α-3. ガンマの考察


 恋と愛は違うもの。

 そんなことを言われたことがあると思う。

 誰しも、人生についてそれなりに考えたことのある年齢の、現代日本で育った人たちならば。

 英語では一括して『LOVE』って訳されるけれど、日本語では別物として扱われる、『恋』と『愛』。違う単語なら、使いどころも自然と変わってくる。使いどころが変われば、意味合いが違ってくる。……なんてことを、わたしが意識し始めたのは、いつくらいからだったんだろう。当たり前だけど、覚えていない。

 でも、覚えていることもある。

 問いかけたところで、言葉と一緒にお茶を濁されたり混合液のようにあいまいな解説をされがちな、その『違い』について、唯一なんとなくでも理解できる返答をしてくれた人のこと。彼は、わたしにとってなじみの深い頼りになる人生の先輩であり、知人の中でも類まれなる変な人だった。

 当時の説明をほぼそのまま引用すれば、こんな感じだ。

 ――例えば君に好きな人がいるとして、例えばここにケーキがあるとしよう。別に好いてる相手は誰でもいいし、用意するのはケーキでなくてもいい。相手の好物で、君も欲しいようなものならね。さて、このケーキを全て相手にあげたい、捧げたいと思うのなら、それは恋心だ。あるいは、このケーキを相手と一緒に食べたい、分かち合いたいと思うのなら、それが愛情だ。……で、これは君からの愛情なわけだよ――

 縷々纏綿とそうほざいて、勝手にわたしのレアチーズケーキに手をかけた。止める間もなくつまんでいった。なのに、その人は自分のチョコレートケーキを独り占めしていたので、悔しくて今も記憶に残ってる。

 食べ物の恨みは恐ろしいのだ。

 まぁ、それはおいとこ。

 うん。

 そして彼は、こんな風に続けた。

 ――全て捧げたい。そう、恋は盲目、ともいうよね。しかし逆にこう定義するべきかもしれないな。すなわち、『信じて疑わない』ことが『恋』だと。それなら、『信じつつも疑う』こと、そのバランスを見極めることこそが『愛』だね。『疑いつつも信じる』の方がわかりやすいかな。ついでに、恋の逆……『疑って信じない』ことが『憎しみ』だ。もちろん、『信じず、疑いもしない』、『愛』の反対は『無関心』さ――

 なんて。よくぺらぺらと考え付くと思う。

 ある意味、自分なりの考察をきちんと言葉にしてくれる、貴重な人だ。

 他人の哲学を我が物顔で論ずるつもりはさらさらないが、その人との対話は、わたしに今も大きな影響を残していると思う。それが役立つことであれ、そうでもないことであれ、いろいろなことを訊いて、たくさんのことを教えてもらったのだから。

 懐かしくもある。

 恥ずかしくて、今はもう、そんなに腹を割って話せないものね。

 そもそも、その人だってもはや暇な人間ではないし、出会う機会自体が少なくなってしまっていた。だから、かれこれ二年か三年ぶりになるのかな……などと思いながら、今のわたしはバスに揺られている。

 今日は、日曜日。

 ショッピングにβと行くはずだった、日曜日。

「……兄ちゃん、大丈夫だよね」

 当のβは隣で、不安そうにつぶやいた。

「うん……、きっと大丈夫だよ」

 あまり根拠もないけれど、わたしはそうやって応える。

 彼女の不安そうな顔を前にしたら、それ以外言えない。

 βのお兄さん。

 アルファ、ベータ、と来たので、ガンマにしておこうかな……γさんこそが、さっきまで考えていた『その人』だ。ぱっと見はカッコ良かったり、でも実はなれなれしかったり、突飛な行動をしたり、妙に鋭かったりと。独特の雰囲気を持った、変わった人。βを通して、わたしも結構お世話になった。

 これから、久しぶりにγさんと会う。

 どうして急にそんなことになったかというと、さっきβと合流して間もないくらいに、電話があったのだ。なんとγさんが事故にあって、病院へ運ばれたという。ご両親はご用事で遠出しちゃってるそうなので、とりあえずβが病院へ向かうことになったわけだ。

 それにわたしも同行することにした。

 βに頼まれたからでもあるけど、わたし自身の意志でもある。

 γさんも心配だし、βの隣に居てあげたかった。

「大丈夫だよ」

 わたしはもう一度言う。

「あんなに飄々としてる人もいないよ。きっと、ケロリとしてるに違いないって」

「そう……だよね。兄ちゃんだもんね。映画だと、生き残る必然性もないのに何か生き残っちゃってて、やけに人気取っちゃうタイプのキャラしてるもんね」

「うん。それでしかも、いい感じの台詞言っちゃいそうだね」

「そうそう、お前がそれを言っちゃうのかよ、みたいな」

「あはは」

「……ふふ」

 酷い話をしてる気もするけれど、βがやっと、形だけでも笑ってくれた。

 空元気も元気だね。

 ちょっと落ち着いた様子のβを横目に、また少し、γさんのことを思う。会ったところで、どう接すればいいだろう。どんなことを話そうかな……。数年では、あまり人となりに変化はないだろうか。うーん……他にどんなことを言ってたっけ。まだ続きがあったような気がするけれど。

「…………」

 思い出してきた。

 ――しかし、そうするとどうなんだろうね。『疑って信じない』……憎しみは当然一種の狂気だが、裏にあって対となる、恋……『信じて疑わない』ことも、十分狂気だ。狂気は妄想を呼び、自分勝手に膨らんでゆく。が、やがては外気にさらされ正気に負ける。妄想は覚め、リバウンドが起きる。つまり破局さ。狂気であり妄想の動力源である恋は、最終的に残らず破局する。狂信者の最後は死というわけだ。結婚は人生の墓場、とかなんとか言っちゃったりして、要は結婚なんて妄想じゃなくてただの現実ってことだよね。恋の延長線上に存在するものではない、ただの日常だよ。子を産み子孫を残すのは、生物として正常な現象だが、恋は違うな。犬や猫、鳥や魚になったことがないから断言はしかねるけど、おそらく人間特有のもの。人の編み出した娯楽の一つだよ。映画を見たり絵を描いたりするのと同じ、趣味の領域さ。ゆめゆめ忘れちゃいけないこととして、恋をする必要なんかないと知っておいて欲しいものだね。恋などせずとも、日々は営めるのだから。なぁに、映画ファンは他人に自分の好きな名作を勧めるものだろう。かといって観る必要などない。風潮に騙され流されないようにしたまえ――

「……はぁ」

「どしたの、α」

「ううん、よくしゃべる人だったな、って」

「兄ちゃん?」

「そう。そこは変わりなく?」

「あー、変わってないね。相変わらずイミフなことを、べらべらと立て板に水だよ」

「そっか……」

「全く、どっからあの血筋が……って」

 顔を上げるβ。

 つられてバスの表示に目をやると、そろそろ到着しそうだった。

 バスが速度を下げ、敷地内に入り、やがて止まり、病院に着く。日常に近しいようで遠い場所。中でもここは、総合病院――多くの専門家と患者が集まり、不健康をただす空間だ。健康体のわたしは、そんなにお世話になったことがない。

 中に入ると。

 独特の空気がβとわたしを迎えた。

 消毒液のにおい……とまでは断言できないけれど、慣れない香りが鼻を突き、不思議な気持ちにさせられる。普段は外来の方々が多くいらっしゃるのだろうけれど、今日は日曜日。わたしたちのような、お見舞いの人以外はほとんど見当たらない。

 γさんのお部屋を目指す。

 ほどなくして病室の前へ。

 二人で少し顔を見合わせ、

 戸を開く。

 はたして、

 γさんは。

「ん――おやおや、やあやあ、よく来てくれたね」

 にこやかに、

「残念ながら嬉しさを全身で表現するには、万全とはいえない状態だけれどね」

 わたしたちを迎え、

「俺の誇るべき妹のβに、それとそっちはαクンじゃないか。お久しぶり、懐かしいよ。いやぁ大きくなったねぇ――などと親戚オジサンっぽい台詞を吐くようなことはしないし、実際年齢的に、最後に会ったときからそれほど身長は伸びてはいないだろうけれども。うん。こうしてみるに雰囲気が大人っぽくなってるな」

 返答を待たずに、

「個人として完成されつつあるという意味だよ。大人と子供との区別については、歌にされるくらい散々議論されている題材だろうけれど、こと俺に限って言わせてもらうのなら『人格の完成』――それをこそ指して、判別の指標とさせてもらってるよ。ただし、『人格の完成』と『完成された人』とはまた意味が違う。だがここではさて置こう。そう、自らを個人と見做し、また見做されるようになれば、自然と権限と責任が伴うようになる――ゆえに大人というわけさ。誰もが納得な基準だとは思うが、殊更広めようとまでは思わない。個人的な思想だからね。沈黙する権限に、口にした場合の責任、つまり俺は己を大人だと自覚しているという結論だよ。ところで」

 つらつらと話しきり、

「そこに椅子があるから、取り出して座ったらどうだい?」

 そう、くくった。

 確かに相変わらずのγさんのようだった。適度に切りそろえられた髪に、涼しげな、少し浮世離れした雰囲気。相手が女性でも気取って『~クン』と呼ぶ、そんな人。口をはさむ暇もなく、さりとて早口でもなく、滑らかに言いたいことを言ってのける。いつだって、あっという間に彼は自分のペースに他人を巻き込んでしまうのだ。

 包帯やらの治療跡が見られたけど、顔色は悪くない。

「はぁ、もう」

 βはその様子に安堵したのか、呆れたように肩を落とす。

「なんだ……元気じゃん、兄ちゃん」

「ふぅん、心配してくれてたのかい」

「え、いやっ…………当たり前だろ」

 唇をとがらせて、βは言う。

 可愛らしいそのしぐさに、γさんは大きく笑った。

「はっはっは、悪いねぇ。バイクで走行してたら、服を引っかけてしまったようでね。身勝手にも転倒事故さ。身体をちょっと強めに打ってしまったものの、なぁに、そうかからずに治癒する程度だそうだよ。多少の混乱は生んだが、被害をこうむったのも俺だけだったみたいだし、運が良かったね――もとい、不幸中の幸いが正しいか。いやいやそもそも、運のせいにしてはいけないね。運が良かったとて、注意を怠ったのは間違いなく悪い行いだろうからな。ま、心配をかけた身で言える事柄ではないかもしれないが、安心してくれ。君の兄貴は健在だ」

「ったくもう、確かに舌は全快みたいね」

「おう」

 わたしはやり取りの間に、椅子を出しておいた。βと一緒に、γさんの傍らに座る。

「でも、大事に至らなくて良かったです。γさん」

「本当だよ。ひとまずはそれを素直に喜びたいね」

「原チャリは気をつけろって、みんなに言われてるでしょー」

「返す言葉もないよ。しかし、αクンと一緒に来てくれたということは、二人でどこか出かけてるところだったんだろう。水を差してしまったかな」

「ああ、いえ……ただのショッピングでしたし……ね、β?」

「む……そうだね。兄ちゃん、今度何か埋め合わせしてよね。家に戻ったときでいいからさ」

「承知したよ」

 そういえば、γさんはもうβと同じ家には住んでなかったんだっけ。今は……一人暮らし、でもなかったのだか。何かのベンチャー企業をご友人と建てたとかで、シェアルームでの生活をしているとか聞いたことがある。

 って、それは。

 余裕ありそうな顔してるけれど、大変な状況なんじゃないのかな。

「おや?」

 顔に出ちゃってたのか、γさんがわたしの方を向く。鋭い人だ。

「あ、えっと……お仕事の方は問題がないのかな、と」

「ああ、大丈夫。会社の方は、今ならしばらく俺が抜けてもね。連絡はしておいたし、軌道にも徐々に乗っかってきてるからな。少しは圧迫をかけてしまうだろうけど、それで取り返しがつかなくなるほど脆い状況じゃないさ。――がしかし、だ。ふふん、今回の事故は何から何まで俺の過失だな。格好悪いことこの上ない。ただで起き上がっては、ほうぼうに申し開きが立たないねぇ」

「兄ちゃん、ここんところ働きづめなんじゃないの? 休めってことでしょ」

「それは神様からのお達しかな。まぁ、そうかもしれないけれどね」

 γさんは苦笑した。

「そうだβ。貸してあげた本は読んだかい?」

「あのDNAがどうたらってやつ? ううん、まだあんまり……」

「ぜひとも読んでおくべきだよ、あれは。導入が冗長ならすっ飛ばしてしまえ。面白いところはどうせそこじゃない」

 などと。

 そのまま雑談が始まる。仲の良い兄妹で、見ていて微笑ましいと思う。わたしは一人っ子だから、お兄ちゃんのいるβが羨ましかったなぁ。と、幼いころの懐かしい記憶に浸る。ぽわぽわと。

 二人の様子を眺めていたら。

「αクンは、最近の調子はどうだい?」

 γさんが話を振ってくれた。

「ええと……ぼ、ぼちぼちです」

「ぼちぼちか。ぼちぼちという言葉の意味は知っている?」

「はぁ……」

 そういえば知らない。

「まぁ、調べればすぐわかることだけれどもね。物事の進みが緩やかであることを示すらしいよ。儲かりまっか、ぼちぼちでんなって、つまりはこの間と大して変わりはなく、かといって停滞しているわけでもないってことなんだろうね。おそらく順調であろうといったところさ。由来はなんだろう、それは僕も知らないな。擬音のようにも思えるが、何から着想を得たんだろうか」

「へぇ……」

 意味も知らなかったのに、由来を知ってるわけがないので、相槌だけを打つ。

 知らないままで言葉は使ってるものなんだなぁ。

「そもそも、変化は大抵の場合緩やかなものだよね。劇的な変化は劇的ゆえに、直面することが少ないという事実も含め、緩やかな変化の方こそがメジャーだ。あるいは劇的に見えたとて、それはあくまで弓のしなりのような長い蓄積がもたらした、最終的な瞬間でしかなかったりもするからな。そこへ至るまで力を加え続けるのが困難であると、よく説かれたりするわけだね。弛まぬ努力。素晴らしい」

「…………」

「兄ちゃん、αが反応に困ってるよー」

「おや、すまない」

「あぅ、いぇ、そんな、そういうわけじゃないんですけれど、面白いお話だと思います」

「ふふ、相変わらず優しいね。確かに不必要なほど遠まわしになってしまったしな。ふむ――要は、俺のまだそう長いとは主張しづらい人生経験においてでも感じたこととして、緩急にかかわらず変化は受け身で享受すべきではない、ということを言いたかったんだ」

 γさんは一端言葉を切った。

 βは少し首を傾げながらも、聞き流しているみたい。

 間を繋ぐようにわたしが訊いた。

「……待つばかりじゃダメとか、そんなことですか?」

「うんうん。至極わかりやすく端的に言ってしまえば、そうだ」

 理解を得たとばかりに、頷かれる。

「人にとって価値のある幸福は、充実だというのが俺の持論なんだが。すると、待っているだけでたまたま状況が進展し幸福を得たなんてのは、宝くじに当たったようなもので、充実がそこになく、価値ある幸福ではない。――いや、実際宝くじを当てようとするなら、結構な労苦があると思うけれどさ。あれはちょろっと買って当たるような、温い確率じゃないから。幸運は幸福とは限らないってところだね。ま、つまるところ、然るべき代価を支払わずに得た幸福には、中身がない。無論、『機を待つ』のは人生必要だろうけれど……人事尽くして天命を待つ、のでもなければ、施してもらおうなどと甘い考え方はなるべくしないべきだ。どうせそうして得た施しに、大した価値を後から感じることは難しい。なおさら、もとよりそれなりに恵まれている俺たちなんかはね」

「自分から動けと」

「うんうん」

 一言で済むじゃん。心の中で突っ込み。

 βはやれやれと首を振った。

「はーぁ……長々と。何が言いたいのかと思えば」

「いや、久しぶりに会ったからさ。年長者ぶって説教じみたことを言ってみたくなったんだよ。ためにならなかったかな」

「兄ちゃんの話が役に立ったことはほとんどないよ」

 γさんはおどけるように肩をすくめて応じる。そんなジェスチャが、この人にはよく似合うのだ。振る舞いを恰好よく見せるコツってあるのかなぁ。取り留めもなくそんな風に考えていたら、隣でβが「あ」と、席を立った。

「そろそろ、帰った方がいいかな」

「いや、面会時間はまだまだ平気だと思うよ」

「兄ちゃんと話してると疲れるんだよ。もとい、ちゃんと養生して治せって言ってるの。大事に至らなくて良かったけどさ。ただでさえ、父さんや母さんに心配かけてるんだから」

 椅子をかたすβにたしなめられ、両手のひらを見せるようにするγさん。

「なるほどね。気遣いがありがたいや。それじゃ二人とも、帰り道には気を付けてほしいと心底願うよ」

「今の兄ちゃんに言われると真実味があるよ。またね」

「またです、γさん」

「おう」

 わたしたちは気楽に挨拶をして、病室を出た。

 そのままゆるゆる帰路に着く。

「元気そうで良かったね、γさん」

「ほんっとだよー、もーぉ」

「ぷ」

 大げさに天を仰ぐようなβがおかしくて、わたしは吹き出してしまった。それから、ふと気になったことを訊いてみる。

「γさんって……彼女とかいるの?」

「兄ちゃんに? あー……いると思うよ、まだ、多分」

「へぇ……」

 恋は人生に必要ない、と言っていたγさんにも、彼女はいるんだ。

 ……そっか。

「何? 意外? だよねぇー。ウチも初めて聞いた時は驚いちゃったもん」

「えっ、うんと……いや、その人はお見舞いに来てないのかな、って」

「ああ。どうだろ……会社に連絡入れてないってことはないだろうから――と、あの会社興したメンバの一人らしいんだけどね、その人――だから、知らないってことはないと思うけれど……。でも。うん……」

 ぶつぶつ言いながら、腕を組んでしまうβ。

「う、うん?」

「んやー、会ったことあるんだけど、あの人も不思議な人だったから……。そういう意味で、兄ちゃんとは相性良さそうだったんだけどさー。一般のジョーギで測らない方がいいかな、って」

「不思議な人かぁ」

「うん。印象とか雰囲気とか話し方とか、全体的にふわふわってしてるんだけど、天然って感じなんだけど。だけどだけど、話す内容はすごく的確で、論理的で、シンプルな……なんていうか、芯だけえぐり抜くみたいな。きっと、やたら頭いいんだろうね、匂わせないだけで」

「あはは、確かにγさんと相性良さそう」

「でしょー。だから多分、兄ちゃんが少し抜ける分の対応とかをみんなで決めた上で、報告兼ねて来るんじゃないかなぁ。冷静に効率とか考えると」

「なるほどね。そっちの方がγさんも安心できそうだしね」

「そそ」

 話を聞いていると、情に薄い人というより、相手にとってどうしてあげると良いのかを考えられる人のようだ。他人の意図を察するのが得意で思慮深い、けれど煙に巻くような態度のγさんと、お似合いな感じ。

 会ってみたいなぁ。

 その人についておしゃべりしてるうちに、バス停に着いた。次のバスが来るまで、十分ほど時間があるみたい。ベンチに腰かけて待つことにした。

「これからどうしようか、β」

「うん? うーん」

「これからショッピングに戻るのも時間的に厳しいし、今日は諦めた方がいいかな、って思うけれど」

「む~、そう、だね。うん……ま、折角だから、どこかでお茶してかない?」

「いいね。そうしよ」

「やった」

 βが嬉しそうに、両手を上げた。それを見て、わたしも笑う。

 可愛いその笑顔が大好きなのだ。

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