GOD BLESS YOU
@morokey
第1話 第1部 Ep.1 ホープレスー統合暦2006年6月
「ヒトガタはあと、人間が先だ!」
鳴り続く砲弾の地響きでビリビリと震える地下壕の中を傷ついた兵士達を乗せた担架が行き来していく。
体温は低下、網膜に表示されたバイタルデータはあちこちの箇所の損傷を通知、全てが活動限界に来ていることを私に伝える。
ヒトガタ。私達アンドロイドの総称。
人の姿を模した労働力として生み出された我々が、戦争の道具として使われるのにそんなに時間を要さなかった。
私の名前はERI-0371、通称「エリー」。
もともと家庭用として製造された少女型ヒトガタ。戦局の悪化から戦時徴用された。
我々のような戦時徴用された少年少女の姿をしたヒトガタは、その姿から「少年兵ヒトガタ」と呼ばれた。
特にこれといった戦闘能力は有さず、簡易的なOSの書き換えと基本教練のみで戦闘に投入される、所詮はオモチャの兵隊だった。
数時間前、敵の猛攻により私達のいた部隊は壊滅的な打撃を受けた。混乱する指揮系統のさなか、戦力の集中のため前線基地まで撤退してきたのだ。
部隊の死傷者は多数、ヒトガタに至っては損傷していない者はほぼいない。皆応急修理が必要だ。
人間の負傷者の手当てが優先され、我々ヒトガタの修理は後回しにされている。
ヒトガタをメンテナンスできる人員も払底しているらしい。現在応急修理を受けられるのは正規のヒトガタのみ。
私達のような少年兵ヒトガタにはメンテナンスが回してもらえないらしい。
少年兵ヒトガタ同士、動ける者は作戦前に支給された応急パックで互いに応急修理をしあう。
破損箇所に人工血液止血ジェルを塗り、濃縮型人工血液を注入する。
隣で片腕を欠損し顎を撃ち抜かれた少年兵ヒトガタがうずくまってガタガタ震えている。
オートバランサーの不調からの震えであるが、これは恐れからであることを私は知っている。
彼の破損箇所に余ったジェルを塗る。私にできることはそれぐらいだ。
「オイヒトガタども!まだ戦えるだろう!銃を持って持って応戦しろ!戦線をを維持するんだ!」
煤で汚れた顔の人間の兵士が怒鳴る。
弾薬箱からマガジンを掴みポーチに捻じ込み、基地の外縁へ向かう。
押し寄せる敵はライフルで狙えるぐらいには近い。
味方の多脚型ドローンとともに、押し寄せる敵に銃撃を加える。
そんなドローンの装甲を、我々がいるバリケードを銃弾が削っていく。
照準補助装置のレティクルがガタつく。右腕が反動を抑えられない。先の戦闘での破損の影響が出ている
狙えなくても弾をバラ蒔けさえすればいい。
被弾してバラバラにならなければ生き残ることができる。
ドローンと仲間のヒトガタと共に銃弾で抵抗するー
私の近くで砲弾が炸裂する。
私はドローンと共に吹き飛ばされ、瓦礫に頭を打ち付ける
ー システムエラー
…
……OS自己修復プログラム起動。
………損傷甚大、セーフモードで再起動
「おい、起きろ!」
ー 聴覚システム再起動。
音質は良くない
私はゆっくり目を開ける。
ー 視覚システム再起動。
ノイズ混じりで視界が半分。セーフモードのため網膜情報は白黒で表示されている。
「良かった、まだこの個体は動くぞ」
ーバイタルコンディションをチェック、
あちこちの箇所が破損。
特に酷いのは右腕。肘から先が欠損。
その他の箇所も前の戦闘からのダメージが蓄積している。
私は砲弾で吹き飛ばされてからシステムダウンしていたらしい。
砲声は止んでいる。戦闘は終わったらしい。
周りに見えるは敵味方の死体、大破したヒトガタの残骸。
私の横には一緒に戦ったドローンが脚部を失い擱座していた。
ボディは半分以上が吹き飛び、黒煙を上ている。ひしゃげた機関砲は二度と火を噴くことはないことを告げている。
傷ついた味方の兵士達は人間もヒトガタもうなだれ、ある者は苦悶の呻きをあげ、ある者は震えていた。
私は立ち上がろうと身体を起こす。
ーエラー。歩行システムに甚大な損傷あり。
「無理をするな。回収班が来るまで待て。」
先の兵士は私に言う。
ようやく私は戦わなくて良くなった、ということか。
いや、修理されたらまた戦場に放り込まれるだろう。
震える左手で右腕を押さえる。
人間は戦いが終われば帰る家がある。
だが、徴用された私達ヒトガタはどうなる?
帰るところがあるのだろうか?
それはー
それを表す適切な言葉があるとすれば、
それは「不公平」だ。
徴用前に私が働いていた家の子供のメモリーを検索する。
徴用時のOSの書き換えで顔の情報は削除されている。思い出すことは出来ないが、あの子はちゃんと生きているだろうか…?
そんなことを考えながら、私はやがて休止モードへ移行する。
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