイティとセラがついて行く、その動きは周りの者らも入れ始めると、その場にクラウトとアサトだけが残った。
「…火の神に誘われたのか…」
クラウトは小さな声で発しながら目を閉じ、少し考えてから瞳を開けた。
「火の神?」
「あぁ、アルベルトとポドリアンさんの会話を聞いていた」
「そう言えば…」
…そう言えば、宴の席で、アルベルトとポドリアンが、意味深な会話をしていた事を思い出した。
『クレアシアン』討伐戦が終わった夜の事である。
***************
広場を照らしていた篝火を黙って見ていたアルベルトに、ポドリアンが話しかけていた。
「火の中に何か見えるのか?」…と、その言葉に、「死人が侵攻している、まだ…多くは無いが…見える」
アルベルトが答え、その言葉を聞いたポドリアンは目を細めて、「お前は、火の神に誘われたな…」と言っていたが…。
***************
「クラウトさんも聞いていたんですか?」
「あぁ…、近くにいたんだ。アルベルトも炎を見ていた。そして死人が進行していると…」
「火の神に誘われた…ですか」
「もしかしたら…、『夜の王』」
「…『夜の王』?」
「僕は見ていないが、青い目…」
「青い肌に角が生えていて、蒼白い肌に…」
「…それが何であれ、アルベルトと同じものを見たのなら…、誘われたと言う事だと思う。」
クラウトの言葉に小さく俯いたアサトであった。
見たモノらが夜の王の軍団であり、馬に乗っているのが家臣、そして…角の生えたモノが夜の王…なのであろうか、季節は冬であり、辺りは雪が覆い始めていた。
そして…そこには……。
「おぉ~~い、大変だ!」
2階からジェンスが叫んでおり、その方向を見るアサトとクラウト。
「ケイティがご乱心だ!ってか、誰かが飯を作ってくれているぞ!ってか、だれかいるぞ!」
…って、その言葉…、どんな順番なの……。
ジェンスの言葉に顔を見合わせた2人は、建物へと進み出した。
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