斬龍刀の煌めき
「でも、距離が…」
機械仕掛けの少年、イースは背中のコードを持って言う。
外装蓄電池のない今、電源コードが彼の動きを制限していた。
オリヴィアは少年に歩み寄ると耳元で囁く。
「できる方法を考えて…」
いつもはへの字に曲がっているオリヴィアの口も、この少年剣士と一緒にいると、広角が自然とあがり、唇も艶めく。そして、つり上がった目も大きく見開かれ可愛げを帯びるのであった。
「お姉さま、電力は十分にありますでしょうか」
イースが尋ねる。
「あなたひとりが立ち回るくらいには十分」
とオリヴィア。
「では、超電導キャパシタを使って、こうしましょう」
ドラゴンでさえ斬るという巨大な刀をイースは構える。そして、魔王めがけて駆けていった。電源コードが伸びきる寸前、コードを背中のコネクタから排除し、さらに踏み込んだ。
「くらえ、ただの投擲!」
イースは叫びながら、斬龍刀を力まかせに投げつける。
魔王は肩から腰にかけて真っ二つになった。貫通した斬龍刀は勢いを失い、ワイズマン家の庭に落ちる。
一方、刀を投げたイースは体内にわずかだけ残った電気を頼みに電源コードをつかみ、再び背中のコネクタに接続するーー寸前で動きを止めていた。
「あらあら、世話が焼ける子ほど可愛いとはこのことかしら」
オリヴィアは言い、手ずから電源コードを一押しする。
「うまくいきました。お姉さま」
イースは言い、オリヴィアは無言で頷いた。機械仕掛けの少年は自分の身体が動かなかった時間があったことに気づいていないようだった。
「こんだけのダメージをくらえば魔王ももう動けないだろうぜ」
ガストンのその言葉は口にした次の瞬間に裏切られた。
魔王の上半身は背中の翼で王都をめざして飛んでいく。そして、下半身ははらわたを溢れさせながら、町の中心部めがけて走っていく。そして倒れたとたんに爆発し、火柱をあげた。
「クソっ、ただでは倒れねえとは、やっぱり魔王だ」
言ったあと、ガストンは口のなかに入った埃を唾といっしょに吐き捨てる。
「だから、そういうのやめてって言ってるでしょ、おじさん」
「雇われ人の分際で何てことを」
ソフィアとメイドが抗議するなか、オリヴィアだけは飛び去っていく魔王の上半身を見ていた。
「追撃いたしますわよ」
オリヴィアがつぶやく。
「オレはいいがよ。こっからは別料金だぜ。前払いでたのむ」
ガストンは言い、オリヴィアはふっと笑った。
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