第五話 戦争終結
しかしいくら待っても痛みも何もなかった。それで目を開けると、兵士たちが倒れ、車体の下に落ちていった。
何が起きたのかわからないまま、ルシルはリコットの元に飛び出した。
「リコット、しっかりして! 死んじゃダメ!」
ううっと顔をしかめ、上体を起こす。迷彩服の腹に幾つか打たれた跡があったが、出血はしていなかった。
リコットがそこに手を入れる。取り出したのはずっと前に女性にもらった子供用の黄色いサンダルだった。そこに数発、弾がめり込んでいた。ちょうど重なったサンダルに命中したのだ。
「これは……奇蹟、だわ」
「あの女の人の想いのようなものが、わたしを守ってくれたんでしょうか」
二人で顔を見合せ、そして安堵と感謝の笑みを浮かべた。
「あれ! 同胞団だよ! ほら!」
シエラが搭乗口から身を乗り出し指差した。ルシル、リコットもそれに倣う。シエラが指した先に赤い土煙を上げて数台のトラックが走ってくるのが見えた。
見知ったトラックだった。同胞団の中継基地に置いてあったものだ。
おーい、と手を振るとトラックの運転席からもそれに応えた。
「君たち、大丈夫か?」
トラックに乗っていたのはカリムだった。ほかにも数名が降りてきた。それぞれが武装している。兵士を撃ったのは彼らだろう。
「どうしてここへ?」
「リスタルに侵攻するテラリスの軍を見張っていたら、ビルド・ワーカーが一台、走っていくのが見えたんだ。その方向をみるとどうやら君たちの後を追っているみたいでね。どうするか迷ったが……そのままにも出来なくて、私たちだけで助けに来たってわけだ。もっとも君たちのビルド・ワーカーが破壊されていれば我々にはどうすることも出来なかった。運が良かったな」
「おかげで命拾いしました! ありがとうございます!」
いやいや、と彼は手を振った。
「もっと良い知らせがあるぞ。たった今、入ってきた。戦争が終結した」
えっ? とルシルたちは顔を見合わせた。
「どれはどういう……」
「リスタルが陥落した。あっという間だったよ。街は周囲にバリケードをしていたんだが、ビルド・ワーカーで突っ込んで、後はアンダー・コマンドが制圧。テラリスは直ぐに戦争終結の宣言を出した」
「早すぎない?」
ルシルが言うと、カリムも頷いた。
「筋書き通りってところだろうな。陣頭指揮をとったのは荒鷲隊のユベール・ブロフだ。流石に手早い。しかしこれでもう、アンダー・コマンドにも戦争にも怯えることはなくなった」
そう言って彼は笑った。
「クロア! みんな、クロアが!」
彼女はウォール・バンガーの
引き出され担架で運ばれる彼女の意識は朦朧としていた。
「どう、なりましたの……」
「君がビルド・ワーカーを倒したんだ! 同胞団も助けに来てくれたよ!」
シエラが興奮して言うと、クロアは傷のせいかそれとも大声のせいか、顔を顰めた。そして、そうですの……と言って意識を失った。
「大丈夫、命に別状はない。帰って治療するから、このままゆっくり休めばいい」
彼らはそう言ってクロアをトラックへと優しく運んだ。
「君たちはどうする? このままハルミドに向かうかね? 我々は一度帰るが。ハルミドまではまだだいぶある。歩くとなるとけっこうきついぞ」
ウォール・バンガーが動かせれば、ルシルが見上げると、突然、ガガッと車体が振動した。搭乗口からリコットが顔を出す。
「電気系統がショートしていました! 動かすだけなら大丈夫!」
ルシルは考えた。このままハルミドに向かってもいいだろうが、またいつ止まるとも知れないウォール・バンガーをちゃんと修理したい。今から歩いていくのは大変だしクロアのことも心配だ。
「ねえ、一度、みんなで同胞団の基地に戻らない? そこで少し休んで、落ち着いたら改めてハルミドに出発するの。もちろん全員でね」
その提案に、リコットもシエラも頷いた。それを見てローエもうんうんと首を縦に振った。
「もしそのビルド・ワーカーがダメでも、君たちが乗っていい車を何か用意するよ。焦らずに基地で休んだらいい」
カリムの言葉にルシルたちは甘えることにした。どうにか動くウォール・バンガーをトラックに牽引してもらいながら、ルシルたちは基地に向かった。
戦って生き残り、そして戦争も終わった。なかなか実感出来ないそれを、ゆっくりと噛みしめながら。
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