欲望の町
昨日まで女魔王イブリータの襲撃をおそれ息を潜めていた町は、朝の光とともに再び蠢き始めていた。
冒険者の集う場所は欲望で動いている。この「墓守りの町」も例外ではない。その証拠に、街中が俄かづくりの看板で溢れていた。
欲望を煽る文言の数々。曰く。
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冒険者の懐にある報奨金をあてこんで書き殴られた看板の数々。そして手ぐすねひいて待っている店主たちの張り切った笑顔。
「おかえりなさい! お疲れ様です。今日は特別サービス実施してますよ、どうぞ、どうぞ!」
ことばに引かれるようにガストンはテントを張った飲食店のひとつに近づき、簡素な椅子に座り込んだ。
「すまねえが、もう膝が限界だ。今朝はここで飯ってことにしてくれないか」
言うガストンの顔が青い。日に焼けた肌が血色の悪さと相まって、青黒かった。
「年寄りがムリしすぎなのよ!」
ララノアが言う。
「同い年のお前にゃ言われたかないね…」
ガストンにはまだ虚勢を張れる元気は残ってはいた。
ガストンは白猫を撫でてやった。
「回復魔道士呼んできれくれ。文無しガストンの依頼だが、今日は金持ってるって」
ガストンにそう言われたララノアは少し困った顔をしていた。
「なんだ、今日、なんかあんのか?」
ガストンが尋ねる。その顔に影がさした。
「あるよ! 今日、回復魔法が使えて暇してるのは、あたしとお母さんだけだよ」
ソフィアだった。
「おお、もう大丈夫なのか」
ガストンは尋ねる。
「大丈夫じゃないと思われてるから、お休みもらえた」
「そうか。休みか。じゃあ、一緒に飯食った後、オレの膝の回復を頼みたい。昨日、がんばりすぎてガタがきちまった」
「じゃあ、うちに来て」
「で、今日はいったい何があるんだ?」
「あとで話す。ここは往来だから」
ソフィアが言う。
ララノアも何か知っていそうなそぶりだが、目を細め沈黙を守っている。
「なんだよ、お前たち。もったいぶってないで早く言えよ」
一足早く町に帰ったガストンは知らなかったが、ある巨大な計画が進められていたのである。
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